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環境への権利に関する国連特別報告者が人間と自然を搾取する経済のあり方の再考を提言(その1)

 清潔で健康的かつ持続可能な環境への権利に関する国連特別報告者であるデビッド・ボイド氏が2024年1月に報告書「ビジネスとプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)と清潔で健康的かつ持続可能な環境への権利」を発表しました。この報告書は、公正で持続可能な未来を実現するために必要な構造的で革新的な変化と、企業および国家が取るべき対応を示すものです。そのうち、企業の人権尊重責任に関する部分を含むパートⅠ~Ⅲの概要を2回に分けてお伝えします。

 公正で持続可能な未来への転換における最重要課題の一つは、企業の役割を変革することです。現在の経済とビジネスのあり方は人間と自然の搾取にもとづいており、その根本的欠陥として、無限の成長に対する信奉、短期志向、株主の利益の最大化、社会や環境、健康に対する負荷の外部への転嫁があげられます。
 人類が及ぼしている環境への甚大な影響によって、人類は安全な活動範囲を示すプラネタリー・バウンダリーを超えつつあります。持続可能な資源利用の範囲内で市民の基本的なニーズと人権を満たしている国はありません。この危機は、現代を生きる人々の権利だけでなく、将来世代の権利も脅かします。環境の悪化が水不足、食料不安、資源不足、非自発的な立ち退き、移住、武力紛争を引き起こし、さらなる環境の悪化につながります。深刻なのは、こうした危機が貧しく脆弱な立場にある人々や地域コミュニティ、国々に特に大きな打撃を与えることです。
 清潔で健康的かつ持続可能な環境の享受を人権と認める歴史的な国連決議が象徴するように、人権と環境の関係が明確になりつつあります。環境法の制定や企業を規制する政策によって、オゾン層の保護、酸性雨の終息、再生可能エネルギーの伸長など、改善につながった環境問題もあります。
 企業は規制対象となってきた一方で、公正で持続可能な社会を支える重要な役割を担っています。100%再生可能エネルギーの生産や使用、エネルギー貯蔵システムの開発、耐久性がありリユース・リサイクルや堆肥化が可能となる製品デザイン、修理可能で手頃な価格の製品開発、農業・林業・漁業における土壌や生態系の再生につながる手法の採用などが企業によって進んでいます。また、持続可能な経済への移行に伴い、企業は雇用を創出することが可能です。
 人類が環境に与える影響を減らすためには経済とビジネスのあり方の変革が必要ですが、科学的、倫理的に必要とされることが、経済的に利益をもたらし、政治的に都合がよいことと一致するとはかぎりません。このことは、企業が環境や人権に与える甚大な影響を適切に防止、規制、課税、処罰することに失敗してきた国家を見ればわかることです。本報告書は、プラネタリー・バウンダリーの範囲の中で、すべての人のための公正な未来に向けた道筋を示すことをめざします。

●環境への権利を尊重する企業の責任
 企業が人権に与える負の影響に対処するため、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」をはじめとする国際的な枠組みがあるにもかかわらず、人権、特に清潔で健康的かつ持続可能な環境への権利を尊重するために必要な行動をしている企業はほとんどありません。指導原則は、環境や気候変動について言及しているわけではありませんが、人権と環境に関する諸原則の枠組みは、企業の人権尊重責任を明確に示しています。
 すべての企業は、規模や業種にかかわらず、バリューチェーンを通じて、環境への権利を含め、国際的に認められた人権を尊重する責任を負っています。この責任は、人権と環境を保護する国内法や規制を超えて存在します。企業の責任は、事業を通じて気候や環境に直接的な負の影響を与える可能性のある企業だけでなく、金融機関、法律事務所、広告会社、会計事務所、コンサルタント会社など、こうした企業を支援するあらゆる企業に適用されます。非営利団体であっても、商業的な活動をする場合には、人権尊重責任を負う可能性があります。
 企業、特に多国籍企業に期待されているのは、人権への負の影響に対応するために自社の影響力を活用して、バリューチェーン全体に人権尊重を根付かせることです。しかし、バリューチェーンにおける環境・気候変動への対応に自社の影響力を活用している企業はほとんどありません。大半の企業が人権尊重に自主的に対応していないという現状を見れば、すべての国・地域において環境・人権デュー・ディリジェンスを義務化する法律が早急に必要であることがわかります。
 市民の参加する権利と情報へのアクセスの重要性を考えれば、事業活動による人権、環境・気候変動への影響に関する透明性の確保と情報開示は、一部の企業が対応する「例外」ではなく、すべての企業が当然対応する「標準」であるべきです。汚染源となっている企業を含む大半の企業は、財務諸表において気候変動に関連するリスクを報告しておらず、情報開示に関する規制が求められます。

