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国際人権ひろば No.73(2007年05月発行号)

コラム 世界の人権教育

地域住民が支える識字・日本語活動 ~大阪市地域識字・日本語交流教室

森 由香 (もり ゆか) 大阪大学大学院人間科学研究科博士課程

  2006年11月にヒューライツ大阪と人権教育国際会議実行委員会によって開催された「人権教育国際会議2006?大阪とアジアとの対話」において、人権教育を地域社会での経験から学ぶことの重要性や、学校と地域社会のパートナーシップによって人権教育を進める必要性について確認された。地域には解決すべき様々な課題があるが、実際には身近なものとして表面化していないものも多々ある。人権教育は学校で教員だけが行うのではなく、教員や児童・生徒が地域の人権課題に目を向け、かつ住民にも学校に対して関心を持ってもらい、その上で協力しあうことが必要である。そこで、地域課題への「気づき」の場となる可能性を持つものとして、大阪市で実施されている「地域識字・日本語交流教室」の活動を紹介したい。

■大阪市の識字・日本語教室の現状と背景


  大阪市には部落差別や貧困、病気や障害等により教育の機会が十分に保障されてこなかった人々や、韓国・朝鮮人をはじめとする在日外国人でとくに高齢の女性に、文字の読み書きに不自由している人が多く暮らしている。そのような人たちへの学習機会の保障は、大阪市において長らく重点課題として取り組まれてきた。また近年では中国をはじめとする外国からの帰国者や、新たな渡日者の増加により、日本語学習機会へのニーズが高まっている。以上のような背景から、市内には公的社会教育による学習の場として識字・日本語関連の教室が多数存在している。学校教育において行われている中学校の夜間学級や、同和地区において始まった識字学級、市民学習センターなど社会教育施設で行われている教室などである。
  なかでも、地域識字・日本語交流教室(以下、交流教室)は、地域社会における生涯学習活動の拠点として、小学校の特別教室等諸施設を活用し、住民に身近な場で学習機会の提供を行っている「生涯学習ルーム事業」の一環として開催されている地域密着型の教室である。地域住民どうしの交流を中心に文字のよみかきをはじめとする日本語学習の支援の場として、外国籍住民の登録人数が多い区から順次年に1教室ないし2教室開設され、2007年4月現在で12教室となっている。「日本語を覚えて早く仕事を見つけたい」「出かけたいので地下鉄の駅名を知りたい」「子どもが学校からもらってくるプリントが読めるようになりたい」「日本人の友だちを作りたい」など、交流教室に集う学習者の背景やニーズは様々である。そこで交流教室では、国籍・年齢・学習歴など、学習者の多様な背景を考慮し、学習者と識字日本語学習を支援するボランティアが1対1または2対1で、学習者に合わせた内容と進度で識字・日本語学習が進められている。

■小学校の教室を利用する意味


  私は2002年10月?2005年3月の2年半、大阪市立総合生涯学習センターの職員として識字推進事業を担当していた。そして現在は、大学院に在学し、地域における生涯学習の基盤整備について研究を進めている。そこで、「識字・日本語の学習機会」という視点から見ると、この交流教室は、(1)学習者がそれぞれのペースに合わせて学習ができる、(2)ボランティアの多くは学習者と同じ地域に暮らす人なので、近所の店や最寄り駅などを題材に、学習者の生活に即した学習を進めることができる、という特徴がある。また、まちづくりにつながるような学校施設の活用事例の一つとしてこの交流教室の事業を事例として考えた場合、(3)地域住民は交流教室の存在を通して、地域での課題に気づく、(4)学校は交流教室の存在により、学校外の地域の状況に目を向けることができる、という「地域と学校をつなぐ場」となる可能性を持つものであるといえるだろう。
  この交流教室は、住民にとって身近な施設である学校、普段から集っている生涯学習ルームを利用して実施されることで、「何かしてみたい」と思っている人にとっては、活動への参加に対するハードルが低くなる。また、ボランティア入門講座や学習者募集など、交流教室に関するチラシを児童・生徒・PTAなど学校を通して配布されることにより、識字や日本語という課題に接する機会の無かった人がそれに関する情報を目にする機会を得ることになる。
  また、この教室は、最初の2年間は大阪市教育委員会による主催教室として立ち上げ支援を重点的に行い、その後生涯学習ルーム事業の自主教室という位置づけになる。立ち上げ支援として、広報や必要な設備・物品の整備に加え、教室における学習活動が軌道にのり、かつ立ち上げ支援後にボランティアによる自主運営ができるようになるための助言者として、現在は日本語教師の資格を持ち、かつ識字学習の知識を有するコーディネーターの派遣を行っている。立ち上げ支援の2年間に、コーディネーターの助言を受けながら、ボランティアによる教室の運営チームを組織し、教室の運営やその他の事務などを引き継ぎ、自主運営体制へ移行する。そして自主運営教室として、鍵の管理や学校行事との調整はボランティアと学校で行い、またあらたに教室への参加を希望する学習者や学習支援ボランティアの問い合わせ窓口として、各小学校が対応するなど、学校との連携により教室が運営されることになる。

■これまでの成果と今後の課題


  これまで開設された交流教室は、各教室の状況に応じて識字・日本語の学習活動や学習以外の交流活動を行っている。いくつかの交流教室では、教室の活動が学校や地域の新たな関係を作り出す可能性を示している。交流教室に通う学習者は、地域での生活に溶け込むことに困難を感じている場合が多い。そこで、地域で行われるお祭りのチラシを教室での学習に利用したり、生涯学習ルーム事業で実施されている料理教室に学習者を連れて行ったり、小学校を会場として行われる地域の運動会に一緒に参加するということを積極的に行っているボランティアもいる。
  逆に生涯学習ルームの他の活動に関わっている地域の人を交流教室に連れてくることにより、地域の人に識字や日本語学習について知ってもらうきっかけをつくるボランティアもいる。また、小学校に在籍している外国籍児童の進路相談に、交流教室の存在が重要な役割を果たしたことがあった。児童の親が交流教室に通っていたため、保護者を含めた進路相談の際に学校の先生と交流教室でのボランティアが同席することによって、スムースに話し合いができたということである。
  しかし、大阪市には2006年9月現在121,273名の外国籍住民の登録があり、現在実施されている社会教育施設・交流教室・民間の教室数ではまだ日本語学習の機会として十分とはいえない。識字・日本語の学習機会だけでなく、ボランティアの活動の場をも確保し、かつ広げるために、両方のニーズがあるということを地域や学校が認識し、これまでの成果を地域や行政に対して発信し、学習機会提供の重要性を伝えていくことが求められる。また、どこにどのような教室があるのかという広報もさらに必要である。そのためには、人権をテーマとして活動しているヒューライツ大阪のような非政府組織と行政、識字・日本語の学習情報を収集・発信しているおおさか識字・日本語センター、民間のNPOなどが連携し、学習相談の窓口を増やすことが必要であろう。
  地域の国際化・グローバル化というと、大きすぎて実感しにくいかもしれない。しかし、誰でも近くに困っている人がいたら手を差し伸べるだろう。交流教室の活動は、そんな自然な人と人とのつながりから、学習者と地域住民、そして学校と地域の架け橋として機能しつつあるといえる。

※参考ウェブサイト: おおさか識字・日本語センター

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