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シネマと人権 13:料理に迫るフランス革命の波 ー「デリシュ!」

小山 帥人(こやま おさひと)
ジャーナリスト、ヒューライツ大阪理事

 フランス絶対王政の時代、庶民の食事は飢えを満たすのが精一杯で、美味しい料理は貴族と僧侶が味わうものとされた。
 まだレストランというものはなく、料理人は貴族の召使いだった。映画の主人公の料理人、マンスロンは、ありきたりのメニューではなく、独創的な料理にチャレンジする腕利きの料理人である。
 ある日、彼が仕える公爵の宴会でじゃがいもとトリュフを材料にした創作料理「デリシュ」(美味しいの意味)を作り、味わった貴族たちは極上の味と誉め讃えた。ところが、高位の僧侶がじゃがいもを材料に使ったことを批判すると、貴族たちは一転して料理への非難の合唱を始める。「まずくて見た目も醜悪だ」とか「我々をドイツ人だとでも?」とか。
 有力者におもねて、自分の意見を変える連中はどの時代にもいる。当時のキリスト教の教えでは、土の中にできるものは下賎な食品で、豚が食べるものとされていたらしい。
 僧侶は「トリュフとじゃがいもは豚に食わしておけ」と皿を床に投げ捨てる。主人の公爵も同調して、マンスロンに謝れと怒鳴る。
 だが、屈辱を受けた料理人は謝罪を拒否した。その結果、彼は宮廷料理人を辞め、田舎に引っ込むことになる。

侮辱された料理人の怒り
 故郷に蟄居するマンスロンは料理を作る気力もなくしていたが、ジャン・ジャック・ルソーを愛読する息子から、貴族のための料理ではなく、誰にでも開かれた料理屋を開こうと提案され、心が動く。折から、弟子入りを志願してきた女性も加えて、旅人のための料理を提供する仕事を始める。これまでの食堂は、大テーブルに大皿で食べる不潔なイメージだったが、小さなテーブルにして料理を楽しめる場所にする。メニューと値段を表に出そうというのも、息子のアイデアである。
 ここの料理が美味しいと評判となり、元の主人の公爵から食事に来たいと連絡が入り、マンスロンは注文通り40種類の料理を準備するが、公爵は、途中で食べてきたからと素通りする。
 この態度には、料理助手の女性も怒りを露わにする。「許せない、ここまで人を足蹴にして。侮辱した報いは必ず受けさせる」と。
 マンスロンは一計を案じて、公爵の館を訪れ、食べに来てほしいと依頼する。マンスロンが辞めた後の料理の不味さに閉口していた公爵は、愛人と共にマンスロンの館に出向くのだが、その席は、貴族も庶民も同じ部屋だった。この時代、貴族は庶民と共に食事をすることはなかったのだ。客を追い出せと怒鳴る公爵に対して、料理助手の女性は、公爵の銀髪のカツラを剥ぎ取ってしまう。カツラは当時、王や上流階級のステイタス・シンボルだった。怒った公爵は女性に暴力を振るおうとする。
 すると、レストランの客の女性が「貴族を倒せ!」と叫び始め、公爵はほうほうの体で逃げてしまう。

誰もが料理を楽しめるレストランを
 マンスロンは、料理を貴族の独占物から、庶民に解放した。この店が、誰もが料理を楽しむレストランの始まりだったという。映画では、食糧不足による暴動の様子など、パリの動きが刻々伝えられる。フランス革命の烽火、バスティーユの戦いが始まったのがこのすぐあとだったと字幕に出る。
 フランス革命は、政治の仕組みの変革だけではなく、料理の革命を含む生活全体の革命だったのだ。
 日本でも明治維新や戦後民主主義など、政治の変革はあったが、組織や体制を優先する社会体制の基調は変わらず、個人が自立し、互いに人間として尊重し合う社会にはなっていない。美味しそうな料理が並ぶ映画を見て、そんなことを考えた。
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公爵の宴会で、じゃがいもとトリュフを使ったことで料理人は罵倒される。
©︎2020 NORD-OUEST FILMS―SND GROUE M6ーFRANCE 3 CINÉMA―AUVERGNE-RHôNE-ALPES CINÉMA―ALTÉMIS PRODUCTIONS

「デリシュ!」
監督:エリック・べナール/ 2020年/ フランス・ベルギー/1時間52分/配給:彩プロ

<上映>
9月2日より大阪ステーションシティシネマ、京都シネマ、TOHOシネマズ西宮OS


(2022年08月23日 掲載)