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1998年の国連の動き

 世界人権宣言50周年、ウィーン会議5年目にあたる、「人権年」と呼ばれる1998年は、「人権擁護者の権利に関する宣言」の採択など、人権分野 における歴史的展開が見られた年でもあった。以下、アジア・太平洋地域に関連したものを中心に、国連の人権活動の概要を紹介する。

1.国連人権委員会
2. 国連人権小委員会
3. 国連人権高等弁務官 事務所
4. 女性の地位委員会
5. 人権条約機構

1.国連人権委員会

 1998年 末「人権年」という記念すべき年に開かれた第54会期人権委員会は、総勢70名に及ぶ各国の政府上官(大統領、首相、外務大臣、法務大臣など)による連日 のスピーチで幕を開けた。今会期では、合計84の決議、12の決定、さらに経済社会理事会での採択のための3つの「決議案」および42の「決定案」が採択 されている(E/1998/23-E/CN.4/1998/177)。

(1)1503手続による非公開の人権状況の審議

 大規模人権侵害の事態を特定すべく1970年に設置された同手続の下、第54会期では、計9カ国の人権状況が取り上げられ、アジア・太平洋地域の 国としては日本とキルギスタンが含まれていたが、両者とも他の4カ国と共に、その審査の打ち切りが決定された。なお、チャドについては、特別報告者が任命 されている。

(2)個別の国の人権状況に関する決議

 個別の国・地域の人権状況に関する決議は今会期計22採択された( 表1)。 これには、助言サービス対象国、テーマ別手続の下で取り扱われた地域が含まれている。キューバの人権状況に関する決議は、1991年以降初めて今会期、僅 差で否決された(賛成16、反対19、棄権18)。

 アジア・太平洋地域では、引き続き、ミャンマー(ビルマ)、アフガニスタン、およびカンボジア(助言サービス)に関する決議が採択されている。

 1989年の天安門事件以来、欧州連合などにより毎年出されていた中国の人権状況に関する決議案は、中国が社会権規約に署名し(1997年10 月)、市民権規約も同様に署名する意向を示すとともに(1998年10月に署名)、さらに国連高等弁務官を迎え入れたこともあり、今会期は準備されなかっ た。

 昨年採択された東ティモールに関する決議は、今会期も欧州連合により決議案が提出されたものの、舞台裏での関係国と議長との協議の結果、国内人権 行動計画の着手など、インドネシア政府によるにポジティブな動きに触れた、議長声明というかたちになって採択された。

(3)国別の特別報告者など 表2参照)

 前会期より2カ国多い、14の国・地域に関する報告書が、特別報告者などにより第54会期人権委員会に提出された。うち、ザイール(現コンゴ民主 共和国)東部に関する報告書は、テーマ別特別報告者・作業部会委員との共同調査報告である。アジア・太平洋地域に関するものとしては、アフガニスタン(白 忠鉉・特別報告者)に関する報告書(E/CN.4/1998/71)、そしてミャンマー(ビルマ)の状況(ラズスーマー・ララー・特別報告者)についての 報告書(E/CN.4/1998/70)がそれぞれ提出されている。

 さらに事務総長報告として、東ティモールの人権状況(E/CN.4/1998/58)、カンボジア政府および人民の援助における国連人権高等弁務 官事務所の役割に関する報告書も提出された。

 ウィーン(世界人権)会議5年目の総括のなかでも高く評価された、国連人権高等弁務官事務所が提供する人権分野における技術協力を受ける地域に関 する独立専門家による定期報告システムの下では、カンボジア(事務総長特別代表、E/CN.4/1998/95)、ハイチ(A/52/499 (E/CN.4/1998/97))、ソマリア(E/CN.4/1998/96)についての報告が出されている。グアテマラ(E/CN.4/1997 /93)に関する報告は、事務総長使節団員によるもので、この報告書を最後に、人権委員会は1979年以降毎年検討された同国の人権状況の検討の終結を決 定している(決議1998/22)。

(4)課題別特別報告者(または作業部会)

 第53会期には、計13項目に関する課題別特別報告者(作業部会)の報告が提出された。

 報告書で取り上げられているアジア・太平洋地域の国名について、主なものは表2にまとめたとおり。ただし、このほか、政府、国連・国際機関あるい はNGO(非政府団体)からの特定国に関する情報も、多くの報告書で引用、あるいは参考にされている。日本については、「人種主義、人種差別および外国人 排斥に関する特別報告者」報告(E/CN.4/1998/79)でインターネット(電子メディア)を利用した被差別部落民、在日コリアンなどに対する差別 問題が、「女性に対する暴力、その原因および結果に関する特別報告者」報告(E/CN.4/1998/54)で「従軍慰安婦」問題が、それぞれ取り上げら れている。

