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国際人権ひろば No.84(2009年03月発行号)

人権さまざま

笛吹けども踊らず?

白石 理 (しらいし おさむ)
ヒューライツ大阪 所長

 不況の嵐が吹き荒れ、仕事や住処を失い、生きていく最低の条件まで危うくなる人が増える。「生き残り」のために企業は人減らしをする。政治の対応は遅々として進まない。人を人として大切にせず、人権を護らないことがいかに社会を崩していくことになるかスローモーションで見る映画のように、まるで尽くすべき手立てもないかのように見せつけられている思いがする。

 人権に興味を持つ人が少ない。人権教育に取り組む学校が少ない。国も行政も人権問題に真剣に取り組まない。人権に対して無関心どころか、敵意まで見せる社会。人権にかかわってきた人たちがしばしば持つ危機感がある。聞く気のない人たちに接して、「今の世を何にたとえたらよいか」と問うイエスをおもう。「笛吹けども踊らず」とはその時に発せられた言葉である。聖書に出てくる話である。辞書には、「あれこれ手を尽くして誘ったり勧めたりするのに、それに応じようとしないこと」とある。

 人権のための働きは大洋の水をストローで吸い上げるようなもの、いつ結果が出るのか、終わりの見えない仕事であるという人がいた。これを聞いた時、言い得て妙だと思った。結果の出ないことはやめ、役に立つことをすべきであるとして、2009年度からアジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)に対する補助金を廃止すると決めた大阪府と大阪市。あの決定が伝えられたとき、その存在意義とこれまでの貢献が理解してもらえなかったという口惜しさを感じた。今は、変革する好機と考えている。何事も前向きが大切である。

 ヒューライツ大阪は今、その掲げてきた目標を再確認し、社会の状況に応えるため新たな体制を整えて事業の見直しを進めている。職員が議論を重ねる中で、私の中に冒頭の聖書の言葉「笛吹けども踊らず」がよぎった。ただし、それは疑問符「?」付きである。人がヒューライツ大阪の意義も貢献も認めないのは、「笛吹けども踊らず」ということなのか。人権情報センターというのは、情報収集、情報伝達を専門とする。人権を伝える努力は十分であったのか。人権に対する興味、人権の理解そして人権事業に対する支持が得られない時に、伝える相手のせいにしてはいないか。「これでは『笛吹けども踊らず』じゃないか」と。謙虚な反省を含めた見直し作業の中で、まず取り上げたのが、ヒューライツ大阪のホームページの活用強化と、見やすく、読みやすく、検索のしやすい、使う人のニーズに応えるものにすることであった。人権の情報とメッセージを伝える強力な道具としてのホームページを目指すことにした。また、広く、多様な、多くの人との接触を通して開かれたアプローチをとり、人と組織のネットワークづくり、事業を進める際の協働関係の強化に努めることの大切さも確認した。種々の専門知識、経験を持つ人、団体とつながることは、とりもなおさず、ヒューライツ大阪の可能性を広げることにもなる。さらに、今人権を脅かされている人々に対する支援をヒューライツ大阪独自の貢献として進めたい。

 そのようなときに、ニューヨークの国連事務局から知らせが入った。1月に開かれた経済社会理事会NGO委員会の決定で、ヒューライツ大阪を特殊協議資格を持つ非政府組織(non-governmental organization-NGO)として経済社会理事会に推薦する由。7月に開かれる経済社会理事会の2009年度会期で正式に決まるという。ヒューライツ大阪のこれまでのアジア・太平洋地域の人権保護促進のための貢献や国連との事業協力の実績が評価されたのであろうか。危機を乗り切ろうとしているヒューライツ大阪にとっては力強い励ましとなる良い知らせであった。

 国連経済社会理事会の協議資格を持つNGOと認められれば、国連人権理事会をはじめ、人権関係の会議にオブザーバーとして参加でき、書面で、また口頭で意見を述べることができる。国連憲章第71条は、国連経済社会理事会と協議するNGOの貢献を規定する。これまで60年余りの実績をみると、特に人権の分野でのNGOの役割は、国連にとってなくてはならないものになっている。1993年の世界人権会議で採択された「ウィーン宣言および行動計画」や2000年9月に世界の首脳が集まって採択した「国連ミレニアム宣言」などでは、NGOの役割と貢献の重要性が繰り返し述べられているが、これは決して実体の伴わないお世辞ではない。実際、国連の人権関係の会議ではNGOが世界中から集まる。国連にとって貴重な人権情報源であり、協議を通して専門分野での協力ができるパートナーでもある。

 ヒューライツ大阪が、アジア・太平洋地域からのNGOと協力して、国連の場でアジア・太平洋の視点から国際人権分野での貢献ができればさいわいである。それと同時に、国際人権の新たな発展をつぶさに日本社会に伝える役割をより有効に果たしていくよう努めたい。そして近い将来、笛を吹いたら多くの人によろこんで踊ってもらえるような人権情報センターになることを目指したい。