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シネマと人権 7:「5月の花嫁学校」-男に従うことを教える教育に叛旗

小山帥人
ジャーナリスト・ヒューライツ大阪理事
 
 時は1968年、フランスでは学生が大学を封鎖し、労働者や市民が街頭を埋め尽くした5月革命の時期だ。
 半世紀前のことだが、当時のフランスは驚くほど女性の地位が低かった。妻は夫の許可なしには就職できず、銀行口座を作ることもできなかった。
映画の原題は「良き妻」。夫に愛されるように振る舞い、自己主張せず、すべての家事を上手に行うことが理想の女性とされていた時代。こうした女性を育てる家政学校、あるいは花嫁学校、そんな学校がフランスには1000校以上あったという。
地方の娘にとって、この種の学校に入ることは、「良い」結婚をしたり、都市に「家政婦」として働きに出るチャンスを得るステップだった。

夫に従うことを説く教育
映画の舞台はフランス東部の花嫁学校で、校長を演じるのは、フランスで最も活躍する女優の一人、ジュリエット・ビノシュである。従順な妻の役割に、内心抵抗を感じながらも、学校では、古い道徳を説く。黒板に書かれた「良き妻の7つの鉄則」とは、
1. 何よりもまず、夫につき従い、無私の心で、寛容で、常に上機嫌でいること。
2. 主婦には家事を完璧にこなす義務がある。料理、アイロンがけ、繕い、食事などに身を捧げ、決して不平を言わない。

このほか、無駄遣いをしない、アルコールを飲まない、2日続けて同じ服を着ない、とかいろいろある。7つ目の鉄則は、「夫婦の義務」。妻の「お勤め」は、男性にとっての仕事と同じ。ときには楽しいが、ほとんどは強制。でも時を得て努力するうちに不快で空しい「お勤め」も乗り越えられる、というものだった。

5月革命の波は家政学校にまで
しかし、5月革命の波は家政学校にまで及んでくる。女生徒たちは、「男に従え」とする教育方針に疑問を持ち始め、デートのための無断外出をとがめる校長を「私たちを奴隷として調教している」と批判する。
 そんな中、校長の夫が急死し、校長は途方にくれる。しかも亡くなった夫は賭博に金を使い、借金を抱えていて、学校は倒産の危機だ。校長は銀行に相談に行くが、応対の相手は、かつて別れた恋人だった。戦争中の恋で、連絡が取れないまま別れ、20数年が経っていた。
校長は、恋人に出逢い、語り合うことで、今まで自分を抑圧してきたことに気づく。さらに強制された結婚が嫌で自殺を図った生徒も出てきて、校長はこれまでの良妻賢母の方針を捨てる。
「これ以上、男の奴隷になれとは言えない。こんな仕事を辞めるわ」。
校長や教師、それに生徒全員がパリに向かうことになる。パリは群衆で埋められ、車両は入れない。ならばと、全員が歩いてパリを目指す。ここからはミュージカル風になり、ビノシュ演じる校長は生き生きと歌い、踊りだす。
「避妊も出産も自分で決める!」
「セ・ラ・レボリュシオン!」(これは革命だ)
1968年以来、フランスではこの種の花嫁学校は激減し、もう消滅したという。国連が女性の権利を「世界最大の権利問題」と呼び、欧米の女性の地位は飛躍的に高まった。フランスの女性議員は半数近くいて、ジェンダー・ギャップ指数は16位だ。
ひるがえって日本をみると、政治、企業、メディアでの女性のトップは少なく、女性の地位を示す指数は120位に低迷している。
 自己を解放したビノシュの美しさを見てほしい。

5月の花嫁学校』(PG-12
2020/フランス/1時間49/監督・マルタン・プロヴォ/
配給・アルバトロス・フィルム

<公開>
528()よりテアトル梅田ほか全国順次公開
64日(金)より、京都シネマ/シネ・リーブル神戸にて
※緊急事態宣言により公開の予定が変更になるおそれがあります
5月の花嫁学校.jpeg

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(2021年05月19日 掲載)