(5)人権基準策定

 人権基準策定作業の中心的役割を担う国連人権委員会では、1998年現在、以下のような国際人権文書の作成が終了あるいは着手されている。

(a)作成作業が終了したもの

・社会の中の個人、グループおよび組織の、普遍的に承認された人権および基本的自由を伸長および保護する権利と義務に関する宣言案(「人権擁護者の 権利に関する宣言」)

 1998年2月23日~3月4日に開かれた第13会期作業部会は、世界人権宣言50周年にあたる1998年における宣言案の採択のために注がれた 努力が実り、長年の作業をようやく終了させた(E/CN.4/1998/98)。今会期の作業は、前会期以降に行われた非公式協議の結果、議長より作成・ 提出された2つの新しい条項(国際基準に矛盾しない国内法が人権保障における司法の枠組となることの確認など)を含む修正テキストを基に進められた。この テキストでは省かれていた活動資金を求め、受け取る権利に関する条項は、南アフリカの提案により、あらためて盛り込まれることになった。シリア、キュー バ、スーダン、イエメン、中国、イラン、エジプトなどにより長い修正案リストが提出されたものの、オランダ、エジプト代表により開かれた非公式起草グルー プによる長時間に及ぶ協議の末、最終日、妥協・修正案がコンセンサスで採択された。このテキストは、人権委員会による採択を受け、1998年12月9日、 「50周年」前日に総会において採択されている。

(b)すでに着手されているもの

【条約・選択議定書】

1)子どもの売買、子どもの買春および子どものポルノの防止に関する子どもの権利条約選択議定書案

 子どもの権利条約採択10周年(1999年11月)までに作業を終了することを人権委員会より求められた作業部会は、1998年1月19日~30 日に開催した第4会期のほとんどを非公式起草作業部会の会合に費やした。それでもなお、定義、犯罪者の処罰、防止、援助および補償などに関わる問題に関 し、選択議定書の対象範囲をできるかぎり狭めようとするラテン‐アメリカ、ロシアをはじめとする国に対し、対照的な立場を維持する欧州諸国などの間に、明 らかな意見の相違が見られる(E/CN.4/1998/103)。

 草案の採択をめざす第5会期作業部会は1999年1月25日~2月5日に予定されている。

2)子どもの軍事紛争への関与に関する子どもの権利条約選択議定書案

 子どもの権利条約38条2項に規定されている敵対行為への参加が許される者の最低年齢15歳を引き上げることを主な目的の1つにした議定書。 1995年より作業部会において検討されており、1998年は2月2日~10日および3月19日に第4会期が開かれた(E/CN.4/1998 /102)。会期のほとんどを占めた非公式会合は比較的スムーズにスタートしたが、概ねコンセンサスが見られた要素を基にして議長により準備、提出された 「議長の認識」と題する議定書の新しい草案に対し、パキスタンとキューバなどがこれに強く反対し、会期は予定より3日早く終了することになった。敵対行為 への参加のための年齢制限に関しては、合衆国、韓国、パキスタンなどによる反対が引き続き見られたものの、18歳に引き上げることへのより広い合意が見受 けられた。第5会期作業部会は1999年1月11日~22日に開催の予定。

3)拷問およびその他の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いまたは刑罰を禁止する条約の選択議定書案

 拷問の発生防止のために留置(拘置)所を訪問することを可能にするメカニズムを設置することを目的とした選択議定書案。1997年10月13 日~24日に開かれた第6会期作業部会の第2読会では、計13カ条が採択された(E/CN.4/1998/42)。作業部会が多くの時間を費やした、任務 の遂行に必要なあらゆる施設への視察団のアクセスなどに関する12条は、合意が見られず、次会期への継続審議となった。数こそ少ないが、採択を待つ残りの 条項のほとんどは、選択議定書の中核となる重要かつ意見の分かれるもの。

