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国際人権ひろば No.117(2014年09月発行号)

NGOおじゃま隊

ワーキングホリデーを通して国際交流 -重症心身障害者を受け入れる支援施設「ゆうのゆう」

重い障害があっても街で暮らそう

 
 現在、日本には3万8000人ほどの重症心身障害者がいるとされている。重症心身障害者とは重度の肢体障害と重度の知的障害を併せて持つ人のことをいう。「社会福祉法人ゆうのゆう」の利用者のほとんどは、こうした重症心身障害者である。「ゆうのゆう」は、当初、無認可小規模作業所としてスタートしたが、2001年に社会福祉法人の資格を得る。現在、大阪市内に5カ所の支援施設をもち、合わせて125人の障害者が利用している。今回お邪魔した「デーセンター音・on」(大阪市港区)は2013年4月にオープン、「ゆうのゆう」のなかでは5番目の一番新しい支援施設。
 一般に福祉施設では重症心身障害者の受け入れに消極的であるが、「ゆうのゆう」では「重い障害があっても自分の街で暮らそう、地域で社会活動を」「障害の重さを家族の負担とさせない」という思いで、積極的に重症心身障害者を受け入れている。とくに特別支援学校を卒業した障害者や家族にとっては、「ゆうのゆう」のような存在は、まさに福音であろう。
 「ゆうのゆう」の取り組みがユニークであるのは、そうした重症心身障害者を受け入れていることだけではない。たとえば利用者への生活支援だけではなく、利用者とスタッフとが共同で作る「ビー玉アート」や「車いすダンス」など文化・芸術活動にも力を入れていること、また、リサイクルショップやフリーマーケットなど地域社会との積極的な交流活動を進めていることにも表れている。
 もう一つ、「ゆうのゆう」の活動のユニークさは、ワーキングホリデーという制度を利用して来日する外国人青年を1年間、スタッフとして受け入れていることである。今回、「ゆうのゆう」を訪問して、ワーキングホリデー・スタッフ(以下、外国人スタッフという)に「ゆうのゆう」に来た動機や、実際に体験した感想などをインタビューさせてもらった。
 現在、日本は、ワーキングホリデー制度について12の国・地域と協定を結んでいる。2013年に日本に新規入国した外国人のうちワーキングホリデーは9,132人であった。「ゆうのゆう」が外国人スタッフを受け入れたのは2000年。2013年までに8カ国136人を採用。韓国が75人と一番多く、ドイツ22人、フランス21人。きっかけを「ゆうのゆう」スタッフの大槻瑞文さんに聞くと、この制度を利用して来日する韓国人が、働く場がなくて帰って行くという新聞記事を見たことに始まり、それからは、様々な口コミでどんどん広がったという。
 利用者にとっては、なにより初めて触れる外国・外国人であり、日本人スタッフも、外国人スタッフが日本語が不十分であるというデメリットを、むしろ面白いと感じて受け入れるぐらいでなければ、ここでの仕事はできないと前向きにとらえ、彼・彼女たちを同じ職場の仲間として接しているという。
117号NGOおじゃま隊ビー玉ーweb.jpgのサムネール画像
ビー玉に絵の具を付けて、利用者とスタッフが一緒になって転がし描くビー玉アート。
 

 ワーキングホリデー・スタッフの声

 
 それでは、三人の外国人スタッフの声を聞いていただく。インタビューに応じてくれたのは、クラシック音楽を勉強して今は日本の作曲家・久石譲に興味を持つというユン・ジュンホさん(尹晙淏 韓国・大邱出身 27歳)、大学で日本語を専攻したリュ・ミンヘさん(柳珉惠 韓国・ソウル出身 26歳)、日本のアニメが大好きなドリーン・プロイエットさん(Doreen Proiettoドイツ・ハノーファー出身 20歳)。
117号NGOおじゃま隊3人-web.jpg
左から、ユン・ジュンホさん、リュ・ミンヘさん、ドリーン・プロイエットさん。
 
