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国際人権ひろば No.89(2010年01月発行号)

アンサン(安山)の移住者(外国人)への支援活動:現状と課題

オ・ギョンソク

「先進的自治体」アンサン市の今

 ソウル市に隣接する京畿道にあるアンサン市は、韓国を代表的する移住者の町といわれている。移住者が一番集中しているだけではなく、20を越える NGO が活発に移住者・移住労働者の支援活動に取り組んでいる。またアンサン市は、さまざまな先進的な行政政策を行ってきた。自治体で初めて外国人住民専門の部署を設け、韓国唯一の公的施設としての「外国人住民センター」がある。また未登録の外国人在留者(いわゆるオーバーステイ)を排除しない条例として、外国人人権条例を全国ではじめて制定した。そうすると移住者が一番住みやすい町であると思われるだろうが、今、アンサンの移住者が町を離れはじめている。様々な人々が外国人の人権保護、生活改善について努力しているにもかかわらず、なぜ移住者が去るのか、この問題を共有したい。
 アンサン市は外国人に関わりいい評価をされている。「移住者の首都」「移住者支援活動のメッカ」ともいわれている。韓国で「多文化共生」が政府によって提唱され始めたのは2005年のことであるが、アンサンでは1990年代半ばには、NGO が「国境のない村」づくりの運動を提唱していた。現在では、行政的に「多文化特区」という指定を受けて、マスメディアは「多文化一番地」と称したりしている。
 アンサン市に現在、52カ国、約 3 万 3 千人の外国人登録者がいるが、その内中国籍は 2 万 2 千人余り、ベトナムとフィリピン国籍は約 2 千人余り、インドネシア国籍は、1,400人である。未登録の外国人を含めるともっと多くなる。アンサン市内でもウォンゴク本洞というまちに外国人が集中していて約40%が住んでいる。研究者の調査によると外国人が経営する店や企業は400を越えるという。自国の食材を提供する店も多い。

アンサンの移住者のタイプ別統計(2008年12月)
移住労働者
結婚移民者
専門職就業
同伴などその他
合計
26,440
3,605
440
2,523
33,008

移住者支援団体の現状

 移住者支援の団体には、公的機関によるもの、外国人住民支援を専門にする NGO、他の課題も扱いながら外国人住民支援しているものに大きくわけられる。活動資金について分析すると宗教団体を基盤とした団体は自己資金率が高いが、そうではない団体は公的支援の割合が大きい。スタッフの規模は 5 人以下が多い。各団体のプロジェクト数と期間を調査したが、一番多いのは、アンサン市が直営している「アンサン市外国人住民センター」で、現在計28個のプロジェクトを進めている。
 全体的にみると、移住者支援プログラムは量的には拡大している一方、質的には不十分であるといえる。参加した移住者の数や参加満足度はそれほど高くない。
 アンサンで活動している15の支援団体を選んで、自分たちの活動にどのような問題があるのか、質問したところ、財政や性政策の不安定性などの構造的な問題、支援方法論の問題、「多文化」に対する哲学の貧困などが問題点としてあがってきた。私は「活動の重複と空白」という表現を使っているが、各団体で同じような支援プログラムを行っていて、結局プログラムからこぼれる外国人がいる。

外国人人権条例と未登録外国人

 韓国には在韓外国人処遇基本法をはじめ在韓外国人の保護・支に関する法令があるが、その対象から未登録外国人は排除されている。しかし現在20万人以上の未登録外国人がいるといわれる。
 ところでアンサン市が制定した居住外国人人権増進のための条例は、この未登録外国人に対しても適用すると規定している。ただ条例が制定された一方、市内の未登録外国人への警察の取締がもっと厳しく行われているともいわれている。一部の NGO は、この条例が、ある意味で理念としてのみ作用していくのではと危惧し批判している。

多文化特区は誰のため

 ウォンゴク本洞一帯を外国人にとって住みやすい街に変えようというプロジェクトが多文化特区である。しかし2007年にアンサン市が特区申請をしようとした時、市民団体が、ハード中心の開発はむしろ外国人に住みにくい町になると反対して中止になった。しかし2009年に再度申請し政府の特区指定を受けた。開発に着手するという話があってから、地価は上昇した。その結果賃貸料を払えない外国人は去ったのである。このような開発が続くと移住者が一人もいない多文化共生特区の開発となるのではないかという心配すら出ている。
 特区指定に反対する市民団体や外国人が集まってデモをしたときのスローガンを紹介する。「ウォンゴク洞の未来は全ての住民が決定すべき」「移住民がいなくなるとと商人たちも商売がうまくいかなくなって生きていけない」「移住民共同体を破壊する拙速的な多文化特区の計画の撤廃」である。

時間をかけてステークホルダー(利害関係者間)の対話を

 アンサンという都市が韓国の多文化地域であることは間違いない事実である。国、自治体、市民団体が努力している一方で、アンサン市で直接目にする移住者の生活はそれほど改善されていないように思う。むしろ彼らは取締を避け、あるいは家賃が払えずアンサンを去りつつある。なぜ、看板と実態のギャップができてしまったのか。これは私の答であると同時に質問でもある。今後は新しいプログラムを出していくよりも、この現実と理想とのギャップを埋めていく努力が必要だと考えている。
 また、アンサン市ウォンゴク洞には実際にさまざまなステークホルダー(利害関係者)がいるわけで、そのバランスを取るのは、一つの行為者のみで行えることではない。長い時間をかけて討論し、利害関係者が共に悩んでいくという時間が必要である。日本の経験を聞いて、共に議論することを通じて、アンサンの問題点を解決する何か糸口を見つけることができたらと思う。