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国際人権ひろば No.87(2009年09月発行号)

国際化と人権

新たな在留管理制度で、多文化共生は実現できるのか? ~自治体業務の視点から09年7月の入管法改定を読み解く

山田 貴夫 (やまだ たかお)
定住外国人の地方参政権実現を求める日・韓・在日ネットワーク事務局
川崎市職員自主研究グループHuman Rights Network世話人

はじめに


 日立製作所の在日朝鮮人への就職差別に対する裁判支援運動に関わり、川崎の在日朝鮮人との出会いを通して1972年に川崎市役所に入所した私は、最初の約10年間、外国人登録事務を、その次に住民登録事務を3年間担当した。外国人登録事務は、ばらばらな在留資格、指紋押捺制度、刑事罰の適用、警察からの照会事務の多さ、住民サービスに対応できない個人別台帳による管理など矛盾だらけで、これを改革していくことこそ私たち自治体職員の責務と感じていた。
 改革の方向は、住民基本台帳法の国籍条項(第39条)を撤廃する(外国人もその対象とする)だけで大半の問題は解決すると考えてきたが、今回の法「改正」により、外国人登録法は廃止されたが、その中身が出入国管理及び難民認定法(以下、入管法と略す)に移行しただけで、結論として在留管理体制の強化以外のなにものでもなかった。新旧法文の比較検討が十分ではないが、「改正」された点を確認しておきたい。

法「改正」の概要


  2009年3月、政府は入管法と、日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(入管特例法)、住民基本台帳法(以下、住基法と略す)の3法の「改正」案を国会に上程し、7月8日可決・成立させた。47年の外国人登録令以降、60年余にわたる外国人処遇の基本的な枠組みを変更する重要な「改正」案にもかかわらず、当事者、研究者・市民団体等からの十分な意見聴取や、法務委員会と総務委員会の連合審査もなく、それぞれ数回の委員会審議のあと、与野党による水面下の調整で採決し、法務省による"一元的"で"継続的"な「外国人在留管理」を徹底するものとなった。
 これは、人種主義に関する国連特別報告者ドゥドゥ・ディエン氏が06年1月に国連人権委員会(現在は人権理事会)に提出した日本への公式訪問の報告書における「政府はマイノリティ集団に関連して採択される政策や立法に関し、マイノリティ集団と協議すべきである」という勧告を無視するものである。

 「改正」点のポイントは、
(1)適法な在留資格を持つ特別永住者以外の「中長期在留者」に「在留カード」を交付し、
(2)「中長期在留者」の所属機関等に外国人の動静を逐次報告させ、
(3)外国人を住基法の適用対象に加えて入管法と連動させ、
(4)「在留カード」も外国人台帳もその対象は適法な在留資格を持つ外国人とし、非正規滞在者を排除したことと指摘できる。  
改正入管法によって外国人は、
① 特別永住者証明書を交付される特別永住者(=旧植民地出身者とその子孫、特別永住者証明書の常時携帯義務は修正案により削除)、
② 在留カード所持者(3カ月以上滞在する適法な在留資格を有する「中長期在留者」(=現行の在留資格別表第1・第2の24種類の在留資格者)、
③ 在留カードを交付しない3カ月以下の観光等の短期滞在者および外交・公用とこれに準ずる在留資格者、
④ 在留資格を有しない非正規滞在者、
に4分類され、このうち上記①と②の外国人及び一時庇護許可者、仮滞在許可者が外国人台帳の対象になる。以下、具体的に見ていきたい。
 

