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国際人権ひろば No.112(2013年11月発行号)

人権の潮流

台湾の国際人権規約「批准」と規約「審査」 -国際人権規約をめぐる近年の動向-

武田 美紀子(たけだ みきこ)
台湾国際専利法律事務所/台湾国際法学会常務監事

 2013年春、台湾政府は海外から10名の「独立専門家」を招聘し、国際人権規約「審査」を行い、「総括所見」が発表された。台湾にとっては初の人権の包括的な国際審査となる。本稿では台湾の国際人権規約をめぐる近年の動向について紹介したい。
 

 国連人権システムと乖離した台湾

 
 1971年、国連における中国代表権に関する総会決議2758が成立した。中華民国政府はこの決議に先立ち国連を脱退、以来台湾は国際社会において孤立し、国連とその人権機構から乖離した道を歩んできた。国内的には1949年に戒厳令が敷かれ1987年に解除されるまでの38年間、独裁政権の圧政と2・28事件や美麗島事件をはじめとする多くの弾圧事件に苦しんできた。1987年以降は次第に民主化が進み、2000年に国民党から民進党へ政権交代後、人権立国が模索されるようになってきた。
 

 国際人権規約「批准」と同施行法の制定

 
 台湾は中華民国として1967年に国際人権規約に署名していたが、批准手続きをしないまま40年が経過してしまった。2000年を前後して人権条約批准の動きが出て、行政院人権保障を考える専門家会議、同人権に関する法律を考える専門家会議が組まれ、2007年には女子差別撤廃条約を「批准」、同施行法が成立している。
 2009年3月、台湾立法院は国際人権規約法案及び同施行法法案を通過させた。6月に国連に批准書を送付するも、「中華人民共和国を唯一の合法代表とする」との理由で受け取りは拒否された。しかし、国内的には同年12月10日、国際人権規約及び同施行法が正式に施行された。施行法は台湾の国際社会における特殊性を考慮したもので、同法第2条によって規約が国内法の効力を有することになった。第6条には人権報告制度の設置、第8条には規約に反する規定は2年以内に法令制定、改正ないし廃止すること、を規定する。これに伴い政府は人権規約に反する法律の制定、改正・廃止を検討してきた。2012年には総統府人権諮問委員会が法務部の協力のもとに作成した人権報告書を発表した。民間から規約審査の機会を設けるべきとの強い要請があがり、その方式について官民で議論がなされ、最終的に独立した専門家を台湾に招請し審査することになった。
 

 国際人権規約「審査」

 
 国際人権規約「審査」は、2月24日から台北市内の公務人力発展センターで行われた。政府が招請した「独立専門家」は日本の安藤仁介教授をはじめ、P.オルストン、V. B.ダンダン, T.V. ボ-ベン, J. コーエン, S. ダイリアム, A. ジャハ-ンギール, M.ノワック, E.リ-デル、H.シン、の10名で、元国連人権専門家や現職、大学教授等で構成されるが全て個人の立場で参加した。24日に台湾総統出席のレセプションが開催された。翌25日から3日間に及ぶ審査は、社会権規約部門と自由権規約部門に分かれ同時進行で行われた。社会権規約はオルストンが、自由権規約はノワックが座長を務めた。政府審査前にNGOとのヒアリングがもたれ、分野別に調整を行ったNGO代表が次々と意見を述べた。続く政府審査には事前登録の幾つかのNGO代表は傍聴のみ許可された。審査室は100人程度の関係省庁役人が埋め尽くし、さらに別室に大量の人員を待機、質問返答準備に追われていた。審査会場に入れない者は別室中継モニターで審査を見守った。28日に非公開最終会議が行われ、翌3月1日に「総括所見」が公表され記者会見が行われた。
 手続き面では国連の審査形式に近づけようとしており、リストオブイシューズ(質問リスト)が事前に渡され、政府とNGOから回答が提出されている。NGOは政府報告に対してカウンターレポートも提出している。これらをもとに、「独立専門家」は政府に厳しい質問を投げかけた。政府審査を聞きさらに情報を提供するNGOも多かった。審査はすべてインターネット生中継された。
 この審査の主催は、総統府人権諮問委員会だが、法務部の法制人権部門が実務を取り仕切った。「選手が審判を兼ねる」方式に批判も多かったが、同部門の多大な努力は否定できない。政府代表団はその場で質問に答えられないと、別室で待機している担当者に確認して返答した。また、ニューヨークやジュネーブには赴くことができなかったであろうNGOも多数参加できた。当該国での審査というのは台湾の特殊性がもたらしたものであるが、今後国連の場でもこの方式が検討されてもよいと述べた「独立専門家」もいた。
 

