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ジェンダーと人種主義の交差性について-女性差別撤廃委員会のシュルツ委員のスピーチ①

国連がジュネーブで2013年10月7日~18日に開催した「ダーバン宣言とその行動計画の効果的な実施に関する政府間作業部会」( 第11会期)において、女性差別撤廃委員会のパトリシア・シュルツ委員が、「女性差別撤廃条約と人種主義-ジェンダーと人種主義の交差性」をテーマにスピーチを行いました。日本において、ジェンダーと人種主義の交差性や複合差別が注目されてきた2017年のいま、そのスピーチの内容を紹介します。
 
女性差別撤廃条約と人種主義-ジェンダーと人種主義の交差性
パトリシア・シュルツ(女性差別撤廃委員会委員)
2013年10月8日
 人種主義と人種差別、性やジェンダーに基づく差別に関して女性差別撤廃委員会が行っている活動の概要を説明する機会を与えていただき感謝します。
 
A. イントロダクション:条約の本文
 女性差別撤廃条約は性、女性、そして、女性が平等な処遇を受けているかどうかを判断するために、女性の状況との比較対象である男性について触れている。当条約は特別な保護を受ける2つのカテゴリーの女性について言及しており、それは農村の女性(第14条)と妊娠している女性(第11,12条)である。当条約はまた、黙示的に少女についても適用される。
 当条約の本文は人種主義や人種差別について言及していないが、全ての女性に対する全ての形態の差別が第1条(人種差別撤廃条約第1条に非常に似通ったものである)により条約の対象範囲となっているので、人種主義は黙示的に女性差別撤廃条約に含まれており、定義、締約国の核心的義務、暫定的特別措置の必要性、ステレオタイプへの抵抗、教育や健康、政治的・公的生活への参加などといったどの点に関しても、女性は条約の全条文において、人種差別から保護されている。条約において明確に述べられていようがいまいが、当条約は全ての分野における女性の保護を目指しているので、保護は条文の内容を越えたものになることすらある。ジェンダーについては当条約では言及されていないけれども、当条約はジェンダーに基づく差別をも対象としていると委員会は解釈している。
 
B. 委員会の見解
 女性差別撤廃委員会は早くから、二重の、三重の、もしくは複合的差別の存在を認めている。女性や少女が、自らの性やジェンダーのみならず人種や民族、カースト、障害、移民であるといった他の事由によっても差別されている状況に対処するため、委員会はしばしば、交差性(intersectionality)もしくは交差的差別(intersectional discrimination)という言葉を使っている。委員会は様々な地位に基づく差別の交差性とそれに特有の否定的な力を敏感に察知している。人権は異なる条約において、そして異なる条約機関によって対処される様々なカテゴリーに分類されている。そこから生じる問題を乗り越えるために交差性の概念を用いることは十分であるのかどうか、最後に議論する。委員会はその総括所見や勧告、一般勧告、通報や調査における決定、声明において、民族的、人種的、宗教的または性的マイノリティや、先住民族の女性、移民女性、高齢の女性、少女、障害のある女性、貧しい女性、といった女性の多くの集団の状況をとりあげている。以下にこれらの文書を紹介する。
 
C. 人種主義や人種差別に関する総括所見と勧告
 締約国が委員会に提出しなければならない初回報告書と定期報告書について、締約国の代表と対話を行った後に、勧告がその締約国に送付される(第18条)。そのうちいくつかは「先住民族、他の人種的少数者を含む女性が職業訓練を受けられるよう確保する」必要性などの問題を扱っている(2007年スリナムに対する勧告)。 いくつかの勧告は、簡潔な文章で、複雑な問題に言及している。例えば2007年のオランダに対する総括所見においては、以下のように述べられている。
・社会全体において、そしてそれぞれのコミュニティにおいて移民、難民、マイノリティの女性に対する差別を根絶するための効果的な措置をとること、
・ 特に女性や少女に対する人種主義的な行動を防止するための試みを増やすこと、
・移民、難民、マイノリティの女性に影響を及ぼす法と政策の影響評価を実施し、次回の報告にそのデータと分析を含むこと、
・DVを根拠として難民の地位を与えられた人々と同様に、DVを根拠として在留許可を与えられた女性の人数についての情報も含むこと。
 差別に立ち向かう仕組みや、十分な情報を得たうえで決定を下し、政策手段を実施するための詳細なデータへのニーズといった構造的問題に、委員会は組織的に対処している。先住民族の女性やアフリカ系女性といった女性の集団にとってのステレオタイプ、女性に対する暴力、暫定的特別措置の利用(2011年コスタリカに対する勧告)は常に総括所見の一部をなしており、それは政治的・公的生活における意思決定、国籍、雇用、健康、経済的状況、農村の女性、法の下の平等と結婚、家族についても同様である。委員会は、締約国に対し、マイノリティ(広い意味での)に属する女性を労働市場に組み込み、彼女らの保健サービスや社会サービス、教育に対するアクセスを保障する措置をとり、差別から彼女らを保護するために、広く立法的・実践的措置をとることを要請している。
 
