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国際人権ひろば No.104(2012年07月発行号)

ヒューライツ大阪の活動

韓国におけるジェンダー平等教育の成果と課題

 

 2012年6月2日に、ワークショップとトーク「ジェンダー平等をどう伝えるか―日韓の教育・啓発の実践と課題」をアジア・太平洋人権情報センター、大阪府立大学女性学研究センター、大阪府男女共同参画推進財団、ドーン運営共同体の共催でドーンセンター特別会議室にて開催した。
 プログラム1「参加型学習でジェンダー感受性を学ぶ」では、「ハラン性平等教育研究所」所長のカン・ソンミ(康宣美)さんが韓国の参加型学習の研修を披露した。
 プログラム2のトークのひろば「性平等社会をめざす教育・啓発の実践をふりかえる」では、大阪府立大学教授の伊田久美子さんのコーディネートの下、カン・ソンミさんと、日本からは、京都大学大学院教授の伊藤公雄さんが、日本のジェンダー平等をめざす教育について歴史をふりかえりながら成果と課題を報告した。紙幅の都合で、プログラム2のカン・ソンミさんの報告を紹介する。(編集部)
 
ワークショップ韓国ジェンダー平等教育2.jpg
 

女性学のスタートと大学時代が重なる

 韓国で女性学の関心が高まったのは、「国際女性年」でもあった1975年だった。梨花女子大でも女性学の研究や開講準備が始まり、1979年に女性学概論という科目がスタートした。講義を心待ちにしていた学生は、明け方から並んで待っていたという。筆者が入学した1975年は、民主化を求める学生デモで大学は閉鎖され、自主ゼミで海外のフェミニズムの情報を学んだり訳したりした。その後、全国的に女性学の研究が広がり、1984年に梨花女子大で最初の女性学の修士課程が設けられ、1992年に博士課程が設けられた。
 

ジェンダー平等教育を脈絡化するための作業

 韓国の人権運動は、男性が中心の政治運動という性格が強かった。しかし国際社会で「開発と女性」「ジェンダー主流化」「女性と人権」に関する理論が発展し国内に導入されて、DVや性暴力が、女性の人権問題として認識されるべき課題と位置づけられるようになった。また性平等教育を理解するには、自我発達の心理的理論が必要という認識も出てきた。しかし恋愛、子育て、夫婦の関係というものは、自分が住んでいる社会の文化の影響を受けていることを理解したり、人口構造や家族構造の変化を実感するのに時間がかかっている。私は、幼少の時からリーダーシップ・トレーニングをたくさん受けたが、ジェンダーを含めたリーダーシップ・トレーニングは新たに受けなければならなった。
 少子高齢化とジェンダー平等に関して、午前のセッションで出た意見の中で、国家は、常に経済的に成長、発展しなければならないのか?そのために国家による管理面から性平等の話をしているのではないかという意見があったが、韓国の女性学でもこの議論を重ねている。
 

講師に求められる専門性とは?

 韓国のジェンダー平等教育の講師養成において、必要とされる専門性を4点に整理した。まず様々な女性学の研究方法があることを理解すること。次に、社会的に構成されたジェンダー・人種・階級というものが、いかに女性にとって抑圧的なシステムになるのかを説明できること。3番目に、本で学んだ知識を抽象的に説明するのではなく、講師自らの生活体験に結びつけて語れること。4番目に、セックス・ジェンダー・セクシュアリティなど女性学の基本用語の定義ができること、である。特に3番目が大事なことと考えておりいつも強調している。
 

