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協議モデルから参加モデルへ―開発(発展)の権利に関する特別報告者が指針を提示(7/17)

 開発(発展)の権利に関する特別報告者、スーリヤ・デヴァ氏は「開発への参加:開発の権利を真剣に受け止める」と題する報告書(A/HRC/63/32)を2026年9月~10月の国連人権理事会に向けて提出しました。

 報告書は、経済開発に関する意思決定における「積極的で自由かつ意味のある参加(active, free and meaningful participation)」の意味を明らかにし、地方、州・省、国、地域的枠組み、国際の各レベルにおける人びとやコミュニティの参加について検討しています。また、参加のための前提条件を示すとともに、国家、国内人権機関、国連機関、多国間開発銀行、企業、市民社会組織を対象とした指針を附属文書として提示しています。

「積極的で自由かつ意味のある参加」とは

報告書は、開発の権利は受動的な人権ではなく、人間は開発の権利における「積極的な参加者」であり、開発の権利は結果だけに焦点を当てるものではなく、開発のプロセスも同じように重要であると述べています。しかし、特別報告者は、開発に関する政策、プログラム、プロジェクトについて、トップダウン型の意思決定や、形式的な協議が行われる例を数多く目にしてきたと述べ、国家や企業など開発における意思決定主体が「人間中心の開発」を掲げている場合においてさえも、人びとの参加が欠けていることがあり、参加の欠如が包摂的でも持続可能でもない経済開発につながっているとしています。

開発の権利を実現するためには、開発に関するすべての政策、プロセス、プログラム、プロジェクトへの人びとの参加が「積極的(active)」「自由な(free)」「意味のある(meaningful)」ものでなければならず、この三つの要素は相互に結びつき、相互に依存しているとしています。

  • 「積極的な参加」とは、国家や企業など開発における意思決定を行う側が、人びとの主体性を認識し、人びとが決定に影響を与える機会と、それを可能にする環境を提供することです。開発プロジェクトについて原則的な決定がすでになされている場合や、人びとの役割が国家や企業による提案に対して意見を述べることに限られている場合、積極的な参加とはみなされません。人びとやコミュニティ自身が、開発ガバナンスについて自らの見解や提案を示すことが含まれます。
  • 「自由な参加」とは、人びとが自らの意思に従って自発的に行動できることです。自由な意思に基づいて参加するためには、貧困や構造的差別などによる障壁を除くこと、また、嫌がらせ、威嚇、力の行使、強制、恐怖、圧力、欺罔(ぎもう)、虚偽の説明、意図的な誘導などの外的な制約がないことが求められます。
  • 「意味のある参加」とは、人びとが自分たちに影響を与える決定のプロセスと結果の双方を形づくる力を持つことです。そのためには選択肢があること、意思決定に先立って関与することができること、そして提案に対して「ノー」と言う権利が認められることが必要です。十分な情報に適切なタイミングでアクセスできなかったり、周縁化された集団や脆弱な状況にある人びとを含めた包摂性が確保されていない場合、意味のある参加とはいえません。

参加がもたらす価値、「協議」との違い

特別報告者は、参加には、コミュニティの知識や多様な経験を開発に反映させることで包摂性や持続可能性を高めるとともに、人権や環境への潜在的な害を早期に発見・予防するなどの価値があるとし、参加と「協議(consultation)」との違いを強調しています。

 「協議」においては、誰に、いつ、どこで、どのくらいの期間、どの問題について意見を聞くのか、また、集めた意見のうち何をどのように考慮するのかについて、国家や企業など開発における意思決定を行う側が権限を持つことが多くあります。また、原則的な決定がすでになされた後に行われることが多く、協議に関与する人びとが決定を変更する余地がほとんどない場合があります。その結果、協議は形式的なものとなり、実際の意思決定に対する影響が小さくなることが指摘されています。

 これに対して参加は、人びとの主体性を認識し、権力を共有し、開発に関する政策、プロセス、プロジェクトについて共同で意思決定する、より水平的な意思決定の構造を求めます。参加では、人びとやコミュニティが国家や企業などによる提案に意見を述べるだけでなく、開発ガバナンスについて自ら提案することができます。

 