D. 一般勧告 
 一般勧告は、条約の様々な条文の内容や対象範囲を解説することにより、締約国による義務の履行を委員会がサポートするための文書である。委員会はこれまで、29の一般勧告を作成してきた。[訳注1:2017年12月現在、36の一般勧告]
 特別な重要性をもつ、以下の4つの一般勧告に注目してもらいたい。交差性や複合した形態の差別に対して締約国が措置をとる必要性についても論じている、第2条のもとでの締約国の核心的義務についての一般勧告28 (パラグラフ18,26において交差性について言及)[訳注2]、女性の移住労働者についての一般勧告26[訳注3]、女性と健康についての一般勧告24[訳注4]、女性に対する暴力に関し、条約の欠落部分を広く埋めた、女性に対する暴力についての草分け的な一般勧告19[訳注5]である。これらの一般勧告は全て「人種により区別されている」女性、民族的集団やカーストに属する女性の状況に対処している。
 次に、委員会が交差性についての見解を詳しく述べることを可能にしている、新たな文書を紹介する。
 
E. 通報と調査
 現在104ヵ国が批准している選択議定書[訳注6:2017年12月現在、109ヵ国が批准]のおかげで、委員会は2000年より個人通報を審査し、調査を行うことができる。
 以下で3つの事例を紹介する。
1つ目の事例は、da Silva Pimentel対ブラジル(個人通報no.17/2008)、差別を受けないという女性の権利の侵害、特に健康の分野に関して扱った事例である。
 通報者は被害者の母親である。被害者は若い女性で、妊産婦ケアを国家当局によって委託された民間経営の診療所が診断と治療の際に重大なミスを犯し、それが原因で亡くなった。委員会は、ブラジルの保健制度が十分に機能しておらず、女性が必要としている保健サービスには非常にわずかな金額しか充てられず、トレーニングも不十分で、結果として妊産婦死亡率が非常に高くなっていると述べた。
(パラグラフ7.7)委員会は、da Silva Pimentel Teixeiraが、アフリカ系の女性であるということと社会的・経済的背景ゆえに複合的差別を受けたと述べる。この点について、委員会は2007年8月15日に採択された、ブラジルに関する総括所見を想起する。その総括所見では、委員会は特にアフリカ系女性のような、社会の最も脆弱な集団に属する女性に対する事実上の差別の存在について述べていた。委員会はまた、そのような差別は地域的、経済的、社会的な不平等によって悪化するとも述べた。委員会はまた、一般勧告28(2010年)が、性やジェンダーに基づく女性に対する差別が人種、民族、宗教や信仰、健康、地位、年齢、階級、カースト、性的指向や性自認といった、女性に影響を及ぼす他の要因と密接に結びついていることを認識していることを想起する。そのような状況において、委員会はda Silva Pimentel Teixeiraは性別のみならず、アフリカ系の女性であるという地位と彼女の社会的・経済的背景に基づいて差別されていたと結論付ける。
 逆説的に言えば、締約国に対する勧告において、委員会は、先住民族でアフリカ系の女性の状況に具体的に対処する措置の必要性を強調していなかったのである!この事例は、条約機関が締約国に、予防可能であった妊婦の死に対する説明責任を課した初めての事例である。これは、連邦を構成する州等の行動に対する連邦国家の責任を分析するにあたって、興味深い事例である。
2012年に判断が下された、個人通報Isatou Jallow対ブルガリアにおいては、委員会はブルガリア人の男性と結婚し、彼についてブルガリアにやって来たガンビア人女性からの通報を受理した。申立てによると、彼女の夫は身体的・精神的に彼女を虐待し始め、彼女にポルノ映画やポルノ雑誌に出るように要求し、彼らの幼い娘も虐待した。彼女は社会サービス、警察や裁判所からの保護を得ようとしたが失敗した。その一方で、夫は親権を奪い、彼女にとって非常に不利な条件で離婚の同意をとりつけることに成功した!以下に、委員会の判断から引用する。
(パラグラフ82)ブルガリアのDV保護法のもとで夫の申請が順当に受理されたのに対し、当局は相当な注意を払わず、彼女に効果的な保護を与えず、ブルガリア語を話すことが出来ず、ブルガリアに親戚もおらず、幼い娘を連れた読み書きのできない移住女性、という彼女の脆弱な地位を考慮していなかった。委員会はさらに、緊急保護命令の翻訳も彼女に提供されなかったと述べる。
 委員会はブルガリアに対し、被害者とその娘に対する賠償に加え、以下のことを勧告した。
・DVの被害にあった女性、特に移住女性が、DVに対する保護に関するサービスや通訳と文書の翻訳を含む司法に対する効果的なアクセスを有すること、国内裁判所が締約国の条約上の義務に即して法を適用することを確保する措置をとること。
 