 第7会期作業部会は1998年9月28日~10月9日に開催されている。

4)経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約選択議定書

 経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約に選択的通報制度(個人および集団)を設ける選択議定書案を社会権規約委員会より受けた第53会 期(1997年)人権委員会は、事務総長に対し、選択議定書案のテキストを政府、政府間および非政府機関に送付し、その意見をまとめ、翌年の人権委員会に 提出するよう要請。第54会期人権委員会にその結果が報告された(E/CN.4/1998/84)。回答を寄せた5カ国のうち、3カ国(キプロス、エクア ドル、フィンランド)が草案支持の意を示し、他方、ドイツ、シリアは、いくつかの点について留保する立場を表明している。

 人権委員会は、決議1998/33において、人権高等弁務官は、すべての(社会権)規約締約国に対し、選択議定書案についてのコメントを提出する よう強く求めるよう、要請している。

【宣言】

1)国連先住民族の権利に関する宣言案

 人権小委員会先住民作業部会により起草された宣言草案が、1995年より人権委員会作業部会で検討されている。第3会期(1997年10月27 日~11月7日)では、最初の2カ条が採択された(43条:男女平等、5条:国籍の権利)。また、宣言の大原則であるとする先住民族の強い要請により、自 決権に関する3条についての議論には2日が費やされ、当該条項における「自決権」の意味合いの明確化の必要性が、数カ国により強調された(E/CN.4 /1998/106)。

 第4会期は、1998年11月30日~12月11日に開かれている。

【その他】

1)人道に関する最低基準

 1990年フィンランドで開かれた専門家会合で採択された宣言案(E/CN.4/Sub.2/1991/55;修正版E/CN.4/1995 /116)が、1994年に人権小委員会により人権委員会に提出されて以降、検討されている。1998年人権委員会には、初めて、人道の基本的基準の追求 に伴うさまざまな問題を明らかに示すことを目的とした分析的報告書が、国連事務総長により提出された(E/CN.4/1998/87 and addendum)。報告書は、用語問題(「人道に関する最低基準」を改め、「人道の基本的基準」を使用)や「非政府行為者」の活動の扱いをはじめとし た、多くの問題を取り上げている。

2)人権および基本的自由の(重大な)侵害の被害者の原状回復、賠償およびリハビリテーションへの権利に関する基本的原則およびガイドライン

 テオ・ヴァン・ボーヴェン元人権小委員会特別報告者により1996年人権小委員会に提出された同基本原則・ガイドラインの修正版に対するコメント が、日本、フィリピンを含む5カ国から国連事務総長に提出された(E/CN.4/1998/34)。うち、ネガティブなコメントを出したのは日本のみ。人 権委員会は決議1998/43により、ヴァン・ボーヴェン基本原則・ガイドラインの修正版を準備することを任務とする専門家を任命している。

3)国内避難民

 1992年に人権委員会により任命された事務総長特別代表は、過去3年の国内避難民に関する既存の法基準の研究結果を基に、1998年1月に ウィーンで開かれた法律専門家との会合での協議のうえ、指導原理案を第54会期人権委員会に提出した(E/CN.4/1998/53/Add.2)。この なかには、「国内避難民」の修正定義、「恣意的移住から保護される権利」の定義などが含まれている。

4)構造調整プログラムと経済的、社会的および文化的権利に関する政策ガイドライン

 1996年人権委員会により設置された作業部会が、1997年3月3~7日、第1回目の会合を行い、人権小委員会に提出された事務総長の研究報告 (E/CN.4/Sub.2/1995/10)に収められている予備的な基本的政策ガイドラインを基に、構造調整プログラムとの明確なつながりが必要だと 考えられるいくつかの原則などについて議論を行った(E/CN.4/1997/20)。報告を受けた第53会期人権委員会は、作業部会の作業を助けるため に専門家を任命。しかしながら、専門家は「予期せぬ状況」のため研究報告書を提出できず、したがって、1998年2月に予定されていた第2会期作業部会は 延期された。

5)免罪と闘うための措置を通じた、人権の保護・伸長のための諸原則(市民的および政治的権利)(E/CN.4/Sub.2/1997/20 /Rev.1)

 ジョワネ小委員会特別報告者により作成されたもの。第49会期(1997年)小委員会はこの諸原則を第54会期(1998年)人権委員会に送付す ることを決定。これに対し、人権委員会は、国連事務総長に対し、各国政府、国際機関、NGOは見解およびコメントを特別報告者へ提供するよう求めるよう、 要請した(決議1998/53)。

