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国際人権ひろば No.86(2009年07月発行号)

NGOおじゃま隊(第2回)

ひとりで悩まず電話して~一緒に探そう生きる道

NPO法人国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センター

 警察庁発表によると、日本で2008年1年間に自ら命を絶った人は32,249人。11年連続で3万人を上回った。自殺の危機と直面している人たちに対して、24時間体制で感情的な支えを提供している市民団体がある。過去30年以上にわたり、電話を中心に相談を受けている自殺防止センターもそのひとつである。同センターは、ヒューライツ大阪のあるpiaNPOの同じ3階の事務所で活動している。所長の澤井さんにお話をうかがった。

インタビュー:澤井 登志(さわい とし)さん

傾聴とビフレンディングで臨む電話相談


 自殺防止センターは、1978年に「関西いのちの電話」のメンバーの一部が、自殺防止を目的に特化して設立しました。英国で自殺防止に取り組んでいる相談機関「サマリタンズ」を中心とする世界約40カ国で活動する「国際ビフレンダーズ」に加盟してネットワークを広げました。1991年、団体の名称を現在の「国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センター」に改称し、2000年3月に特定非営利法人の認証を受けるに至りました。
 私たちの基本的な活動の柱は、24時間の電話相談と、自死遺族の会「土曜日のつどい」、「水曜日のつどい」です。
 電話相談は、ボランティアが交代しながら毎日24時間、相談を受け付けています。電話をかけてくる人たちには、死にたいと生きたいという気持ちが同居しています。私たちは、悩みに十分耳を傾け、辛くて仕方のない気持ちを受け止めることを心がけています。つまり、決して批判することなく、その人の気持ちを無条件に受け入れて、共感し受容する態度で「傾聴」するのです。そして、電話でのやりとりを通じて、上でも下でもない立場から、肩を貸したり借りたりといった友だちのような関係をつくる、つまり「ビフレンディング」の姿勢で接することを念頭に置いています。
 そうした姿勢を保ちながら、私たちは自殺の意思について明確に尋ねています。
それは、
①死にたいほど辛い気持ちをしっかりと受け止める
②死にたい気持ちを十分に話してもらう
③現在の危険度を確認する
という目的のためです。
 自殺の意思を尋ねることが、悩んでいる人の気持ちを追い込むのではないかと思われるかもしれませんが、そうではありません。死にたい気持ちを家族や親しい人には伝えられなかったり、伝えたとしても、「死ぬことを考えてはいけない」と言われると、自分を否定されたと落ち込み、誰にもわかってもらえないという孤独感に陥ってしまいます。
 自殺の意思を尋ねる際、その辛い気持ちをとにかく受け止めるのです。「死にたい」と言葉に出すことで、重い気持ちを吐き出し、少しでも心を軽くすることが大切だと思います。そうしたやりとりを通じて、本人が、人生の選択肢は自らの命を絶つことだけではなく、自分で生きる道を再び考えはじめるという変化を期待しています。40~50分くらいのあいだ話を聞いて、電話を切る前に「きょうは自殺するのを止めておくわ」と聞くとほっとします。

匿名で受付けて秘密は厳守


 相談内容は、秘密厳守が鉄則なので、具体的なやりとりについてはお話しできませんが、2007年の延べ相談数12,843件のうち、精神疾患が5,495件(45%)と最も多く、その内容は周囲の無理解を訴える方が多いです。次に多いのは、生きる意味を問うといった人生に関することが1,930件(15%)、家族・夫婦関係が1,855件(15%)、対人関係が897件(7%)と続きます。
 性別では、自殺者数は全国的にみて70%前後を男性が占めていますが、電話をかけてくる人は女性のほうが少し多いです。男性は女性に比べて、誰にも相談せずに孤独に悩む傾向があるのではないかと思います。
 電話を受ける際は、かけてきた人が自ら名乗らない限り匿名のまま、住居地も聞かないで対応します。しかし、「いまリストカットをしたところです」「大量に睡眠薬を飲んだばかりです」といったびっくりするような緊急事態に陥って電話をかけてくる人もなかにはいます。そういうときは、止血の指示や救急車を呼ぶよう促すか、または助けを呼ぶよう促すなどのとっさの対応をします。
 匿名相談を受けていることから、追跡調査はほとんど不可能です。なかには、「最近は落ち着きました」「話を聞いてもらったおかげで踏みとどまりました」といって再び電話をかけてくる人もいます。それを知ると、心を開いて話してもらい、私たちが耳を傾けたことがお役にたったのだと安心するし、活動を続けていてよかったなと感じます。
 一方、自殺を決行する固い決心のもと、最期の気持ちを伝えようとかけてきたのではという人もいます。電話を切ったあと、その人が実際のところどうなったのか、少数の例外的なケースをのぞいてわかりません。自殺の強い気持ちが変わらない場合もありますが、そういう気持ちも含めご本人の思いを尊重します。こういう時は聞いている私たちは、やるせない気持ちになります。

