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国際人権ひろば No.105(2012年09月発行号)

特集 さまざまなアイデンティティと複合的な差別

アンケート調査から見る部落女性の複合差別 -埼玉・愛知・奈良・京都・大阪・兵庫での調査結果から-

山崎 鈴子(やまざき れいこ)
部落解放同盟愛知県連合会

 

はじめに

 
 国連・女性差別撤廃委員会は、2003年に引き続き、2009年8月、日本政府への勧告を行った。「マイノリティ女性への差別撤廃のために、政策的枠組みの設置や暫定的特別措置の採択を含む効果的な措置をとることを促す。この目的のためにマイノリティ女性の代表を意志決定機関に任命するよう促す」「先住民族アイヌ、部落、在日コリアン、および沖縄女性を含むマイノリティ女性の状況に関する包括的な調査の実施」、国内人権機関についても「女性と男性の平等に関する課題を含んだ独立した国内人権機関を明確な期限内に設置するよう勧告する」など、部落女性をはじめとした複合差別を受けている女性たちへの差別撤廃への道筋となるべき内容であった。
 2003年の勧告後、日本政府が勧告を履行しようとしないなかで、私たちは、自分たちの力で調査を行い、実態を明らかにしようと在日コリアン女性、アイヌ女性たちとともに協議を重ね、調査を実施することを決めた。
 部落女性の実態についてはプレ調査として、部落解放第50回全国女性集会(2005年、鳥取で開催)でアンケート調査として実施。三者で行った調査結果をもとに、政府・自治体に対して23項目、女性団体、女性運動関係者、研究者へ2項目、マイノリティ内部へ4項目の提言を行った。この提言の実現を日本政府に要求し、交渉を行っているが残念ながら今日にいたるまで実現をみていない。
 

6府県連でアンケート調査を実施

 
 鳥取全女で実施したアンケート調査を皮切りに6(埼玉、愛知、奈良、京都、大阪、兵庫)の部落解放同盟の各府県連合会(府県連)女性部で、2006年から2010年にかけてそれぞれの府県の課題も入れてのアンケート調査を実施、11,265人が回答している。
 今回の調査の意義は、
 第1に部落女性が自らの実態を自分たちで調査したことにある。調査をしようという女性部の決定までには、どの府県連も議論を積み上げ、自分たちが何を明らかにしたいのか議論を行っている。調査項目や数値の集計、分析過程は、研究者とともに議論を重ねてきたが、分析にあたっては、どの女性部も意見を出し合い、その結果は報告書や概要版の作成に繋がった。
 第2に、私たちは、いつも調査の対象であり、調査の主体者ではなかった。この調査を通して、初めて調査の主体者となりえたことの意義は大変大きい。女性たちの力量を高めることにつながっていった。男性もまきこんで部落解放運動の中で行った調査であり、男性を巻き込むことによって男性の意識変革をも迫っていった。
 第3に今まで自分たちの感覚で話していた非識字の実態や、不安定な就労について数値によってはっきり裏付けられた。このことは、部落女性の実態を訴えていく上で大きな力となるとともに部落女性の複合差別の実態を明らかにした。
 