― なぜ日本に来ようと思ったのですか?
ユン ドイツに留学するためにドイツ語を勉強しようと思ったんですが、ドイツ語はむずかしくて、韓国語に近い日本語をまず勉強して、自信をつけようと思ったんです。それで、もっと日本語を勉強しようと日本に来ました。
リュ 大学では日本語を専攻していたので、実際に使ってみたいと思って日本に来ました。
プロイエット ドイツでも日本のアニメをやっていて、それで日本に興味を持ちました。それから日本語を勉強し始めて、日本にぜひ来たいと思っていました。
― なぜここを選んだのですか? 迷わなかった?
ユン 友達の紹介で来ました。いままでに経験したことのない体験をしたいと思って。韓国でも障害者へのボランティアをしたことがあったので、たぶん大丈夫だと思いました。
リュ 私も、知り合いの紹介です。私はあまり自信はなかったけど、韓国でもあまり経験できないことなので、やりがいがあると思って来ました。
プロイエット 私は、二人と違って、IJGD(国際青少年社会奉仕会)という組織を通じて日本に来て、IJGDの指示でここでボランティアとして働いています。幼稚園を希望していたんですが、障害者施設と聞いたときは正直ちょっとショックだったんです。でも、良い経験になると思い直して。それに絶対に日本に来たかったから。今はここに来てよかったと思っています。
― 普段はどんな仕事をしていますか?
ユン いろいろなことをします。食事をしたり、お茶を飲んだり、トイレに行ったり、遊んだり、それらを利用者と一緒にしながら、サポートをしています。
― 仕事は何時から何時までですか?
プロイエット ここは8時半から始まりますが、その前に来て準備をしないといけないので、もう少し早く来ています。3時頃から利用者が帰りはじめ、5時頃から掃除をして6時に終わります。
― 結構、ハードですね。
リュ でも、アッという間に時間が過ぎていきますよ。
― 利用者は何人ぐらいですか?
リュ 今日は14人です。
― 外国から来たスタッフは何人いますか。
リュ 昨日から一人(フランス人)増えて、4人です。
― 実際に働いてみて、困ったことや、逆に、やりがいを感じたことは?
ユン 最初は利用者とあまり仲良くなれなくて困ったんですが、次第に利用者から信用されるようになり、仕事にも慣れてくると、食事のサポートをするときでも会話をしながらできるようになりました。最初は、利用者を手伝うつもりでいたのですが、今では逆に、利用者からいろいろな良い影響をもらっているように思います。
リュ 言葉でコミュニケーションを取れない利用者もいるので、最初は何がほしいのか、何を考えているのかわからなかったんですが、この頃は言葉がなくてもわかるようになりました。最初は慣れなくて、自分の失敗で、利用者がケガをしたりすると、本当に心が痛みましたが、つらいときでも、利用者の笑顔を見ると、ホッとします。
プロイエット 私は逆に、日本語があまり上手じゃなかったので、話ができる利用者とコミュニケーションをとることのほうがむずかしかったり、不安だったりしました。それとトイレとか入浴の介助は、ちょっと……。でも、これは慣れるしか仕方ないですね。
ユン ワーキングホリデーで日本に来ても、できる仕事は、食堂とかコンビニぐらいしかないんですね。でも、そういうところと比べると、ここでの仕事はやりがいもあるし、人間的なつながりもできる。いろんな人といろんな話をするから、日本語もすごく上達すると思いますよ。
リュ 私はここに来てから、笑顔が多くなったと思います。それに前向きにもなれたように思います。
ユン そう、自然に笑顔が出てくるよね。
― 日本の食べ物はどうですか? 納豆は大丈夫?
プロイエット 納豆、好きですよ。
ユン 韓国の納豆は、もっと臭いがしますよ。
― 苦手なものは?
ユン ないですね。
リュ 大丈夫。
プロイエット 福島で原発の事故があったでしょ。だから、お魚はちょっと心配ですね。
― 日本人のイメージはどうですか?
ユン やさしいし、マナーもとてもいいですね。
― 本当のことを言ってもいいんですよ。(笑)
リュ 日本人スタッフを見てると、責任感も強いし、よく働くなあと思います。それと、買い物に行くと、よくこんな商品があるなあと感心します。
― それって、たとえば?
リュ アイデア商品だとか。(笑)
プロイエット 日本人はもっとベジタリアンなのかと思ってたら、意外とみんな肉、魚、食べますね。それと、日本の人は仕事、頑張ってますね。
― つまり、働き過ぎ?
プロイエット そう、そう。(笑)
― ありがとうございました。
 
(取材:金井宏司 かないこうじ)