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国際人権ひろば No.131(2017年01月発行号)

特集 働く人の人権

外国人介護・家事労働者の権利を考える

藤本 伸樹(ふじもと のぶき)
ヒューライツ大阪

 介護分野での外国人の新たな受け入れ

 2016年11月18日の参議院本会議で、入国管理法の在留資格に「介護」を加える改定案が可決されたこと、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(以下、技能実習適正化法)が成立したことを受けて、介護職に就く外国人を受け入れる道筋が新たに二つ加わった。

 入管法の改定により、留学生が国内の専門学校、短大、大学などで学び、介護福祉士の国家資格を取得すれば「介護」の在留資格で働くことができるようになる。また、技能実習適正化法の成立を受けて、技能実習制度の対象職種である縫製、機械・金属、建設、食品製造、農漁業など現行74職種に介護が加えられるのである。

 これまで、介護分野の外国人労働者はおもに二つのグループに限られていた。一つは、日本との二国間の経済連携協定(EPA)に基づき、2008年のインドネシアを皮切りに、フィリピン、ベトナムから来日している介護福祉士の候補者および資格取得者である。介護施設で働きながら原則4年以内に日本語による国家試験に合格すれば働き続けることができ、不合格ならば帰国させられるという制度である。2015年度までに通算で約2,100人が来日した。

 もう一つのグループは、「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者」「定住者」「永住者」などの活動に制限のない在留資格で中長期に在住する外国人である。EPAによる受け入れ計画がメディアで報道され始めた2005年頃から、おもに在日フィリピン人女性対象の「ホームヘルパー2級養成講座」が各地で開講されるようになり、徐々に介護現場での就労が定着してきた。

 技能実習制度は、日本の技能や技術を開発途上国に移転を図り、途上国の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的に1993年に創設された制度である。しかし、実際には労働者不足にあえぐ中小企業に雇用され、最長3年間の労働力として扱われてきたのである。多くの技能実習生が、違法な低賃金や長時間労働を強いられたり、パスポートの取り上げや強制貯金などによる拘束、あるいは本人の意思に反した強制帰国など数かずの人権侵害を被ってきた。国連をはじめとする国際社会から幾度も改善勧告を受けてきたといういきさつがある。

 そのような事態を受けて、技能実習適正化法では、外国人技能実習機構を新設し、「技能実習計画」の認定や実地検査などを行う権限を同機構に付与している。また、技能実習生に対する人権侵害行為について禁止・罰則規定を設けたのである。

 

 技能実習制度での「介護」の受け入れは誰のため?

 技能実習適正化法は2016年11月28日の公布日から1年以内に完全施行されることになっている。しかし、法施行によってどれだけ技能実習制度が改善されたかの評価を待つことなく、対人サービスである介護をすぐに追加するというのだ。拙速ではなかろうか。

 技能実習生を日本に送り出す開発途上国では、介護保険制度はなく家族介護がほとんどだ。介護職が専門職として定着しておらず、日本で学んだ技術が帰国後にどう活かされるのだろうか。政府は、アセアン諸国の高齢化の進行をあげ、日本が蓄積してきた介護技術の移転のニーズを強調している。ベトナムからは認知症ケアや自立支援技術を学びたいという要請がきているというのだ。実際、政府の後押しで、日本式介護を輸出しようとする官民連携の「アジア健康構想」が首相官邸のもとで始動し始めているのである。

 だが、そのような国際貢献話は表面的な取り繕いではなかろうか。法整備の背景には、介護分野の深刻な労働者不足が存在する。厚生労働省の推計によると、団塊の世代が75歳以上になる2025年度には38万人が不足するという。にもかかわらず、「介護人材不足への対応ではない」と政府は弁明し続けている。しかし、ニーズは明らかに日本の側にある。そこに海外就労をめざす途上国の青年が集まってくるのである。そして、送り出し機関や日本の監理団体など関係業界が活動を活発化させている。

 

 家事労働者の受け入れ

 介護分野での新たな受け入れは、2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」の「外国人材の活用」として位置付けられた方針だ。同戦略はまた、これまで認めてこなかった外国人家事労働者の日本人家庭での就労を「家事支援人材」として国家戦略特区限定で認めることも方針にあげている。政府はその目的として、家事などの負担を減らすことによって「女性の活躍促進」を図ると謳う。

