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2001年ダーバン会議(反人種主義・差別撤廃世界会議)とその後の動向

ダーバン宣言・行動計画の実施状況とダーバン会議後のフォローアップ

1.国連人権高等弁務官事務所による報告から

 2001年8~9月に南アフリカのダーバンで行われた反人種主義・差別撤廃世界会議(正式名:人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容に反対する世界会議。以下では「ダーバン会議」とする)で採択された宣言・行動計画の実施状況、ならびに会議後のフォローアップについては、情報の収集発信の中心的役割を担っている国連人権高等弁務官事務所による報告が最も総括的で、概観を知るには妥当な報告であると思われる。

 人権高等弁務官事務所による報告文書は、人権委員会と総会に年に1度提出されることになっている。国連総会第57会期(2002年9月)に提出された報告(A/57/443)、そして、人権委員会の第59会期(2003年3~4月)において提出された報告( E/CN.4/2003/18)の2つの文書をもとに、ダーバン宣言・行動計画の実施状況とダーバン会議後のフォローアップについて紹介する。

 これらの報告では、加盟国、人権条約機関、国連機関、専門機関、国際および地域機関、国内人権機関、そしてNGOによるダーバン会議後の取組みがまとめられている。人権高等弁務官事務所によって事前に情報提供が依頼されており、その回答を主な情報源としてまとめられたものである。文書の中では個々の活動報告は短く簡潔に記述されているにすぎないし、とくに国家による回答などは、活動の実態が吟味される必要がある。さらに、提供された情報が、行われた活動のすべてではないだろう。ただ、これら報告文書を見ると、多様な方面で多様な機関がフォローアップの活動に実際に取り組んでいるという印象を受けるし、ダーバン会議の成果(困難を経て採択された宣言や行動計画など)が有名無実化していないという、ある種の励ましを与えるものではないかと思う。

2.国家政府による取組み

 まず、報告の中で政府による取組みがまとめられた部分で、2002年9月の国連総会への報告時点で、アルバニア、アルゼンチン、コロンビア、クロアチア、キューバ、キプロス、チェコ、ドイツ、リヒテンシュタイン、メキシコ、モロッコ、オランダ、ノルウェー、ルーマニア、ロシア、そしてスイスの取組みが挙げられている。さらに、2003年3月の人権委員会への報告時点では、これらに、ベルギー、イラン、ジャマイカ、スペイン、タイ、英国についての記述が加えられている。

 その内容は、たとえば、ダーバン宣言・行動計画を踏まえた国内行動計画の策定および策定に向けた準備や取組み(アルゼンチン、コロンビア、クロアチア、デンマーク、リヒテンシュタイン、ノルウェー、英国)、自国憲法や国内法の改正(クロアチア、メキシコ)、過激な人種主義や極右主義に対応した法律や行政措置の強化(チェコ、ドイツ)、民法・労働法の下での差別禁止法の制定準備(ドイツ)、個人の申立の受理能力を高める法制度の策定(メキシコ)、個人あるいは集団の人種差別撤廃委員会への通報を認めた人種差別撤廃条約14条の受諾宣言(ドイツ、メキシコ)、「差別と闘う国内評議会」の設立(ルーマニア)、テーマ別活動の実施(スイス)、人種差別撤廃委員会への定期報告の提出(イラン)、ダーバン会議の重要性を一般市民に知らせる集会の実施(モロッコ)、NGOを含めた集会の開催(ジャマイカ)、ダーバン行動計画の出版・配布(スペイン)、政府省庁へのダーバン行動計画の配布(ジャマイカ)、ダーバン会議について知らせるための出版物の作成(ベルギー)、人種差別に反対するリーフレットの改訂出版(オランダ)、ポスター・リーフレット・テレビ広告などによるメディア・キャンペーンの実施(チェコ)、人権教育の推進(ジャマイカ)などが見られる。

 報告に含まれた数少ないアジア・太平洋地域の国のひとつであるタイでは、2002年8月、ダーバン会議のフォローアップの一環として外務省主催のセミナーが開催され、政府機関やNGO、メディア、市民、そして少数山岳民族も参加したとされている。また、ダーバン行動計画(英語版)と、そのタイ語での概略版が出版されたとしている。さらに、人種差別撤廃条約の加入が検討されており、ダーバン行動計画が2005年までの全世界の批准を呼びかけているのに従い、締約国になることが予定されているとのことである。  回答を送っていない日本政府の取組みはどうかというと、ダーバン会議後、上記のようなアクションはほとんどとられておらず、意思の欠如は否めない。ダーバン行動計画が諸国家による「約束」であるという認識の欠如ともいえる。

3.その他の機関の取組み

 報告文書には、政府のほかに、多様な機関の活動も数多く記述されている。ダーバン会議のひとつの特徴は、関連する人権課題やテーマが多岐にわたっていることである。宣言が122段落、行動計画は219段落あることからもそれがわかる。NGOフォーラムの宣言・行動計画に至っては合わせて473段落に及ぶ。

 人権条約機関、国連機関、専門機関、国際および地域機関、そしてNGOなど、関連するさまざまな機関・団体がダーバン会議のフォローアップに従事している。

 たとえば、ユネスコ(国連教育科学文化機関)では、ダーバン会議のフォローアップのための戦略を採択し、特別な部局を設け、調査研究や世界戦略作成のための一連の地域会合を各地域で開催している(それら地域会合のまとめとなる専門家会議が、ヒューライツ大阪と反差別国際運動〔IMADR〕の協力で2003年6月に大阪で行われることになっている)。

 国内人権機関による取組みの報告として、アジア・太平洋地域の国内人権機関フォーラムが、「人種主義、メディアそして人権教育」をテーマとした会議を2002年7月、オーストラリアのシドニーで開催しているほか、フィジー人権委員会は2002年8月、「人種の関係を再構築するダーバン会議のフォローアップ」をテーマに会議を行っている。

 若者によるフォローアップでは、アジア・太平洋地域においても活動が展開されており、27の国のそれぞれ拠点となる団体・個人を集めたワークショップが、2002年7月にタイのバンコクで行われたことが報告されている。また、そのワークショップに引き続いて、2002年9月以降、国内レベルでの取組みがアジア各国で数多く行われている(ヒューライツ大阪の英文ニュースレターFocus第31号を参照)。

 国連人権高等弁務官事務所は、ダーバン会議後にフォローアップの役割を担うために設立された「反差別ユニット」を中心に、会議やセミナーの開催、出版物の作成、関連する会議への参加やそこでの発表、報告書の作成、NGOとの連絡、良き実行(ベスト・プラクティス)の例のデータベース作成、各種機関との連携・協力、若者のネットワークの推進など数多くの重要な仕事を担ってきた。今後も引き続きそうした役割を担っていくだろう。

 最後に、日本国内でダーバン会議に向けて組織されたNGOおよび市民の連合体「ダーバン2001」は、ダーバン会議の報告集会を開催したり、NGOフォーラムの宣言・行動計画を手分けして翻訳し、協同して作成した。また、ダーバン会議の多様なテーマごとの解説やふりかえり、そして宣言・行動計画の翻訳を収録した出版物がNGOの協力のもとに作成された(『反人種主義・差別撤廃世界会議と日本』解放出版社、2002年)。この出版物の作成は、前述の国連報告文書にも紹介されている。