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国際人権ひろば No.104(2012年07月発行号)

特集 東アジアの都市の生活困難な人たちの現状と支援

社会的格差としてのホームレス問題 -香港におけるホームレス支援とその限界について-

ヒェラルド・コルナトウスキ(Geerhardt Kornatowski)
大阪市立大学都市研究プラザ・研究補佐

 

香港という中国の特別行政区都市

 もともと香港は、中国がイギリスに譲った都市国家として、英国植民地政庁の下で、戦後から著しい経済的発展を経過し、1997年中国に返還されたにもかかわらず、現在でも「東洋の真珠」という名称を付けられており、日本人にとっても、「百万ドルの夜景」といわれるなど有名な観光地として一般的に知られている。一方、こうした経済的発展によって得られた「富」は、実はその分配が非常に分極化しており、香港は現在先進国の中で最も貧富の差が大きい都市として知られるようになっている。
 香港における社会的問題や人権問題について語る時は、常に中国大陸からの移民者による人口へのプレッシャーを念頭に入れなくてはならない。これは戦争時にあった内戦による避難者から、60~80年代の経済的な移民、現在の家族再統合を目指す配偶者と子どもたち(=「新移民new arrivals」)を指す。その中で住宅市場や労働市場への平等なアクセスが最も問題であるわけだ。こうしたコンテクストで、戦後の貧困対策として、香港政庁は高度で大規模な公営住宅制度(現在住宅全戸数の約5割)を開発したが、こうした制度すらうまく利用できない、ホームレスも存在する。本稿では、香港におけるホームレス問題はどのようなものか、またはどのような支援があるか、どのような課題が残っているかについて簡潔に紹介したい。 
 

香港のホームレスとは誰か

 香港では、日本と同様に、90年代からホームレス数が徐々に増加し、97年のアジア金融危機による経済的な打撃、特に低賃金肉体労働者への影響で激増した。さらにこの頃、香港の公的扶助の見直しと財源抑制が進められ、支給要件が厳格化された。その結果、ホームレス数は2000年頃にピークを迎え、公式統計に対し、実際にはその2~3倍、3000名に近いと現場支援を行っていた支援団体によって推計されていた。しかし、こうした統計はあくまで路上生活者のみを意味し、「ホームレス」の一部なのである。つまり、香港では、公式的な表現として、野宿状態にあるホームレスは「路上生活者(street sleeper)」とよばれる。これは最も見えやすい形態のホームレスであり、路上で生活しているため支援のターゲットとしても認識しやすい。
 しかしながら、香港においてホームレスとは、路上生活者のみを指すのではない。ホームレスの2つめのグループは、「ベッドスペース宿泊者(bedspace lodger)」とよばれる。ベッドスペースは、不安定で老朽化した居住環境であり、ただ一人が寝るスペースがあるだけで、その他の個人的なスペースはなく、すべての設備は共用となっている(写真1)。その由来は60~70年代工場で数多く働いていた低賃金単身労働者向けの「寮」の役割を果たしていた賃貸住宅であり、現在でも最も安価な民間賃貸住居となっており、賃料は、宿泊者の平均賃金の4割にあたる。そして当然のことながら、このグループの大半は、路上生活とベッドスペースとを行き来している。
 
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写真1  三段ベッドスペース(ケージホーム)
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写真2  間仕切り部屋の様子
 

香港におけるホームレス施策

 ホームレス数の激増とそれに伴う公共空間(特に観光地)における可視化、そしてメディアによってセンセーショナルに取り上げられたケージホームの実態に対し、香港政府は2001年に「路上生活者支援の3ヶ年アクションプラン」を実施した。「官民協同による支援制度」という特徴を持ち、香港政府は支援団体(NPO)との積極的なパートナーシップを組み、シェルター(無料緊急一時宿泊施設)とホステル(日本の自立支援センターに近いが有料である)を軸にした自立支援プログラムを展開させた。ホステルという中間施設は、90年代後半に実施したベッドスペース宿泊者向けの居住支援に由来しており、ホームレスの両カテゴリーの共通点となっている。
 アジア金融危機後に作られたプランであったため、支援の目的として再雇用(再訓練)が最も強調されていた。香港経済もある程度回復し、この3ヶ年アクションプランは2004年成功裡に終了し、ホームレス数が1,000人を下回った。この成果をきっかけに、香港政府は路上生活者支援のサービス提供をすべてNPOに委託するなど、サービスの直接的な提供から手を引いた。その結果、パートナーシップを組んでいるNPOの支援が一本化し、新たな「ワンストップ・サービス」に割り当てられ、それぞれのNPOが、アウトリーチと緊急シェルター、ホステルをセットとした統一的なサービス提供を行うこととされている。つまり、現在はNPOが政府による資金を基に支援制度の全面的な運営を果たしていると言っても良い。
 

ホームレス支援におけるNGOの役割と影響

 以上のように、政府のホームレス対策の状況について、簡潔に整理したが、強調しておきたいのは、今日の支援システムが形づくられるなかでNGOが果たしてきた役割である。特にその中で、草の根の組織であるSociety for Community Organization(SoCO)は、早くから活動してきたNGOであり、ホームレス問題を人権問題として取り上げて、ベッドスペース宿泊者と路上生活者に対する公的な支援を要求してきた。ホームレスの調査および支援実績の両面で実態を明らかにすることによって、SoCOは政府に対して十分な政治的圧力を及ぼすことができたし、それによって政府による効果的な対応を引き出してきた。中間施設を提供する他のNGOも以前から、政策に代わる住宅のセーフティネット・システムを開拓してきた。今日では、合計10のNGOが、ホームレスの社会的復帰(=「自立」)に向けて、中間施設の運営や専門的支援の提供を行っている。これらの団体が当初から行ってきた取り組みや専門的技能が、その後のホームレス対策の制度化やホームレス支援のあり方に多大な影響を及ぼしてきたのである。
 

進化するホームレス問題

 現在の官民協同システム(ワンストップサービス)がうまく機能していることがあり、つまり居住支援(シェルター+ホステル)と再雇用支援、さらに公的扶助の提供が効率的に、素早く行なわれているため、新規の路上生活者はすぐ何らかのホームレス支援をうけることになり、長期的な路上生活者はもうほとんど現れない傾向になっている。しかし、こうした最も目に見えやすいホームレスは激減した一方、住宅困窮問題がさらに悪化しており、ホームレスは住宅困窮問題という形で進化しているといえる。この実態は2010年以降、特に火災事件により明確になっている。すなわち、高騰し続ける家賃や(賃貸)公営住宅の供給不足(または単身者への低い入居優先順位)に起因し、一つの低家賃アパートをさらに間仕切りし、非常に狭いスペースで、過密に居住するケースが増えており、許可なしで行われているにもかかわらずこうした住宅は市場化している(写真2)。もちろん、こうした問題は、分極化している労働市場にも深く関係している。これは、未熟練労働に対する低賃金で、日常生活に必要な経費も高騰しておるため、特に低賃金労働者の場合は住宅の確保だけではなく、生活の維持すら困難になっている。しかし、実際にホームレスの再雇用を見てみると、この場合も低賃金の仕事が最も多く、路上生活から脱却しても、貧困から脱却することは未だに難しい実態がある。
 こうした文脈で今後のホームレス支援はより幅広く、住宅問題・貧困・社会的格差にも配慮した取り組みが必要になっていると思われる。したがって、現在の政府とのパートナーシップがある一方、NPO間でより充実したネットワーキングが求められるであろう。

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