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ジュネーブから―第7回国連ビジネスと人権フォーラム(2018年11月26-28日)に参加して

 2012年から毎年、スイスのジュネーブで開かれてきた「国連ビジネスと人権フォーラム」は、今回が7回目でした。「ビジネスと人権フォーラム」は人権理事会のビジネスと人権作業部会が毎年開く催しで、2011年に人権理事会で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」の実施を進め、広めるために、企業、政府、市民社会組織、民間団体、労働組合団体、学会などの関係者が議論する場です。フォーラムは、「指導原則」の実施が世界でどのように進んでいるか、企業や政府がどう取り組んでいるか、人権侵害の発生と被害者の救済は有効にされているかなど、現状をつぶさに知ることができる格好の機会となっています。
 今回のフォーラムでは、開会、中間と閉会の三つの全体会議の他、2017年より多い約70の会合が3日間、同時並行して開かれました。参加人数は主催者が約2500名と予想していましたが、実際にはそれより少ないように感じました。いずれにしても大変な数の参加者と多岐にわたる内容の会合でした。

企業の人権デューディリジェンスをめぐる議論

「指導原則」は、「国は人権を守る義務がある」、「企業は人権を尊重する責任がある」、「人権を侵害されたものには救済の途が開かれている」という三本の柱を掲げていますが、今回のテーマは、第2の柱である「企業の人権尊重責任」に関連して、「ビジネスの人権尊重―実績をふまえて」ということでした。その中でも特に、企業が人権に対して及ぼす負の影響を防ぐために人権デューディリジェンス(相当な注意)が必要であるということに焦点があてられました。
 テーマに関する会合では、企業の人権デューディリジェンスの取り組みの現状をバリューチェーン全体にわたって検討するもの、特に対象としてジェンダー、先住民、人権ディフェンダー(人権擁護の活動家)など影響を受ける特定の人間を取り上げるもの、人権デューディリジェンスが企業とSDGsを結びつけるととらえるもの、新しいICT、特にブロックチェーンやAI(人工知能)が人権デューディリジェンスに役立つかどうかの議論などがありました。ステークホルダー・エンゲージメントや人権リスクに関する実質的な情報開示などの事例や、企業の人権尊重一般の実施事例なども紹介されました。
 人権デューディリジェンスの実施は、まだ端緒についたばかりの企業が多く、また実施している企業でも形式的なプロセスにこだわり人権に対する負の影響を防止するという実質を忘れる危険性が潜んでいるということも語られました。また人権デューディリジェンスを実施する前提としての企業の人権方針と、これに対する企業全体のコミットメントの重要性が強調されました。
 人権デューディリジェンスは、「指導原則」に触発されて次々と出てきている新しい動きの中でも採用されています。特にOECDが新たに出した「責任ある企業行動に関するOECDデューディリジェンス・ガイダンス」 と国際労働機関(ILO)の「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(改定版)」が注目されました。

情報開示、ESG投資、国別行動計画をめぐる議論

 情報開示に関しては、イギリスの現代奴隷法、フランスのビジランス法などのほか、欧州連合(EU)域内の大企業を対象に、環境、社会、ガバナンス(ESG)の非財務情報開示を義務付ける制度があげられました。ヨーロッパを中心に国内法で進む法的な義務と企業の自主的な取り組みとのバランスの問題も議論されました。
 フォーラムでは、企業の人権尊重責任ばかりではなく、投資家(投資機関)などが企業評価に使うベンチマーク、ESG指標などの議論もありました。また企業の人権尊重責任を確保するために政府が果たすべき役割の重要性も語られました。
 この点では、政府代表から自国の国別行動計画(NAP)の策定状況について、策定過程にある、あるいはこれから策定するといった現状説明の発言が続きました。日本政府代表(岡庭健・在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使)も、日本がNAP策定のために、企業活動における人権保護を目指した法律や政策の現状を検証するベースラインスタディを実施し、また政府省庁、企業団体、市民社会などの参加によるマルチ・ステークホルダーの協議も10回にわたり実施したと発言しました。

その他の主要な論点

 前回のフォーラム同様、今回も、先住民や人権ディフェンダーが政府や企業によってさまざまな人権侵害に直面している現状を訴えました。また企業の法的責任や救済(国家基盤型、非国家基盤型)をめぐる議論や、ビジネスと人権に関してジェンダーの視点を強化する必要性の議論もありました。
 多国籍企業の人権尊重責任を法的義務とするための条約起草については、起草作業を始めた作業部会からこれまでの議論をまとめた条約案が説明されましたが、賛成意見とともに否定的な見解もあり、今後の展開が難しいことが感じられました。

 今回のフォーラムには、児童労働をなくすために長年活動し、2014年のノーベル平和賞を受賞したインドのカイラシュ・サティアルティ氏が招待されました。彼は全体会合と個別会合で児童労働の廃絶を訴え、その活動をテーマにしたドキュメンタリーも上映されました。
 2019年のフォーラムは、11月25日から27日まで開かれます。

(白石 理)

ジュネーブフォーラムのようす


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