在留カードによる"一元的"で"継続的"な「外国人在留管理」


 新規入国する外国人を例として考えてみよう。まず、入国審査において、外交・公用、特別永住者、16歳未満、行政機関の招請する人等以外の全ての外国人は、今回の「改正」前の入管法に基づき指紋と顔写真をとられたうえで(07年11月以降)、在留資格と在留期間を決定され、新たに「在留カード」を交付される(受領義務、常時携帯義務、提示義務あり)。
 居住地が定まると14日以内に居住する市区町村に届け出て「在留カード」に居住地を記載してもらう(以後、居住地変更の場合は市区町村に届出、違反は1年以下の懲役または20万円以下の罰金)。在留カードには顔写真のほか偽変造防止のICチップが登載され、第19条の4は、「在留カードの記載事項は、次に掲げる事項とする。
① 氏名、生年月日、性別、国籍、
② 居住地、
③ 在留資格、在留期間、在留期間満了日、
④ 許可の種類、その年月日、
⑤ 在留カードの番号、交付年月日、満了日、
⑥ 就労制限の有無、
⑦ 在留資格外活動許可を受けている時はその旨」
と定めている。
 またこの他、第19条の16(所属機関等に関する届出)で上記項目のほか、「在留資格の区分に応じ、当該各号に定める事由が生じたときは、当該事由が生じた日から14日以内に...法務大臣に対し、その旨及び法務省令で定める事項を届け出なければならない」とされ、19条の17(所属機関による届出)では「別表1の在留資格をもって在留する中長期在留者が受け入れられている本邦の公私の機関その他の法務省令で定める機関は...法務大臣に対し、当該中長期在留者の受入れの開始およびその終了その他受入れの状況に関する事項を届け出るように努めなければならない」と定めた。
 具体的に言うと、第19条の16は外国人本人から、第19条の17は、別表第1の在留資格(教授、芸術、宗教、報道、投資・経営、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術、人文知識・国際業務、企業内転勤、興業、技能、文化活動、留学、就学、家族滞在、特定活動)を有する外国人の所属機関(私企業・公共団体、報道機関、宗教団体、研修・技能実習生受入れ機関、日本語学校、大学、専門学校など)は、外国人を個人別に、①機関の名称、所在地の変更もしくは消滅又は当該機関からの離脱もしくは移籍、②当該機関との契約の終了もしくは新たな契約の締結、③配偶者との離婚または死別等を、全国の支局・出張所を含め76か所しかない地方入管局に逐次報告しなければならない。 このような義務を課して、第19条の18(中長期在留者に関する情報の継続的な把握)では、
1 法務大臣は、取得した中長期在留者の氏名、生年月日、性別、国籍の属する国、住居地、所属機関その他在留管理に必要な情報を整理しなければならない。
2 「法務大臣は、前項に規定する情報を正確かつ最新の内容を保つように努めなければならない」と定めた。この前例は2007年10月施行の改正雇用対策法に見出すことができる。

今後の課題


 以上の「改正」は、外国人本人からも、外国人管理に全く無縁であった教育機関、企業、宗教法人等の所属機関からも外国人の動静を逐次報告させる「日本国民による外国人監視社会」が透けて見える。地方自治体も外国人台帳について、記載、消除または記載の修正を法務大臣に報告し(61条の8の2)、法務大臣は市区町村の外国人台帳に「変更があったこと、又は誤りがあることを知ったときは...市区町村に通知」する。在留資格の取消しの通知は、外国人台帳の消除を求めることになる。居住の事実があれば住所設定し、事実がなければ職権消除するのが住民登録の基本であり、これでは自治の主権者の名簿であるべき住民登録が入管体制下に従属させられることになる。
 施行までの3年間に、今度は自治体が人権意識・人道主義に基づいて、多文化・多民族共生社会にふさわしい住民台帳のあり方を構想する番となった。以下、最後に検討課題を列挙しておきたい。

① 非正規滞在者をundocumentedpeople(記録なき人びと)としないために、在留カードを所持しない外国人についても、自治体独自の判断に基づき、旅券などによって本人確認をし、外国人台帳の対象者とすることを追求してほしい。地方自治法第10条、13条2や住基法第3条「住民に関する正確な記録が行われるように努めるとともに、住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずる」のが自治体の本来業務である。

② 公開が原則とされる住基法に外国人台帳が組み込まれ、在留カードおよび特別永住者証明書につけられる番号が、マスターキーとして名寄せがなされると、市町村在住の外国人リストが作成でき、閲覧が可能になると予想される。差別禁止法が制定されていない現在、このリストは差別台帳として機能し、また、プライバシーが不当に侵害される恐れがある。

③ 現行の外国人登録証の常時携帯・提示義務と違反者への刑事罰の適用について、国連自由権規約委員会は再三(93年、98年、08年)にわたってその廃止を勧告しているのもかかわらず、これを無視し、在留カードに変えて維持しようとしている。08年の自由権規約委員会の総括所見は「勧告の多くが履行されていないことに、懸念を有する。締約国(=日本)は、今回及びこれまでの総括所見で委員会によって採択された勧告を実施すべきである」としている。日本人には課せられない上記の義務と罰則を外国人にだけ負わせるのはまぎれもない"差別"ではないのか。

④ 08年3月の住基ネット最高裁判決では個人情報の一元的管理とデータマッチングは許されないと判示されたが、外国人には許されるのだろうか。上記③の場合と同様、その必要性について合理的、客観的な理由の明示を求めたい。

◇参考文献
「外国人登録事務 過去、現在、そして未来は?」
 (人権と生活vol.25 07年冬号、在日朝鮮人人権協会)
『「管理」から「住民サービス台帳」に』(RAIK通信 第114号 2009年7月25日号、在日韓国人問題研究所)