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国際人権ひろば No.64(2005年11月発行号)

国連ウオッチ

人種主義、人種差別、不寛容との闘い -国連人権高等弁務官事務所のバンコク・セミナーに参加して

ジェファーソン・R・プランティリア (Jefferson R. Plantilla) ヒューライツ大阪主任研究員

  国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、05年9月19日から21日にかけてタイのバンコクで「人種主義、人種差別、外国人排斥、および関連ある不寛容に対する闘いと、教育の役割」に関する専門家セミナーを開催した。これは、2001年に国連が主催した「反人種主義・差別撤廃世界会議」(ダーバン会議)で採択された宣言と行動計画の実施をめぐり、南アジアと東南アジア地域を対象としたものであった。専門家(助言者)に加えて政府や国内人権機関、NGO関係者ら約20人が参加した。
  セミナーの冒頭で、OHCHRのドゥジデク・ケドジアさんは、「ルイーズ・アルブール人権高等弁務官が、ダーバンの宣言と行動計画は差別と闘うための具体的で共通の課題として重要な文書であると述べている」と報告するとともに、ダーバン会議フォローアップのために任命されている「5人の著名な専門家たちが、教育や啓発へのアクセスは差別と闘う上で決定的に重要であり、差別の被害者のエンパワメントのための手段であると語っている」と述べた。

全体での討議


  OHCHRの反差別ユニットのコーディネイター代行のピエール・ソブさんは、宣言と行動計画の実施メカニズムを説明したうえで、教育の役割の重要性とともに教育分野が直面している課題について報告した。ユネスコのダリル・メイサーさんは、「反人種主義国際都市連合」の構想を紹介した。これは、人種差別や外国人排斥を撤廃するための政策や戦略の開発をめざして経験交流に関心を持つ都市(自治体)のネットワークを構築するために、ユネスコが04年以来開始している取り組みである。アジア・太平洋地域に関しては、バンコク市がそのリード役を担うことが決まっている。
  これを受けて、セミナーの助言者たちは、05年から始まった「人権教育のための世界プログラム」、教育に対する権利、学校や市民社会における人権教育の経験、メディアの役割などについて議論を行った。

課題と実践


  参加者は一様に「ダーバン宣言と行動計画」の完全実施は巨大な課題であることの認識を新たにした。それは、貧困、社会的ヒエラルキー、調和した社会建設のための国の政策、異なった宗教間の緊張関係、差別の加害者に対する不処罰の問題、政府が特定の差別の存在じたいを否定している現実、学校システムの問題など多岐にわたっているからである。
  参加者は、南・東南アジアにおいて差別や排除の問題にどう対処しているかについて参考となるよい事例(グッド・プラクティス)を出し合った。そのなかで、とりわけ先住民族、少女、外国籍の子ども、障害児など異なった社会的、経済的、民族的背景に基づき不利な立場に置かれている子どもたちの教育へのアクセスや質を推進している実践事例が報告された。具体的には、先住民族の学校の創設、「教育のための食料」プログラム、人権教育に関するサブ地域プロジェクト[注1]、法律アカデミーにマイノリティの構成員を入学させる、社会的に排除された人たちを支援する施設の設立、国内人権機関による差別問題に焦点をあてた啓発プログラム、女性と子どもの権利に関する啓発事業、異なった集団間の対話、ネットワーキングや政策提言、差別と闘うための連帯強化などがあげられた。