6)死刑廃止

 決議1997/12に基づき、国連事務総長により、死刑に関する法および実施の変化に関する年間報告書が、第54会期人権委員会に提出された。 1996~1997年をカバーした報告書は、期間中3カ国(ベルギー、ポーランド、グルジア)が死刑制度を廃止し、1カ国(ロシア)が死刑の範囲を制限 し、そしてマラウイでは大統領がすべての死刑判決を減刑したことを伝えている。アジア・太平洋地域は、とりわけ死刑制度を維持している国が多く、人権委員 会に提出された、死刑に関する決議の採択反対の共同声明には、同地域では、バングラデシュ、ブータン、ブルネイ、中国、インドネシア、日本、マレーシア、 モルジブ、モンゴル、ミャンマー(ビルマ)、フィリピン、シンガポール、タジキスタン、ベトナムが署名している。

(6)発展の権利

 発展の権利の実施および伸長のための戦略を練ることを目的に1996年に設置された作業部会の第2会期が、1997年9月29日~10月10日に 開催され、グローバル戦略のための諸提案を採択した。また、発展の権利宣言のフォローアップおよびその実施に関する政府、NGO、国連機関のコメントが、 国連事務総長により第54会期人権委員会に報告されている。人権委員会は、発展の権利の実現に関し新たな進展をなすべく、フォローアップ機関として、新し い作業部会を設置するとともに、独立専門家も任命している(決議1998/72)。

(7)移住者

 移住者の人権の効果的かつ完全なる保護に対する障害について、各国政府、NGO、その他の情報源からあらゆる関連情報を収集し、移住者の人権のさ らなる伸長、保護ならびに履行のための勧告を検討することをその任務とする専門家作業部会が、1997年人権委員会により設置され、2つの会期(1997 年11月17日~21日、1998年2月16日~20日)が開催された(E/CN.4/1998/76)。第1会期において作業部会は政府、国際機関およ びNGOに対する質問票を作成、送付し、第2会期までにきわめて多数末計53(うち49は政府より)末の回答を受け、これらを分析した。移住者をめぐる問 題の重要性、多様性もあり、作業部会は任務を果たすべく、さらに2つの会期を1999年の人権委員会までに開くことが決定した(人権委員会決議 1998/16)。

2.国連人権小委員会

 調査研究をその主な任務とした、国連人権委員会の下部機関である人権小委員会(差別防止・少数者保護小委員会)第50会期は、1998年8月3 日~28日に開催され、30の決議と15の決定および3つの議長声明が採択された(E/CN.4/1999/4-E/CN.4/Sub.2/1998 /45)。

(1)1503手続による非公開の審議

 大規模かつ重大な人権侵害の事態を特定することを目的とした非公開通報手続。小委員会会期前に開かれる「通報作業部会」および人権小委員会本会議 による予備審査を通過した通報が、さらに国連人権委員会(人権侵害実態作業部会および本会議)に付託される。1.(1)参照。

(2)個別の国の人権状況に関する決議

 1996年以降、国連人権委員会との活動の重複を避けるため、小委員会は、人権委員会が検討中の(1503手続は除く)個別の国の状況については なんらの措置もとらないことを原則にしている。第50会期小委員会には、ベラルーシ、メキシコ、北朝鮮、バーレーン、アルジェリアに関する決議案とコソ ボ、ブータン難民に関する議長声明が提出され、このうち、アルジェリアに関する決議案は10対10(棄権4)で否決され、またバーレーンに関する決議案は 取り下げられた。インドネシアの人権状況については、多くの委員がその決議案提出を支持する意思を示していたと思われたが、最終的に決議案の提出はなされ なかった。

(3)作業部会による検討

1)現代奴隷制に関する作業部会

 奴隷条約や人身売買禁止条約などをその作業の基礎とする1974年設立の作業部会。1998年5月18日~28日に開かれた第23会期では、性的 搾取、人身売買、家内労働、子どもの労働、債務労働、戦時下における性的暴力、などが取り上げられた(E/CN.4/Sub.2/1998/14)。性的 搾取/人身売買に関しては、現代奴隷制に関する国連自発的基金の援助を受けたネパールNGO代表(サーバイバー)がネパールからインドへの少女の人身売買 の証言を行い、さらに反差別国際運動(IMADR)が関連ワーキングペーパーを提出し、これらを受けて作業部会は当該問題を次会期のメインテーマとするこ とを決定した。さらに「従軍慰安婦」問題も、引き続きNGOにより取り上げられた(次会期は1999年6月23日~7月2日開催予定)。