 「総括所見」

 
 「総括所見」は全81項からなる。緒論(第1-7項)では、これまでの背景と規約が国内法となり報告制度を設置して規約遵守を監督することが義務となったと述べる。一般議題(第8-35項)では、国内人権委員会の設立、他の人権条約の早期の批准、法改正、条約の直接適用、人権教育、政策過程の透明化と市民の参加、企業責任、移行期の正義、ジェンダーと平等、先住民の権利について勧告する。第14項では、規約施行法により規約の位置づけが一般の法律より上、憲法より下になったとこと、司法判決における規約引用が極めて少ないこと、を指摘した。第15項では司法で社会権規約がほぼ引用されていない理由に政府は規約の非自動執行性を挙げたが、社会権規約の多くの規定は直接適用が可能であると指摘、政府の司法は予算の制約から社会権を扱いたがらないのではとの返答には、関連部門との交渉によって権利の保障と予算の配分を求めるとした。移行期の正義(第24、25項)では、戒厳令時代に起きた228事件など大規模な人権侵害の真相究明と補償を勧告している。先住民の項目(第30-35項)では先住民が多く住む蘭嶼島等に核廃棄物処理施設を同意なく設置したことを懸念、先住民の基本法の有効な執行と基本法に反する政策と行政措置を改めるよう強く勧告した。第36項から第55項は社会権規約に関するもので、第47項では社会問題となっている華光地区の住居強制立ち退きの代替住居を提供するまでの停止を勧告する。第56項から第80項までは自由権規約に関するもので、第56,57項では、台湾は、死刑制度が残る20か国の一つで、死刑廃止に向け努力し死刑執行の即時停止すべきと強く勧告された。過去3年の間に15件の死刑執行したことは規約違反に近く、自白に基づく死刑判決は減刑すべきであると勧告した。第81項では政府と民間の努力を称賛し今後の継続を鼓舞する。
 
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3.1「総括所見」発表記者会見(撮影:筆者)
 

 規約実現に向けて

 

 規約「審査」が終了してからまもない3月末、再開発に伴う華光地区の住民の強制立ち退きが行われた。4月には6件の死刑が執行された。短期間に「総括所見」に反する政府の行動が続き、規約「批准」は国際社会への単なるパフォーマンスだったのかと失望が広がった。現在も「総括所見」への関係機関の対応会議が続いている。歴史的「審査」を終えて7か月、台湾では小さな希望と大きな失望が交差している。台湾が国連機関による人権保障制度を利用できない以上、自国の力のみで条約の国内的実施を遂行しなければならない。第2回目の審査は4,5年後が検討されている。台湾が歩むユニークで険しいこの道のりに国際社会の強い関心と支援が欠かせないi
 
 
 
 
(注)
i: 独立専門家の詳細、政府報告書、総括所見は法務部以下のサイト参照
http://www.humanrights.moj.gov.tw/mp200.html、両公約監督連盟の以下のサイトも有益
http://covenants-watch.blogspot.tw/、日本語文献としては、張文貞「国際人権規範の実現への待望(台湾)」『法律時報』1046号(2012)81-85頁参照。

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