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『アリランラプソディ』 時代に翻弄された『生』を生きてきたハルモニ達

李京愛 (い きょんえ)
(民族教育ネットワーク事務局長・アプロ女性ネット事務局)


 神奈川県の川崎市桜本に暮らす在日1世のハルモニ(おばあさん)たちの姿を追ったドキュメンタリー『アリランラプソディ』、2度のプレ上映(ウトロ平和祈念館、いくのコーライブズパーク)に参加できず、41日、十三の第七芸術劇場に行ってきた。

 これまでの『花はんめ』(2004年)などは上映タイミングが合わず、在日2世である金聖雄(きむ そんうん)監督の映画は初めて観ることになる。

 「もう死ぬのは怖くない」パワフルに生きたハルモニたちの日々が今、ささやかに弾ける!とチラシに謳われていた。「戦争に翻弄され、生きる場を求めて幾度も海を往来し、たどり着いた川崎でささやかにたくましく生きてきた在日一世たちだ。」とも書かれている。

 これは楽しい映画なのか、辛い映画なのか、少なくともチラシのハルモニたちはチャーミングで楽しそうだ。

 ハルモニたちに「夢は何ですか?」と問いかける監督。ハルモニにそれ聞く?と思った。重ねて「自分のオモニには聞かなかった」と監督。そうだったんだ、と思った。

 そういえば私も母に夢は?と聞かなかったなと記憶する。

 何で?何で?の多かった在日2世で大阪で生まれ育った私は、子どもの頃、母になぜ日本に来たのか、済州島ではどんな暮らしをしていたのか等、割と聞いた方だと思うが、何になりたかった?夢は何?とは聞かなかった。母は私たちの母としてあるものと思っていたのかも知れない。聞けばよかった。母は別の人生を考えていたかもしれない。

 映画を見ながら、所々で1912年生まれの母の姿を重ねる2時間10分だった。

 ほぼすべてのハルモニが言っていた「言葉もわからない日本に来て」、「戦争」、「貧困と差別」、「生きることに精一杯」。でも夢なんてなかったと言っていたハルモニ達が変わっていった。

 「生きてきて何も良いことはなかった」と言っていたハルモニ達が識字学級で文字を覚え、思いを文字に表した。『よくここまでいきてきた。にんげんはつよい』という言葉、文字。覚えていようと思う。

 時代に翻弄された『生』を生きてきたハルモニ達。

 植民地統治されていた時代の映像や、戦争の映像が出てくると、何度も見ているのに、ここにハルモニ達がいたんだと思うと辛い。よく生き延びてこられたと思う。

 若いころの写真が凛としてとても美しく、かっこいいハルモニも忘れ難い。

 不思議なことにハルモニ達の姿や写真を見ると、親類や知り合いに似た人がいて、懐かしい気がする。同族ということだろう。

 また、その表現や踊り遊ぶ姿はおおらかで、2世の私などはとてもじゃないが敵わない。

 そして絵画の数々。絵を描く術を学ぶ事はなかっただろうに、この表現力はどこから出てきたんだろう。

 時代が違っていたらと思わずにいられない。

 ハルモニ達は素敵に変わっていったけれど、変わらないのは日本の差別者たち。ハルモニ達が若い頃とは違う形で襲ってくるようだ。

 ヘイトデモと闘えたのは、桜本の町で地域の共生・協働の運動が大きな力になったのは確かだろう。1文字ずつハルモニ達が書かれた素敵な横断幕、『さべつはゆるしません』を持ってのパレード。「ハルモニにさせるの?」画面を見ていた私は一瞬ひるんだが、植民地を経験し、差別を経験し、戦争を、いや、2度もの戦争を経験したハルモニにだからこそ、言える言葉があるのだと思いなおした。乗り越えた強さがあるだろうとも思った。

 そして、桜本の多文化共生の拠点となってきた「ふれあい館」の三浦さんがチャンゴを叩き見事にアリランを歌う姿にハルモニたちとの関わりの長さと深さ、愛情を感じた。

「差別やヘイトスピーチと闘わないといけないのは日本人の男だ」という安田浩一さんの言葉を思い出す。

 100年を超える在日の歴史で、日本社会に変わらずにあるのは差別と排除。居住するところによって共生の形はそれぞれあるとは思うが、自分の身近なところでヘイトデモがあれば闘うのは誰?協働してくれる人、場所は作れているのだろうか。在日の多い私の居住区にそれはあるのだろうか、考えてしまう。ヘイトはなくなりそうにないし。

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(c)Kimoon Film


〈アリランラプソディ〉

監督:金聖雄
2023年/日本/ドキュメンタリー/2時間5
制作・配給:キムーンフィルム
https://arirangrhapsody.com/

(2024年04月05日 掲載)