 同作業部会に関連する人権小委員会による「軍事紛争下の組織的レイプ、性的奴隷・奴隷類似慣行」に関する最終研究報告は、ゲイ・G・マクドゥガル 特別報告者により第50会期小委員会に提出された(E/CN.4/Sub.2/1998/13)。同報告書の補遺では、「従軍慰安婦」問題における日本政 府の法的責任が分析されている。

2)先住民作業部会

 「先住民族世界会議」とも呼ばれる作業部会。およそ950名の参加者を迎えた第16会期は、1998年7月27日~31日に開かれた (E/CN.4/Sub.2/1998/16)。1989年に始まったアルフォンゾ・マルチネス特別報告者による「国家と先住民との間の条約等建設的な取 決め」に関する研究の最終報告書がようやく提出され(ただし、提出が遅かったため、報告書の一部のみ、一言語のみが作業部会に配布された)、一般的コメン トが参加者より出された。発言を行った北米からの先住民族のほとんど全員が特別報告者を歓迎した一方、アジアとアフリカの先住民族代表は、アジア、アフリ カには先住民族は存在せず、作業部会に出席するこれらの地域からの参加者はむしろ「マイノリティ(少数民族)」である、という結論を出したようにも受け取 れる特別報告者の報告書に対し、強く反論。英語以外の報告書の準備が間に合わなかったこともあり、小委員会本会議では、報告書の検討は次会期に持ち越さ れ、特別報告者に対しては、作業部会で出されたコメントを基に訂正した最終報告書を準備するよう、要請している。このほか、作業部会では、民間セクターに よる鉱山開発等に関する原則・ガイドライン策定の可能性、先住民族と健康、土地問題、先住民族のための常設機関に関して、などが議論された(次会 期:1999年7月26日~30日)。

 第50会期小委員会本会議には、以上のほか、「先住民と彼らの土地との関係」に関する進捗ワーキング・ペーパー(E/CN.4/Sub.2 /1998/15)が提出されている。

3)マイノリティに関する作業部会

 1995年に設立され、1998年の人権委員会の決定により常設作業部会となった。1998年5月25~29日に開かれた第4会期では、第1会期 以降議長を務めるアイデ委員により提出された「『マイノリティ宣言』に関するコメンタリー」を中心に議論が行われた(E/CN.4/Sub.2/1998 /18)。前会期の作業部会の提案により開かれたメディアの役割に関する専門家セミナーの提案および結論は、時間不足のため作業部会では取り上げられず、 次会期に持ち越しとなった。会期を締めくくるにあたり、作業部会は、関係国の招待により委員は特定国を訪問することができる、とする決定を出している。 1999年5月25日~31日に開催予定の第5会期作業部会には、「マイノリティの存在および認識」など5つのテーマに関するワーキングペーパーが委員よ り提出されることになっている。

(4)調査研究

(a)第50会期に提出された前掲以外の特別報告者による調査報告のテーマは以下のとおり。

1)人権の享受と所得分配の関係(E/CN.4/Sub.2/1998/8)

 1997年、時間不足のためその検討が持ち越されていたホセ・ベンゴア特別報告者による最終報告書。報告書で勧告されている、小委員会の枠組内に おける社会フォーラムの設置は小委員会の支持を受け、人権委員会による承認を求めることを決定した(決議1998/14)。

2)女性と子どもの健康に影響を与える伝統的な慣行(E/CN.4/Sub.2/1998/11)

 1994年小委員会で採択された「女性と子どもの健康に悪影響を与える伝統的な慣行の撤廃のための行動計画」(E/CN.4/Sub.2 /1994/10/Add.1 (Corr.1))の各国での実施状況をフォローアップする、ワルザジ委員による第2回報告書。グアテマラ、英国、カタール、メキシコ、フィンランド、ポ ルトガル政府からの回答が収められている。

3)司法の実施(E/CN.4/Sub.2/1998/19)

 1981年以降毎年会期中に開催される作業部会による検討。1998年4、7および12日に開かれた作業部会には、死刑、人身保護令、そして「あ らゆる者の強制失踪からの保護に関する国際条約」案、に関する文書が提出された。このほか、少年司法、刑務所の民営化などの問題も議論されている。

(b)ワーキングペーパーによる研究

 以下のようなテーマに関するワーキングペーパーが第50会期小委員会に提出された。アファーマティブアクションの概念、人種差別撤廃条約7条(人 種差別撤廃委員会との共同研究)、人権教育を含む教育権、人権の享受と多国籍企業の活動等との関係、飲料水へのアクセス権、適当な食料への権利、大量破壊 兵器と人権。