ジェンダー平等教育の制度化

 女性発展基本法の制定は1995年だが、ジェンダー平等教育の規定が法律に盛り込まれたのは2005年の改定時である。同法第23条3項に「特定の性に対し、不平等が発生しないよう、女性と男性に及ぼす影響を認識・反映する能力を向上する教育(以下、ジェンダー認知教育という)」と定義されている。2003年に設立した女性家族部(省)傘下の機関である「ジェンダー平等教育振興院」が進める教育活動がこれにあたる。具体例をあげるとセクハラ予防教育、性売買防止教育、児童性暴力予防教育、公務員ジェンダー認知教育、性教育及び性暴力予防教育などである。
 また、教育の範囲として、同法第19条 家庭教育、第20条 学校教育 第21条 生涯教育で言及されている。すべての教育の分野で実現されているのではないが、重要なことは、国と自治体においてジェンダー平等教育の実施に努めるよう義務づけられたということである。この20条と21条は、2008年になって改定された条文である。
 

法律と現実との落差

 私は、「ジェンダー平等教育」という用語を使うが、法律では、男性と女性という両性をいう「両性平等教育」を使っている。ジェンダー平等教育のほうが、性的指向もふくめたより広い概念であると思う。ジェンダー平等教育は、直接的にはヨーロッパや国連で使われているジェンダー・トレーニングから来ている。これらが西洋から輸入された言葉であると感じている人もいるだろう。ところで韓国で初めてジェンダー平等政策が導入されたのは、1983年の全斗煥(チョン・ドゥファン)政権の時である。国際的にジェンダー平等政策の関心が高まったときであり、こうした国際的な圧力が働き、国内で市民の信頼がない政権であっても、国家の位相を高めるために国際的な基準を受け入れるという政治的選択があったのであろう。市民の内側の要求から政策が作られたのではなく、外国から輸入したため、その必要性を市民が十分に理解していないというアイロニーが今も続いている。
 

市民や公務員に効果的なアプローチを

 ジェンダー平等教育には様々なアプローチ法がある。今回の日本では、ジェンダー平等教育がなぜ必要なのかに焦点をあてたプログラムを紹介したが、韓国の小・中・高校や一般企業などのジェンダー平等教育では、性教育やセクハラ教育、性売買防止教育などが中心になることが多い。
 自分自身の経験を率直に言うと、女性学を研究していたときは、西洋の理論をきちんと勉強してそれに従えばいいと思っていた。しかし市民や公務員には、学生に教えるようなやり方は通じない。「なぜ必要なのか?」から始め、その次に「どのように実践することができるのか?」最後に「それは何なのか」を学ぶという順番をふむべきである。
 

今後の課題

 成果としては、韓国内でジェンダー平等教育を制度化・義務化したことであり、ジェンダー平等教育について共通のコンセプトを確立したことである。限界としては、すべての教育領域においてジェンダー主流化はされていない。学校で、ジェンダー平等教育は、養護教諭が一年に10時間授業をすることになっているが、他の教科の教師がジェンダーについて全く知らないというのが現実である。
 また、性暴力事象は増加しており、それにストップをかけられないでいる。さらに断片的な知識を伝えるのみにとどまっている。それは、ジェンダーとは何かから始まるが、なぜ必要なのかを説明しない教育である。
 今後の課題は、資本市場のグローバル化をジェンダーの視点で見る力をつけ、市民が参加できる形で社会の変化をしなければならない。そのために教育内容をもっと洗練しなければならない。それは、対象者の日常の経験を研究し、ニーズに合った教育を開発することである。また自治体は、講師バンクを運営しているが、自発的で個々に違っていた教育内容を標準化し専門化する必要がある。
 

未来の自分たちの社会のために

 しばしば、市民や政策担当者は、ジェンダー平等教育は女性だけが受ければいいと考えているが、そうではない。韓国内で、女性の地位が急速に上がっていて、男性への逆差別だという声があるが、ジェンダー平等は、近い将来への備えである。過去と現在だけをくらべると女性の力が強くなったが、未来を考えると、ジェンダー平等のレベルはまだ低い。国際社会では、ジェンダー平等教育が、貧困退治、経済成長と民主的なガバナンス、持続可能な社会発展と環境等の目標達成に必要である重要な課題だと強調している。それは、フェミニストを育てる教育ではなく、持続的発展と行かなくても、社会を安全に維持するための教育であることを伝えたい。
(構成 朴君愛)