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ジェンダーに関する決議や報告など:国連人権理事会第41会期(6月24日-7月12日)のハイライト

 2019年624日から712日まで国連人権理事会第41会期が開催されました。今会期では、労働の世界における女性に対する暴力、高齢女性の経済的エンパワメント、気候変動と女性など女性の権利およびエンパワメントに関する討議や会合が多く開催されました。また、フィリピンやシリアの人権状況に関する決議などが採択されました。
フィリピンについて、ドゥテルテ政権下で人権活動家やジャーナリストなどに対する殺害、強制失踪、恣意的逮捕、脅迫、暴力などが起きていることや違法薬物に対する戦争として何千もの人が殺害されたとされていることをあげ、フィリピン政府に超法規的殺害や強制失踪を防止し、加害者を起訴・処罰することを促し、人権高等弁務官に第44会期にフィリピンの人権状況について報告を提出することを要請する決議を採択しました。フィリピンに対しては6月に人権理事会の特別報告者など11人が調査を要請していました(注1
 
性的指向・ジェンダー自認(SOGI)に基づく暴力および差別からの保護
今会期、「SOGIに基づく暴力および差別からの保護に関する独立専門家」は、SOGIに基づく暴力および差別に対する意識啓発をもたらす手段としてのデータ収集と管理に関する報告を人権理事会に提出しました。報告は、LGBTを犯罪化したり、病理だと烙印を押す(スティグマ化)ことによってSOGIに基づく暴力や差別を受ける人びとに関する正確なデータの収集が妨げられ、多様なジェンダーの人びとの人権状況に関する情報が不完全、場合によっては無いとしています。一方で、収集・管理している情報自体がスティグマ化につながりかねないことを指摘しています。報告はデータ収集・管理に関する国際、国内の取り組みや、人権の視点からのグッド・プラクティスをあげています。
この独立専門家の任務に関する特別手続きは、2016年に3年間の任期でつくられたものですが、今会期、理事会は3年の延長を決議しました。
 
「ビジネスと人権に関する指導原則」のジェンダーの側面
人権理事会は、2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を採択しましたが、その実施促進などのためにつくられた、「人権と多国籍企業および他のビジネスに関する作業部会」は、2017年から指導原則のジェンダーの側面について取り上げ、今会期に指導原則のジェンダーの枠組およびガイダンスなどに関する報告を提出しました。
報告で示されたジェンダーの枠組は、ジェンダーに対応した評価、およびジェンダー視点に立った変革のための措置、ジェンダー視点に立った変革のための救済を三つの柱とし、それぞれが関連する三段階のサイクルで構成されています。
ジェンダーに対応した評価とは、女性の人権に対する、異なる、交差的な、また不均衡な負の影響や、父権的な権力構造、差別的な規範に対応する評価です。それには、法令、政策、慣行が直接・間接的に女性を差別しているかどうか、国家や企業の将来も含めた作為・不作為が女性に負の影響を与えるかどうかを見直すこと、また性別によって分類されたデータを収集することなどが含まれます。
ジェンダー視点に立った変革とは、差別、ジェンダーに基づく暴力およびステレオタイプを支える父権的規範や不均衡な力関係を変えることをさし、変革のための措置として、実質的ジェンダー平等の実現へのコミットメントを公に行ったり、実質的平等を実現し、女性に対する差別、ハラスメントおよび暴力を撤廃するための積極的措置などをとることとしています。救済には、予防、是正、抑止の効果を含む救済を提供すること、女性団体や専門家と協働で適切な救済を特定することなどがあげられています。
さらにガイダンスとして、ビジネスと人権に関する指導原則のそれぞれの項目(原則131)について、ジェンダーの視点からどのようなことが求められるか、具体的な行動例も含めてあげられています。(A/HRC/41/43
報告を理事会に提示するにあたり、作業部会のデヴァ委員は、この枠組みとガイダンスが各国のビジネスと人権に関する指導原則の実施や、国内行動計画の作成、見直しに適用されるべきだと述べました。
 