(5)人権基準策定

1)あらゆる者の強制失踪からの保護に関する国際条約案(E/CN.4/Sub.2/1999/19, annex)

 1996年の司法の実施に関する作業部会にジョワネ委員により提出された原案を基にしたもの。1997年11月および1998年3月に開かれた国 際専門家会合でのさらなる検討を終えた第2ドラフトが1998年作業部会に同委員により提出され、議論の末訂正された草案を、小委員会は人権委員会に付託 することを決定した(決議1998/25)。

2)先住民の文化遺産の保護のための原則およびガイドライン案(E/CN.4/Sub.2/1994/31,annex)

 先住民の文化遺産の保護に関する特別報告者により起草されたもの。国連人権高等弁務官に対し、「原則およびガイドライン」案に関するセミナーを第 16会期(1998年)先住民作業部会開催までに開くよう求める1997年小委員会の要請が、1998年人権委員会により承認されている(決定 1998/103)。

3)強制退去の実施:開発に基づく移住に関する広範的な人権ガイドライン(E/CN.4/Sub.2/1997/7)

 1997年6月11日~13日にジュネーブで開催された、強制退去の実施に関する専門家セミナーにおいて採択されたもの。人権小委員会はこれを再 度歓迎するとともに、人権委員会に対し、各国政府がこのガイドラインを第56会期(2000年)人権委員会で承認する方向で検討するよう求めることを、強 く要請した(決議1998/9)。

3.国連人権高等弁務官 事務所

 人権年1998年は、前年9月に就任したばかりのロビンソン第2代高等弁務官と弁務官を支える当事務所にとって、とりわけ重要な1年となった。以 下、過去1年間の新しい動きを含めた国連人権高等弁務官事務所の主な活動を簡潔に紹介する(A/53/36、E/CN.4/1998/122、E /CN.4/1999/9)。

(1)国連人権高等弁務官事務所

(a)機構改革

 1997年に大規模な機構改革が行われた国連人権部門も、1998年2月にはようやく、新規一掃した国連高等弁務官事務所が完全に活動を行える体 制が整った。11月にはその新しいアイデンティティを象徴するかのように、事務所は独自の建物パレ・デ・ウィルソンに居を移している。1998年末には、 国連中枢部で長年の経験を持つ第2代副高等弁務官が就任。

 事務所の事業関連部は引き続き1)調査および発展の権利部、2)支援サービス部、3)活動・計画部の3つからなるが、縦割主義を打破すべく、関連 問題を扱うスタッフのグループ化も図られている(例:人種主義、人身売買、ジェンダー)。

(b)財政

 高まる需要に伴わない人権部門への国連の通常予算の低い配分のもと、求められる活動を可能なかぎり遂行すべく、国連の人権活動はその活動資金の多 くを政府その他からの寄付、あるいは外部資金(財団の助成金)に頼っている。現在、国連高等弁務官の下には、人権保護・伸長のための「技術的協力のための 自発基金」、現地活動一般のための「人権現地活動自発的基金」、さらに特別手続および各種プログラムのための「拷問被害者のための自発的基金」、「現代奴 隷制自発的基金」、「先住民自発的基金」、「『世界の先住民の国際10年』自発的基金」、「『第3次人種差別と闘う10年』自発的基金」などがある。この ほかにも、下記の特別プログラムのほとんどが外部資金に頼っている。

 他方、現地活動は、過去その大多数が自発的基金に頼っていたが、最近は、国連その他の機関との共同運営にすることにより、国連の通常予算に含まれ るようになってきている。

(2)国連システム内での人権

 人権の促進は国連の他の活動から切り離してはならず、国連システム全体に統合されなければならないということが、国連事務総長から繰り返し強調さ れている。現在、国連活動4つの中核分野(平和と安全保障、開発協力、国際経済社会問題、人道問題)に人権問題が含められていることが、これを象徴してい る。また、高等弁務官事務所も、国連の他の部門、機関、プログラムとの連絡、調整を強化してきている。

 1998年総会に提出された報告では、人権高等弁務官事務所との定期的協力、そして相互理解の覚書の署名を通し、人権をその活動に取り込んでいる ところとして、政治問題部、平和維持活動部、人道問題調整事務所、人道問題執行委員会、国連開発計画(UNDP)、ユニセフ、国連難民高等弁務官、国連人 口基金、世界保健機構、が挙げられている。