減少するボランティア相談員


 私たちの活動は、ボランティア相談員が交替で支えています。30年前に約40人ではじめ、阪神大震災後にボランティアへの関心が高まった頃は100人まで増えました。しかし、その後徐々に減り続け、現在は60人弱となりました。1996年に24,000件を超えた電話相談は、2008年は受け手が減ったため11,000件へと減少しました。ボランティアは、性別を問わず20歳から65歳までを年齢要件としていますが、約7割が女性です。ただ、毎日の仕事を持っている人も多く、24時間稼働させるためのローテーションを組むのが難しくなっています。
 相談員は、2~3ヵ月かけて行う有料の12回の「ボランティア養成講座」をはじめとする専門的な研修を受けてから活動に加わります。無報酬で、交通費も自己負担です。10年以上続けている人もいれば、養成講座を受けたものの活動に加わらない人もなかにはいます。ボランティア活動が多様化していることも減少理由のひとつではないでしょうか。確かに、相談を受け続けていると感情移入して、相手のしんどさを受けとめきれないような重い気持になることがあります。そのしんどさを軽減するための研修や話し合いを行うのも、持続的な相談活動にとって大切なことです。
 私の場合は、かつてカウンセリングの勉強をしていました。そこで何かボランティアをしようと、自殺防止センターのボランティアに応募したのがきっかけでした。1998年以来、相談員を続けています。2007年にディレクターに着任しました。

土曜日のつどい


 家族が自殺すると、どうして助けることができなかったのか、と耐えられないほどの自責の念に苦しんで、自分も死にたいという気持ちにさいなまれる人たちが多くいます。亡くなった理由を明かすこともせず、私たちの想像をはるかに超えるほど苦しんでおられる人たちもいます。センターの自殺防止活動の一環として、そうした遺族が心を開いてありのままの気持ちを語り合う場所を提供しています。毎月第一土曜日の午後2時から4時まで、pia NPOの会議室を借りて開催しています(1月と5月は休会)。
 そこでは、私たちスタッフがカウンセリングをするわけではありません。参加者に順々に体験や気持ちを語り合ってもらうのです。それを通じて、ほかの人も同じように辛い思いをしていて、自分だけが苦しんでいるのではないと知ることができます。それがわかるだけでも、気持ちがやわらいでゆきます。私たちはそのあいだそばにいるけれど、口をはさみません。
 そうして、徐々に気持ちが落ち着いてきたら参加されなくなります。また、何年かたって来られることがあります。20年たっても、30年たっても気持ちが安定しないという人もいます。ひとりで参加する人もいますが、夫婦でとか子どもさんとか同じ家族から2人で来られることもあり、毎回20数名くらいの集まりとなります。

 自殺は、だれにとってもいつ直面するやもしれない問題です。自殺やセンターの活動について、私は講演会に呼ばれることがありますが、家族を自殺で亡くされた人もしばしば参加されています。そこで思うのですが、遺族が集まる場だけに来て話すのではなく、亡くなった家族のことを普段の生活で話せるような社会になればいいなとつくづく感じます。

NPO法人国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センター


24時間電話06-4395-4343
事務所 〒552-0021 大阪市築港2-8-24 piaNPO309号室
事務局の電話:06-6251-4339 Fax:06-6243-1199
ホームページ:http://www.spc-osaka.org

(インタビュー&構成:藤本伸樹・ヒューライツ大阪)