 最後の事例は、Kell対カナダ(個人通報no.19/2008,UN Doc. CEDAW/C/51/D/19/2008(2012426))である。当該事例において委員会は、通報者が先住民族の女性であることとDVのサバイバーであることに基づいて差別されてきたことを認めた。
(パラグラフ93)通報者は、「彼女は、先住民族として人種主義を経験し、女性として性差別を経験した」。これらの差別の側面は両方とも、「少なくともいじめであり、最悪の場合は虐待に至る」行動パターンの一因となった。このことは、性やジェンダーという差別事由とは別の事由によっても差別され、複数ある差別の側面のうちの1つが見えなくなっている女性の状況を非常によく示している。
(パラグラフ10.2)委員会は再び交差性について言及し、「性やジェンダーに基づく女性の差別は人種、民族、宗教や信仰、健康、地位、年齢、階級、カースト、性的指向や性自認といった、女性に影響を及ぼす他の要因と密接に結びついている」ことを想起した。締約国はこのような交差的形態の差別と、それが関係する女性に及ぼす複合的で否定的な影響を法的に認識し、禁止しなければならない(パラグラフ18)。したがって、委員会は交差性をもつ差別的行為が通報者に対して行われたと認める。
 
F. 21条に基づく報告
委員会はジュネーブで2009年4月20~24日に行われたダーバン・レビュー会議を機に、女性が肌の色や国籍等により直面する複合的な差別について、委員長による短く明確な報告書を提出した。そして他の報告書では、委員会は彼女らの状況についても言及している。
 
結論
女性差別撤廃委員会は、人種差別撤廃条約や人種差別撤廃委員会のジェンダーに関する一般勧告25(2000年)[訳注7]について明確に言及することはめったにないが、女性がジェンダーと人種や民族、移民としての地位といった、彼女らが属している他のカテゴリーに基づいて受けている複合的な差別に常に関心を寄せている。
 人種差別撤廃条約と女性差別撤廃条約の役割は以下の通りである。両委員会は人種や性・ジェンダーに取り組んでいるが、それらは深く結びついている。人権は普遍的で、不可分で相互依存的であり、異なる条約において形式化され、異なる条約機関によって監視されている。
 交差性は、人種、性、障害、社会的・経済的地位、宗教といった様々な理由に基づいて人々が受ける複合的な差別に対処し、それぞれの条約において彼女らの権利を扱うことに関する障害を乗り越えるためのツールである。条約機関はこのことを認識し、その作業において交差性の分析を利用する。性やジェンダーに基づく差別が広く蔓延しているので、他の形態の差別を全て分析する際には、性やジェンダーの観点を取り入れることが必要である。
(翻訳:稻田亜梨沙・ヒューライツ大阪インターン)
<出典>
http://www.ohchr.org/EN/Issues/Racism/IntergovWG/Pages/Session11.aspx
11th session of the Intergovernmental Working Group on the Effective Implementation of the Durban Declaration and Programme of Action
CEDAW and racism-Intersectionality of gender and racism
Patricia Schulz, member of the CEDAW Committee
 
[訳注]
2:女性差別撤廃委員会 一般勧告第28号「女子差別撤廃条約第2 条に基づく締約国の主要義務」(第47 回会期、2010 年)(内閣府仮訳)
http://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/kankoku28.pdf
3:女性差別撤廃委員会 一般勧告第26号 「女性移住労働者」(第32回会期、2005年)(内閣府仮訳)
http://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/kankoku26.pdf
4:一般勧告第24号(第20回会期、1999年)、『女性差別撤廃委員会による一般勧告第1号~第25号(内閣府仮訳)』、33~39頁
http://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/kankoku1-25.pdf
5:一般勧告第19号「女性に対する暴力」(第11回会期、1992年)、同上、10~14頁
7:人種差別のジェンダーに関連する側面に関する一般的勧告XXV(2000年、第56会期)
『人種差別撤廃条約第9条に基づく人種差別撤廃委員会の「一般的勧告」(解説・監訳:村上 正直(大阪大学大学院国際公共政策研究科教授))、
「現代世界と人権 24 今、問われる日本の人種差別撤廃―国連審査と NGO の取り組み」より抜粋
発行:反差別国際運動日本委員会
http://imadr.net/books/world_human_rights_24/』、14頁
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/kokusai/humanrights_library/treaty/data/cerd_gc_1_33_jp.pdf

(2017年12月15日 掲載)