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国際人権ひろば No.94(2010年11月発行号)

特集1:国連人権活動と NGO 活動を学んだジュネーブ・スタディツアー Part 3

人権とジェンダーと自分に向き合った1週間

巽 真理子(たつみ まりこ)
大阪府立大学女性研究者支援センター

  私は、かつては子育て支援の NPO に関わり、いまは大学で女性研究者支援の仕事をしながら、ジェンダーと社会学を研究している。そのため、NGO がどのように国連と関わって、人権問題、特に女性問題を訴えているのかに興味があり、このスタディツアーに参加した。
 ツアーの中で、いろいろな人たちからお話を伺うことで、人権、ジェンダー、そして自分自身について向き合い、考えることができるという貴重な機会を得た。NGO との出会いを中心に、印象に残ったことを報告したい。

国連で活躍する NGO との出会い 

 反差別国際運動(IMADR)ジュネーブ事務所のスタッフ、白根大輔さんは、人権理事会での発言時間が迫っている中、時間を割いて会ってくれた。IMADR は、世界からあらゆる差別と人種主義の撤廃をめざして1988年に設立された、日本の国際人権 NGO である。
 今回の人権理事会では、フランス政府が、ロマの人びとや移動生活者・移民に対して、犯罪対策や治安維持という名の下、人種差別的政策をとっていることに対して、これらの政策を見直し、特にロマの人びとのルーマニアなどへの強制送還を即刻中止するよう、発言するとのことだった。
 白根さんは、自分の役割は国連と差別が実際おこっている現場をつなぐことであり、現場の意志を国連に伝え、国連で得たものを現場に返すように活動していると語った。これほど大きな活動をしているからには、スタッフがたくさんいるのだろうと思ったが、ジュネーブ事務所は白根さん1人だと聞き、驚いた。1人でこれほどの仕事をしていくのは大変だとは思うが、白根さんの自分の仕事に意義と誇りを持っている姿は、とてもまぶしく感じた。
 その後、白根さんにアレンジしていただいて、国際社会で、長年、女性問題を発言してきたフランス出身のジャーナリスト、ヘレン・サクステンさんとお話できた。彼女は今、国際的な NGO である INTERNATIONAL ALLIANCE OF WOMEN のコンサルタントをしている。
 私の「長時間労働が当たり前であるため、女性が研究を続けにくくなっている。この状況を変えるために、必要なものは?」という質問に対して、ヘレンさんに「男性も同じように長時間労働なら、それは女性問題ではなく、男女ともに共通した人権問題」と言われたことは、とてもショックだった。それは「女性支援」ということにとらわれ、大きな問題が見えなくなっていた自分自身に対する反省でもあり、自分の仕事が、考えている以上に大きな問題に向かっていかなければならないものであったことに対する恐れでもあった。

ジュネーブの移住労働者とジェンダー、そして働き方の違い

 もう一つ印象的だったのは、ジュネーブ州の外国人統合事務所の訪問。ジュネーブ州は、受け入れ先があることや EU 出身などの条件を前提に、移住労働が可能ということだった。「未登録の移住労働者は、どのような仕事をしているのか」と質問をしたところ、多くが南米からの女性で、個人の家で家事をしているとのことだった。一見平和にみえるスイスでも、他の国と同様に、貧しい国の女性が身の安全も保障されず、低い賃金(ひどい場合は、住み込みを理由に無賃金の場合も)の仕事についているということは、悲しい現実だ。
 その際、説明してくれたプロジェクト・コーディネーターのマティスさんが、移民支援の NGO の代表もしているということで、スーパーマーケットが廃棄する食糧を裏口に出しておき、未登録の移住労働者の人たちがそれを持ち帰っている、という現状を話してくれた。また、マティスさんは、ジュネーブ市の議員でもある。州職員、NGO、議員という3足のわらじをはいている人がいるということは、それだけ各々の仕事に余裕があることを証明していると同時に、現場を知っている人が、政策立案とその実現にも関わっているということでもある。支援政策と現場のニーズがすれ違っている日本と比べ、うらやましく思った。

大きなステップだった今回の旅

 また個人的な話だが、私にとって今回の旅は、子どもができて以来、12年ぶりの海外だった。1週間も家を空けることさえ初めてだったので、このスタディツアーに申し込むまで、かなり迷った。
 一番心配だったのは、子どもたちより、夫の反応だった。案の上、当初は「もっと子どもたちが大きくなってからにしてほしい」と反対だったが、「夫は当然のように、子どもを置いて海外にも行っているのに、どうして私はダメなの?そんなの、おかしい」と、私はあきらめなかった。そして、同居の義母が賛成してくれたことをきっかけに、最終的には私の希望を通した。
 実際に行って帰ってみると、夫と子どもたちの距離がかなり近くなり、私がなかなかさせられない「寝る前に部屋の中を片づける」ことも、しっかり子どもたちに習慣づけていて、夫の子育て上手な面を改めて発見できた。
 また今回のことで、夫も子どもたちも「ママがいなくても、自分たちでちゃんとやれる」と自信をつけたように思う。前は出張等で私が泊まりがけで留守にすることがあったら、「え~、ママいないの~!」と毎回大騒ぎだったが、その後は全く平気になった。「子どもの世話は母親でないと」という母性神話を崩すには、母親が外に飛び出すのが一番効き目があると、実感した。
 このように今回のツアー参加は、私にとっても家族にとっても大変覚悟のいるステップだったが、お互いに色々な意味で自信がついた。このような機会を与えてくれた家族に感謝したい。