●責任ある撤退
 石炭、石油、ガス、鉱業など、地球の危機を加速させる産業からの撤退を求める圧力が高まる中、企業は人権や環境に対する負の影響を回避し是正するために、責任ある撤退をしなければなりません。人間の健康や生態系の機能を脅かすような汚染された場所を未処理のまま放置したり、化石燃料に関わる資産や化学工場を新たな所有者に売却することで脱炭素化や無害化を図ったりすることは無責任であり、むしろ公正な移行に向けて、工場を閉鎖し資産を処分しなければなりません。

●脆弱な立場にある人々の人権の考慮
 企業には、ライツホルダー(権利保持者)やその他のステークホルダー、特に、環境の悪化によって影響を受けやすい脆弱な立場にあるライツホルダーと協議し、関わり合う責任があります。こうしたライツホルダーには、先住民族、アフリカにルーツに持つ人々、人種的・民族的マイノリティ、農業従事者、女性、性的マイノリティ、子ども、若者、障害者、高齢者、難民、移民、避難民、貧困層、武力紛争下にある人々などが含まれます。子どもは気候変動や環境被害に対する脆弱性が高いため、デュー・ディリジェンスにおいては子どもの権利を優先すべきです。また、健康的な環境への権利を尊重するための施策にはジェンダーの視点を含めるべきです。
 先住民族の環境・人権活動家の多くは、企業から自分たちの土地を守ろうとして、嫌がらせや暴力を受け、犯罪者にしたてられています。企業は、先住民族、アフリカにルーツに持つ人々、自然に密着して生活している地域コミュニティと協議し、こうした人々の「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を得て事業を進めなければなりません。また、自社の事業活動とバリューチェーンを通じて、活動家に対する脅迫、暴力、差別、法的措置による嫌がらせ、犯罪化などをいっさい許容しない姿勢を示す必要があります。

●救済へのアクセス
 ライツホルダーが環境・気候変動に関連した人権侵害に対する企業の責任を追及できるように、企業は事業レベルのグリーバンス(苦情処理)メカニズムを自社または協同で設置しなければなりません。実効的な救済には、補償、賠償、是正、修復・回復、再発防止などが含まれます。
 多くの企業は、グリーバンス(苦情処理)メカニズムを設置していても、ライツホルダーを中心に据えていないため、こうした責任が果たせていません。力関係の不均衡、不透明なプロセス、言語や識字力、費用、汚職や司法の独立性の欠如、法制度の機能不全といった法の支配の弱さ、地理的な距離、被害者とその代理人に対する報復のリスクなどによって、ライツホルダーは実効的な救済へのアクセスが阻まれています。
 特に人権侵害を受けやすい周縁化された、あるいは脆弱な立場に置かれた集団が、司法的なグリーバンス(苦情処理)メカニズムや企業が提供する非司法的なメカニズムを利用するにはさまざまな課題があり、環境・人権活動家のうち、特に女性は脅迫や報復にさらされやすいことがわかっています。すべての国の国内法制度には改善の余地があるといえます。

<出典>

<参考>


(2024年04月16日 掲載)