セミナーで出された提言


 参加者は、各国政府に対して、OHCHRやユネスコ、政府間機関、市民社会などと協力して次のような行動をとるよう要請した。
  • 人種主義と闘うための明確な政策の確立、および異なった集団間の社会的結合の促進。
  • 社会のあらゆる分野の人々とともに歴史がどのように書かれ教えられているのかについて再検討し、文化的多様性に対応するためのより多元的な分析を確保すること。
  • 人種差別撤廃条約をはじめとする人権条約を批准・加入し、「ダーバン宣言と行動計画」を社会に普及させていくとともに、自国の言語に翻訳すること[注2]
  • 人権条約や「ダーバン宣言と行動計画」、とりわけ教育や人権教育に言及している条文・箇所の実施を系統的に行うこと。
  • 学校における人権教育を促進する「人権教育のための世界プログラム」を普及し実施すること。
    1. 人権の原則を反映した教育政策、立法、戦略、および関係者を巻き込んでそれらを実施する適切な組織的方法。
    2. 人権の原則に基づき、それらを包含した学習プロセスとツール開発(カリキュラム、教授方法、教科書などの教材)
    3. 人権が尊重される学習環境。児童・生徒、教職員、保護者など学校システムのすべての構成員は、人権に基づいて行動し、子どもたちは学校生活において完全参加できるようにする。
    4. 学校において人権教育を実施するために必要な知識、理解、スキル、能力を有するとともに、適切な労働条件と地位が保障された教育専門家の配置。
  • 「人権教育のための世界プログラム」を実施するための国内戦略を策定する際には関係者の参加を確保すること。
  セミナー参加者は、学校カリキュラムのなかに差別や排除の撤廃をめざした内容を盛り込むよう提案した。さらに、教員、その他の専門職、若者、ビジネス界のリーダー、市民などが主要な国際人権文書に基づいたトレーニングに参加することが促された。また、以下の提案も行われた。
  • ある集団に対する偏見を除去するために、子どもにわかりやすい教育や学校環境を整備。
  • 特別なニーズを持った子どもたちに対する効果的な配慮の促進。
  • コミュニティにおける教育の促進および地域の知恵の活用。
  • 公立、私立を問わず、学校や研究・研修機関において不利な立場にある集団のためにクオータ制を促進。
  • 教育へのアクセスのみならず、差別防止を志向する教育の質に力点を置く。
  • 多言語による印刷物を使用するなど教育における多文化主義の促進。
  参加者は、裁判官をはじめ法曹関係者に対する研修のなかで人権教育を組み込むことも提言した。
  学校教育ではなく非定型教育に関して、参加者は市民社会を巻き込み文化横断的な協力を通じた啓発活動により差別や排除を克服する必要性を確認した。コミュニティ志向の取り組みを通じて、人権問題に敏感な考え方を育む必要があるとともに、寛容と相互尊重を促進する際の家族の役割を強化する必要が論じられた。コミュニティ志向の取り組みとは以下のようなものである。
  • アクセスが容易で、人権に敏感かつ異なったエスニック集団の対話の橋渡しをするような先住民族のメディアをはじめとするオールタナティブなメディアを育成する。
  • コミュニティ・ラジオ局を活用・認知・開設する。
  市民社会における情報技術の活用促進とともに、情報過疎を克服する必要があるとの指摘があった。また、南・東南アジア地域内外における、ダリット(被差別カースト)や日本の被差別部落出身者をはじめとする社会的に疎外されている人々の直面する課題を議論する場も必要であるという意見が出た。
  それぞれの自国での経験に基づき、人種主義と対決するためのグッド・プラクティスおよび失敗事例を調査し情報交換するという提案も出された。それを受けて、人権教育・啓発をさらに推進するための関係者間のネットワークの強化の必要性が強調された。
  このセミナーで出された提言のフォローアップとして、参加者はOHCHRに対して2年後をめどに評価するよう要請した。

いくつかの所感


  今回のセミナーでは、南・東南アジア地域を対象に2001年の「ダーバン会議」における課題に関して議論することができた。ダーバン行動計画およびその実施に際したグッド・プラクティスについて話すこともできた。これらのことは、前進であるといえよう。次に求められるものは、各国政府が合意してできた同行動計画をいかに確実に実施するかである。
  その意味で、セミナーにほとんどの政府が代表を派遣してこなかったことから、それらの政府が議論の内容をシェアできなかったことが悔やまれる。セミナーの中身はとりわけ教育に力点を置いたものであっただけに、教育省関係者の参加が強く望まれたのである。そうしたなか、アフガニスタン、カンボジア、ラオス、モルディブの教育省が代表を派遣していたのは評価できる。
  また、セミナーはダーバン行動計画の実施にあたり「人権教育のための世界プログラム」、ユネスコの「反人種主義国際都市連合」、「2005年国連世界サミット」の成果文書をはじめとする国連の取り組みの数々とリンクさせていたことも特筆事項だ。したがって、各国政府がこれらの取り組みはいずれも人権と関連しているということを認識する必要がある。そのうえで、たとえ財政・人的資源上の制約があったとしても、各国には国際的な約束ごとを実行に移していくことが求められている。まだ認知されないグッド・プラクティスがそれぞれの国に存在することであろう。それらが参考となったり、さらに改良されながら実施されることが望まれる。
  最後に、人権の視点から述べれば、国内問題は国際的な関心事でもある。たとえば、カースト差別はダリットに対する非人間的な扱いを止めていくための国際的支援が必要なのである。

注1:サブ地域の取り組みとしては、ヒューライツ大阪が05年4月にマニラで主催した東南アジアの学校向けに制作された「レッスンプラン」(英語版からクメール、ベトナム、インドネシアの各語による翻訳・出版済み)のトレーニング・ワークショップなど(本誌05年5月号・No.61に報告を掲載)
注2日本語の翻訳

(訳:藤本伸樹・ヒューライツ大阪)

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