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シネマと人権28:冤罪が作り出す悲しみと、それを乗り越える力-「うそがほんとに ほんとがうそに」

小山 帥人(こやま おさひと)
ジャーナリスト

ふたつの冤罪事件、石川一雄さんと袴田巌さん
 冤罪が後をたたない。
 この映画は長年、冤罪をテーマにドキュメンタリーを作ってきた金聖雄(キム・ソンウン)監督が、「狭山事件」の石川一雄さんと、「袴田事件」の袴田巌さんの2人を中心に、冤罪事件の構造、再審をめぐる闘いを追ったものである。
 1963年5月に埼玉県狭山市で起きた女子高校生殺人事件では、警察は付近の被差別部落を見込み捜査し、石川一雄さんを逮捕した。石川さんは身に覚えがないとして無実を主張したが、長時間にわたる尋問に屈し、嘘の自白をした。一審の判決は死刑。この嘘の自白をしてしまったことは石川さんにとって生涯の悔いであり、自らを鞭打つように、無実への闘いを進めた原点であるように思える。
 思えば筆者も1974年10月、東京高裁の判決の日に日比谷公園での集会に参加した。万年筆などの証拠がでっち上げられた疑いが強く、無罪を期待したが、結果は有罪、無期懲役の判決だった。怒りの声が渦巻いたのを覚えている。

ついに再審で無罪を勝ち取った袴田巌さん
 「袴田事件」は1966年、静岡県の味噌製造会社役員の一家4人が殺害されて放火された事件で、同会社の元従業員の袴田巌さんが逮捕された。過酷な取り調べによって「自白」をし、1980年に最高裁で死刑が確定する。袴田さんは無罪を主張するが、死刑囚として長期に収監された。しかし再審の結果、2024年に最高裁は、証拠品は捏造だとして、袴田さんに無罪判決が出した。袴田さんを長く支えた姉のひで子さんが「裁判長の『被告人は無罪』というのが神々しく聞こえましたの。私は感激するやら、嬉しいやらで涙が止まらなかった」と語る姿が胸をうつ。またその後の集会で石川さんが1日1本と決めたタバコを吸うスローモーションのシーンが心に残る。石川さんは2025年3月に亡くなり、この映像が最後の姿になった。「次は自分だ」と再審無罪を目指しながら亡くなった石川さんの心情を思うと残念でならない。妻の早智子さんと海岸を歩くシーンの清々しさが救いである。
 金聖雄監督は、これまで「SAYAMA みえない手錠をはずすまで」、「袴田巖 夢の間の世の中」など冤罪についての映画を繰り返し作っている。この映画で見るいくつかのシーンも、かつて金監督の映画で見たものだ。袴田さんが目を細めて赤ん坊を膝に抱いたり、将棋をする様子、石川さんがタンクトップ姿で走る印象的な映像などが忘れられない。これらは繰り返し、見るべき映像なのだ。

冤罪を阻む土壌を
 冤罪を許す風土はこの国に根づいている。警察や検察の言い分を頭から信じてしまう封建時代の「オカミ」意識が一般に浸透しているからだろう。捜査する側は、目標を定め、一旦決めたら組織が一丸となり、たとえ間違っていても自らの非を認めようとしない。
 先入観のない目で事実を見つめ、たとえ小さな声であっても真摯に耳を傾けることで、この国に冤罪を阻む土壌を培わねばならない。

⑤石川夫妻 徳島の海.JPG浜辺を歩く石川夫妻 ⓒKimoon Film

「うそがほんとに ほんとがうそに」
監督:金聖雄
撮影:池田俊已
2026年/日本/104分
語り:北村有起哉
企画・製作:Kimoon Film
2026年10月17日、新宿K's cinemaほか全国で順次公開
公式サイト:https://usogahontoni.com/



(2026年09月30日 掲載)