 こちらはいち早く2015年7月の「国家戦略特別区域法」(特区法)の改定により、3年を限度に外国人の就労を可能にした。それを受けて、まずはフィリピンから家事労働者が2017年初頭をめどに来日し、特区に指定されている神奈川県と大阪市の家庭で炊事や洗濯、掃除などの業務を開始する予定だ。東京都も準備を進めている。家事代行サービス会社などが「家事支援活動」に就く外国人を採用し、特区内でサービス提供するという枠組みである。当初は、パソナ、ダスキン、ベアーズ、ポピンズ、ニチイ学館などの会社が参入し、人数は合計で60~70人とみられている。特区で成功すれば全国に拡げるという道筋なのである。

 この受け入れは、規制緩和と市場原理に基づいた新自由主義的な考えに沿った制度である。とはいえ、特区法改定を受けて策定された施行令、指針、通知・通達、ガイドラインなどにおいて、実施に関わるたくさんの細目を列挙しており、勇み足のなかにも慎重さがうかがえる。

 たとえば、諸外国にみられるような虐待や酷使をはじめ人権侵害の温床となりやすい利用者宅への住込みは禁止。フルタイムで家事代行会社が直接雇用し、日本人と同等以上の賃金の支払いを求めており、労働関係法令が適用されるとしている。事業者の認可や管理は、関係自治体と地方入国管理局、都道府県労働局、地方経済産業局など国の機関で構成する「第三者管理協議会」が行うというもの。

 しかし、家事労働者の人権がしっかりと守られるのだろうか。この制度で認められた「家事」は、炊事・洗濯・掃除などの一般的な家事に加えて、それらに関連する子どもや高齢者の世話(食事、入浴、排泄などのための身体介護をのぞく)といった広範囲にまたがる業務である。家事代行サービス会社は、あらかじめ利用者とのあいだで「家事」の具体的な内容を契約したうえで労働者を送り出すことになるのだが、境目のあいまいな業務を求められた場合、むげに拒否することは難しい。利用者の過剰な要求にさらされるかもしれない。とりわけ、育児や高齢者の補助については、事故やトラブルが起こるリスクが高い。

  これまで技能実習制度で起きてきた強制帰国といった制裁を心配して、雇用主である会社や利用者への権利主張が萎縮しかねない。また、家庭という密室では、セクハラやパワハラなどの人権侵害のリスクと隣り合わせなのである。

 

 「人材」としてではなく「人」としての受け入れを

 いま、介護保険制度見直しの議論が進められている。保険給付の抑制を目的に、介護の必要度が比較的軽い人たちに対するサービスの縮小が続いている。調理や掃除など生活にとって不可欠であるはずの援助が介護保険外のサービスに移行しようとしている。「介護サービスの市場化」と「家事支援人材」の受け入れが同時進行している。外国から介護労働者の受け入れが増える一方で、はたして「家事支援人材」が介護労働者不足を補う隠れ蓑になりはしないだろうか。

 「『日本再興戦略』改訂2014」において「外国人材の活用」方針が示されたとき、安倍首相は「移民政策とは誤解されないよう配慮」と釘をさした。その考えが政策の随所で貫徹されている。家事労働者をあえて「家事支援人材」と呼び変え、さまざまな職種でなくてはならない存在になっている外国人労働者をあえて「技能実習生」として温存し、その規模を拡大しようとしているのである。また、外国人技能実習機構が「優良受け入れ企業」と認定すれば「実習期間」を3年から5年へと延長可とする。2016年6月現在、中国、ベトナム、フィリピンなどから21万人の実習生が就労しているが、さらに増加をたどるに違いない。「人づくり」という建前で外国人を使い潰すような技能実習制度を固定化してはならない。

 受け入れる外国人を単なる「人材」や「労働力」としてではなく、「労働者」として、私たちの働く仲間、そして地域の隣人として、国、企業、そして市民が受け入れるという仕組みや社会を形成することが求められているのではなかろうか。「人を大切に」という言葉を具現化するときである。