 3月4日に署名されたUNDPと弁務官事務所の覚書は、各々の機関の活動のあらゆるレベルにおける緊密な協力を行うきわめて具体的かつ包括的な領 域をカバーしている(発展の権利、国際人権条約、国連人権委員会の機構および手続、技術協力・助言プログラム、トレーニング、など)。 

 地域機構との連携も進められており、調整・共同プロジェクトを通したより効果的かつ能率的な人権の促進のための合意書が、欧州安保協力機構 (OSCE)との間には結ばれている。

(3)各国政府との調整・支援

(a)各国政府訪問

 就任以来、ロビンソン高等弁務官は、ルワンダ、南アフリカ、カンボジア、中国などを訪問している。1998年9月に訪問した中国では、国際人権文 書の批准、国連人権機構とのよりいっそうの協力を含む広範な人権問題が、中国政府との間で話し合われ、技術協力活動の展開のための決意の覚書が署名されて いる。カンボジアでは弁務官事務所の現地事務所を訪れている。

(b)人権のための技術協力と助言サービス

 高等弁務官が優先事項の1つとする活動領域。技術協力は、国内人権機構や基礎設備の強化などに力点をおいている。技術協力プログラムは過去10年 間で、年間数えるほどのセミナーやフェローシップの開催から、およそ40カ国の200ほどの主要活動にまで拡張している。

 国内人権委員会の設立・強化はとりわけ重要視されており、現在人権高等弁務官事務所は、独立した国内機関の設置過程にある40を超える政府に助言 を与えるとともに、既存の国内機関を支援している。

 このプログラムの下、現在37の国内、地域および世界プロジェクトが進められており、アジア・太平洋地域では、ブータン、ネパール、モンゴル、パ プア・ニューギニアなどで国内技術協力活動が実施されている。また、インドネシア、フィリピン、ベトナムでのプロジェクトは、現在のところ準備の最終段階 にあり、さらにバングラデシュ、中国からは新規技術協力の要請が提出されている(E/CN.4/1999/99)。

 1987年設立の「人権分野における技術協力のための自発的基金」は、1993年12月より理事会により運営されている(日本の武者小路公秀氏が メンバー)。

(c)現地活動

 1999年人権委員会に提出された報告書(E/CN.4/1999/9)によると、高等弁務官事務所は、カンボジア、モンゴルを含む計20の国に おいて、独自に、あるいは他の国連機関(国連監視団/ミッション、UNHCR、UNDPなど)との共同で、現地活動を行っている。うち15カ国には独自の 現地事務所を設置している。一時期最大規模を誇ったルワンダの人権現地活動は、ルワンダ政府の要請により、1998年7月に終止符が打たれた。しかしなが ら、高等弁務官は、技術協力やワークショップを通して、ルワンダ国内における独立した国内人権機関の設置を支援する意思を示している。

(4)ローカルの人々の直接支援

 1998年の高等弁務官事務所のプログラムの主要目標の1つは、ローカル(地方)コミュニティの人々に直接手を差し伸べることであった。世界人権 宣言50周年を機に、弁務官事務所は、個人、地方団体などによる人権の促進および保護を奨励することを目的とした、「コミュニティを共に支援するプロジェ クト(ACTプロジェクト)」に着手。1998年9月時点で、300を超える申請が、UNDPやOHCHRの現地事務所を通して提出されている。

(5)1998年:人権年

 世界人権宣言採択50周年と1993年世界人権会議で採択されたウィーン宣言および行動計画の5年後の評価(「ウィーン+5」)が行われた 1998年、通称「人権年」は、人権を「すべての人々および国家のために達成すべき共通の基準」としてあらためて焦点を当てるよい機会になった、と高等弁 務官は述べている(A/53/36)。この年、高等弁務官事務所は、国際協力および機関間協力を促進し、事務所独自のプログラムを展開させた。その枠組み において、弁務官事務所は多くの人権会議を共催あるいは後援し、アドバイスや専門的知識を提供。また、1997年に引き続き、他の国連機関との協議会合を 定期的に開催した。さらに50周年関連行事/活動に関する情報を広く共有することにより、いっそうの活動を奨励するため、弁務官事務所は「50周年」の ページをそのホームページに設け、1999年12月10日には、このページに、世界人権宣言の250言語版が登場している。1997年より開始した「50 周年」特別情報キット・シリーズは、No.1(「50周年」概要)、No.2(女性の人権)、No.3 (子どもの人権)、No.4(人権教育)が発行されている。