参加を実現するための条件

 報告書は、積極的で自由かつ意味のある参加を実現するために、コミュニティ内で議論を尽くし適切なフィードバックができるように開発に関わる意思決定の早い段階から人びとを関与させること、また、現在の世代および人間中心の視点からだけではなく、まだ生まれていない将来世代や非人間である自然の利害を反映できるような関与のあり方が必要であるとしています。

 さらに、「ライフサイクル・アプローチ」を採用し、開発に関する政策、プログラム、プロジェクトは、①構想―②承認・採択―③実施―④監視・見直しー⑤終了という五つの段階のすべてにおいて個人やコミュニティの参加を組み込むべきだとしています。

 参加に先立って、関連する情報をアクセスしやすい形式で提供することも必要です。情報は正確で客観的かつ、開発政策やプロジェクトが人びとと地球にもたらす利益とリスクをジェンダー別に分析した上で明確に示すべきとしています。また、過度な専門用語の使用を避け、視覚的なコミュニケーション手段を用いることもアクセスしやすさにとって重要です。

 また、開発をめぐる意思決定の影響を受ける人びとを権利保持者(rights holders)として認識し、権利保持者の参加なしには開発をめぐるいかなる決定もくだすべきではないという原則を示しています。とくに、女性、子ども、民族的/宗教的/言語的マイノリティ、農村の人びと、貧困に置かれている人びと、無国籍者、国内避難民、移民、難民、障害者、高齢者、先住民族、LGBTIQ+の人びとなどについて、複数の差別や排除が重なっている状況を考慮しながら、参加への障壁を取り除くための積極的な措置が必要だとしています。

 そして、市民社会の活動空間は、包摂的で持続可能かつ平和な開発を確保するうえで基本的なものとされ、スラップ訴訟[1]に対処する法律の制定や、人権擁護者の保護も求めています。人権や環境について正当な懸念を示すコミュニティや市民社会組織を、「反開発」あるいは「反国家」と呼ぶことも避けるべきだとしています。

 特別報告者は、参加に関する基準に違反した場合の救済制度をあらかじめ組み込む必要があると述べ、救済制度には開発の差止命令、新たな参加型過程が実施されるまでの事業停止、公的な謝罪、再発防止の保証、情報開示命令、損害賠償、リハビリテーションおよび原状回復などが含まれるとしています。

地方から国際レベルまで

 報告書は、参加は開発ガバナンスのすべてのレベルに関係するとしています。地方、州・省、国、地域的枠組み、国際の各レベルにおいて、国家だけでなく、多国間機関、企業、市民社会組織などが関わります。

 地方では、開発事業の構想・設計段階から、影響を受ける人びとやコミュニティが参加できるようにすることが求められ、国レベルでは、政府が一方的に開発の方向性を決めるのではなく、人びとやコミュニティによるボトムアップの意思決定を促進することが重要となります。

地域的枠組みや国際レベルでも、国境を越える開発、貿易・投資、エネルギー、インフラ、金融などに関する決定に、関係する人びとやコミュニティが参加できることが必要です。しかし、国連安全保障理事会、世界銀行、国際通貨基金、世界貿易機関などの現在の意思決定過程は、過去の植民地支配に根ざした構造的不平等を再生産しており、個人やコミュニティの平等な代表参加を損なっていると特別報告者は指摘しています。

特別報告者は、国際機関などの意思決定における不平等な権力構造の改革とともに、国際機関が権利保持者やコミュニティ、市民社会組織と直接関わることを求めています。

 報告書は、国家、人権機関、国連機関、多国間開発銀行、企業、市民社会組織それぞれについて、参加を実現するための具体的な指針を附属文書にまとめています。

 特別報告者は、開発の権利を真剣に受け止めるには、人びとやコミュニティの「積極的で、自由な、意味のある参加」を保障することが不可欠だと結論づけています。そして、すべての開発関係主体に対し、従来の「協議」から、人びとやコミュニティが自らの発展のあり方を選択し、決定を形づくる「参加」へと移行するよう求めています。

【出典】

A/HRC/63/32
https://docs.un.org/en/A/HRC/63/32


[1] 「市民参加に対する戦略的訴訟(SLAPP: strategic lawsuit against public participation)」のことで、人権や環境に対する不正義について公に声を上げた個人や組織に対する国・企業等による報復的な刑事・民事訴訟を指す。

(2026年10月09日 掲載)