女性と雇用・労働
1951年にILO同一報酬条約(第100号)が同一価値労働・同一賃金を掲げて以降、人権条約にもその内容が取り入れられています。一方、男女の歴史的、構造的な力関係の不均衡、資源や機会の不平等や不利のために、女性の経済的エンパワメントが進んでいません。人権理事会では今会期、報酬の平等に関する決議を採択しました。
決議では、賃金の不平等が依然として残っていることを憂慮し、国家に市民社会、民間部門、使用者組織、労働組合および国連機関と協力して、民間・公的部門において、ジェンダー賃金格差を是正する重要な措置として同一価値労働・同一賃金を法令に含めることを求めています。また、違反の場合の実効的な救済手段、社会対話、団体交渉、客観的評価、ジェンダー中立的な職務評価、賃金監査など賃金の平等のための政策実施を促進すること、育児・介護のケア労働の認識と再配分のための措置や、男女の仕事とプライベート、家族の責任の調整と分担のための法律や政策を整備し、促進することなどを求めています。
また、労働分野における女性に対する暴力に関して、各国に暴力の被害者、サバイバーを含む女性および少女の参加の上で、労働分野における女性に対する暴力を撤廃する法律や政策などを開発し、実施することを求める決議を採択しました。
さらに、女性について、児童婚、早婚、強制婚を人権侵害であり、有害な慣行だとみなす決議、また国家や国際社会、市民社会で得られた前進に対するバックラッシュを懸念する、女性および少女に対するあらゆる差別の撤廃に関する決議が採択されました。
 
教育の権利
「教育の権利に関する特別報告者」は、教育における民間部門の参入の拡大について報告しました。報告によると、世界各地で私立学校の増加などにより、教育の民営化が進み、行き過ぎた商業化により、貧しい人、周縁化された人が教育から排除され、持続可能な開発目標の目標4「質の高い教育」の実現が妨げられかねないとしています。20192月に国家の公教育を提供し、民間の関与を規律する義務に関する「アビジャン原則」(注2が特別報告者を含む国連の他の専門家、各国の人権法や教育の専門家により採択・署名されていますが、報告はアビジャン原則に言及し、国家が、無料の、品質の高い公教育を提供する義務があり、教育の権利が損なわれないよう、民間の関与を規制する義務があるとしています。
人権理事会は、国に民間の教育への参入に関して適切な基準や規制を考案し、遵守を促すこと、公教育、民間による教育について、人権法や基準に則した説明責任の枠組みを作るなどにより、教育の権利に関する国の義務を履行することなどを求める決議を採択しました。
 
表現の自由に関する特別報告者
表現の自由に関する特別報告者は、2016年の日本訪問の報告を2017年の第35会期に提出していました。今会期にはそのフォローアップ報告が提出され、この報告作成にあたって日本政府への情報提供要請に回答がなかったこと、2017年の報告にあげられた勧告が実施されていないこと、さらに新たに懸念されるような事態が起きていることなどをあげています。
(構成・岡田仁子)
 
1
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section1/2019/06/1167.html
ヒューライツ大阪ニュース・イン・ブリーフ(20196月)
2https://www.abidjanprinciples.org/ (英語)
参照>
https://www.ohchr.org/EN/HRBodies/HRC/RegularSessions/Session41/Pages/ResDecStat.aspx
41st session of the Human Rights Council: Resolutions, decisions and President’s statements
(第41会期人権理事会の決議等一覧)
https://www.ohchr.org/EN/HRBodies/HRC/RegularSessions/Session41/Pages/ListReports.aspx
41st session of the Human Rights Council: Reports(第41会期人権理事会の報告一覧)
http://ap.ohchr.org/documents/dpage_e.aspx?si=A/HRC/41/43

Gender dimensions of the Guiding Principles on Business and Human Rights

(2019年07月22日 掲載)