 「ウィーン+5」では、1998年人権委員会が予備総括を行い、経済社会理事会はその実質会期(ニューヨーク)の一部を当てた。最終総括は第53 会期総会で行われている。

(6)人権教育のための国連10年(1995~2004年)

 「人権教育のための国連10年」のための行動計画(A/49/261/Add.1-E/1994/110/Add.1)の実施状況に関する事務総 長報告書が、第53会期国連総会(A/53/313)に提出されている。報告書の各国政府による関連活動紹介では、アジア・太平洋地域では、日本、フィリ ピン、韓国およびインドが取り上げられている。また、人権教育を4つの活動領域の1つとした「地域技術協力プログラムの枠組み」を採択した、第6回アジ ア・太平洋地域の人権の助長および保護のための地域的取決めについても、ここで触れられている。

 出版活動分野では、前述のインフォーメーション・キットNo.4は、NGO関連活動紹介で、ヒューライツ大阪や反差別国際運動などを紹介してい る。また、主要人権条約および条約監視機関が採択した一般的勧告のうち、人権教育に関連する規定をまとめた「人権教育と人権条約」と題する出版物も発行さ れている。これに関連し、総会決議53/153は、人権条約機関に対し、人権教育および情報の分野における締約国の義務を強調し、最終所見にもこれを反映 させるよう、奨励している。

 また、総会への報告書は、高等弁務官事務所が国際、地域および国内レベルの人権教育のための既存のプログラム、資料、および機関の調査を進めてい ることを、報告している。

(7)発展の権利

 近年、発展の権利は、高等弁務官事務所の活動・プログラム、そして国連の開発部門のプログラムや基金の、優先事項となってきている。前述の UNDPとの間で結ばれた相互理解の覚書は、とりわけ国内レベルでの発展の権利の促進にさらに寄与することと考えられている。

(8)人身売買

 高等弁務官は、とりわけ中東欧および東南アジアの、性的搾取を目的とした女性および子どもの人身売買問題を優先事項とし、その撤廃に向けて事務所 が担うべき最も効果的な役割を見出すべく、機関内部に作業部会を設置。1998年8月には、国際労働機関(ILO)と国際移住機関(IOM)の代表者と共 に、ブレーンストーミング会合を開いている。

(9)ジェンダー

 あらゆる人権活動にジェンダーの視点を統合すべく、人権高等弁務官はその努力をいっそう強化している。ニューヨークにある国連女性の地位向上部 や、女性の地位委員会、女子差別撤廃委員会などとの協力関係も強化され、女性の地位向上部との間では修正協同作業計画が承認され、定期的に会合が持たれて いる。また両機関の発行する文書の取交しを可能にするため、それぞれのホームページ間のリンクも確立されている。

(10)その他の特定人権問題

 以上のほか、第54会期人権委員会に提出された報告書(E/CN.4/1998/122)では、子どもの権利条約委員会の活動の強化のために、高 等弁務官がUNICEFと委員会と協力して展開させている「行動計画」、そして2001年に開催が予定されている「反人種主義世界会議」に関連する事務所 の活動なども、紹介されている。

4.女性の地位委員会

 人権委員会同様、経済社会理事会の機能機関の1つである女性の地位委員会は、毎年3月に国連本部(ニューヨーク)で開催される。1998年は、第 42会期が3月2日~13日に開かれ、女性の人権、女性と軍事紛争および女性に対する暴力を本年の関心事項として、パネル討論が行われた(E/1998 /27-E/CN.6/1998/12)。委員会は、アフガニスタンの女性と子どもの状況、女性の移住労働者に対する暴力などに関する決議を採択してい る。

 また、委員会の下に設置された作業部会において検討されている女子差別撤廃条約の選択議定書(個人通報手続きを規定)案は、1997年に終えた第 一読会の結果を基にした交渉が、非公式会合において続けられた。なお、これらの会合には、女子差別撤廃委員会、自由権規約委員会それぞれの委員が1名ずつ 参加している。

5.人権条約機構

 主要人権条約の締約国による履行を監視するため、6つの委員会がこれまでに設置されている。

 1999~2000年の条約機関の会合は表3のとおり。アジア・太平洋地域の各国の条約の批准状況は、表3参照。

(a)一般的意見および勧告

 多くの条約機関は、担当条約に関する見解や、締約国の義務についての解釈を、一般的意見(または勧告)を採択する。

(b)選択議定書の検討

 「2.国連人権委員会」、「4.女性の地位委員会」参照。

(文/田中敦子/反差別国際運動国連代表)

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