調査によってあきらかになったこと、そして課題

 
 共通した調査項目は、① 地域・家族構成 ② 結婚・結婚差別・母子家庭 ③ 健康・福祉 ④ 教育・識字 ⑤ 人権 ⑥ 職場の環境・男女の地位 ⑦ 女性に対する暴力の7項目である。
 調査の中で明らかになったことの1点目は、職場でどのような制度があるのか知らなかったり、制度があっても利用できない、もしくは利用しづらい労働環境にあるということだ。有給休暇についてみると、「取得できる」と回答している数値はどの府県も50%前後である。労働者として自分がどのような状態にあるのかをまず知らなくてはならない。そして、自分たちがどのような権利を持っているのか、知る必要がある。労働局は、働く人が有する権利をもっと知らせるための工夫を行う必要がある。また、労働基準監督署も法律で定められている有給休暇制度すらない職場環境を是正していくための努力がなされなければならない。
 2点目は、70歳代、80歳代になっても働いている人がどの府県でもいる。日本の女性の年齢別の労働力率は台形に近づいているというもののM字型カーブを描いているが、部落女性は結婚、出産、子育ての30歳代に若干のへこみがあるというもののM字型でなく、ほとんど働き続けているという現実である。
 3点目は、読み書きに不自由している人いわゆる非識字の課題である。従来高齢部落女性の課題といわれてきたが、今回の調査で若年非識字者の課題が明らかになった。10歳代からどの年代でも非識字者がいる。50歳代以上は、どの府県でも従来述べてきたように年齢があがるに従い多くなっている。高齢女性の非識字の課題が、今日的課題であることには変わりない。
 年齢別学歴状況は、奨学金制度の成果がいかに大きかったかを示している。奨学金制度ができた時点から、どの府県も高校進学率が上がっている。
 4点目は差別を受けた体験である。結婚差別では、回答者のうち、差別を受けたと答えた人は、愛知で24.3%、奈良33.2%、京都33.7%、大阪33.2%、兵庫15.7%である。また、就職、恋愛、日常生活、学校など、あらゆるところでの差別体験や差別の現場に出会ったことがあることが、改めて確認できた。
 5点目はパートナーからの暴力(DV)の体験である。DVを体験したと回答したのは、埼玉24.1%、愛知22.8%、奈良22.6%、京都23.0%、大阪29.3%、兵庫15.8%である。尚、全国から無作為抽選の回答者5,000人を対象とした2008年の内閣府男女共同参画局の調査「男女間における暴力に関する調査」では、24.9%である。DVに関してはなんといっても相談体制が重要である。私が受けた相談からのささやかな経験ではあるが、部落女性が受けるDVの背景は必ずといってよいほど、背景に部落差別がある。相談員に部落差別と女性差別の複合差別の認識がない限り、二次被害をおこす。相談員の育成が急務である。
 

府県による特徴

 
 前述の7項目とは別に今回府県によって独自項目での調査を行っている。
 埼玉では介護についての質問を行い、「助け合い活動」を提起している。「一緒に始めませんか」と呼びかけ、21.1%が協力してもいいと回答。「一緒に暮らす地域の仲間として助け合い活動を始めたい、利用者も協力者も地域の仲間」と概要版に書かれている。
 愛知では、「コミュニティ意識と地域生活」の項目で、「地域での決め事に女性の意見が反映されにくい、女は口を出すなといわれる」など地域での女性差別を明らかにしている。一方、地域への肯定的な意見、「この地域に帰ってくるとホッとする」と回答した人が7割を超え、地域への愛着が強いこともわかった。隣保館の事業ではジェンダーの視点を持つことが重要である。隣保館で「ママと子どものおやつ作り」という催しがあった。性によって役割を固定化する内容は改めなければならない。教育への期待度や地域での女性への固定的役割り分担意識を変えていくために隣保館の果たすべき役割は大きい。
 奈良・京都・大阪では教育への期待度とジェンダーの関係、収入と教育への期待度を明らかにしている。
 本人の学歴と子どもへの進学への期待とが強く結びついていることが明らかになった。その結びつきは女子の場合強く、本人が高学歴であると子どもに高い学歴を期待し、本人が低学歴であると、高い学歴を期待しない学歴が親世代から子世代へと再生産されていく傾向を示唆している。
 大阪では世帯収入別、子どもへの進学期待を分析している。男子の場合、どの収入階層においても「大学まで」の割合が高いのに対し、女子の場合は300万円を境に「高校まで」の割合が高くなっている。経済的に厳しくなるほど、女子に進学期待をかけない傾向が見られ、経済的な不利益が女性をよりいっそう不利な立場に追いやる可能性があることを示している。この調査結果は部落女性への複合差別の実態を端的に示している。
 また、兵庫の調査で「あなたは、被差別部落出身を理由に差別を受けたことがありますか」に「ある」と回答した人が996人で792件の具体的記述があった。10歳代、20歳代、30歳代の人の体験は決して昔の体験ではない。今日も厳しい部落差別の現実があるということを示している。
 この実態調査の分析のなかでまだできていないことは、自由記述にみる複合差別である。やらなければならないことだと思っている。
 
参考資料
 埼玉・愛知・奈良・京都・大阪・兵庫アンケート調査概要版、部落女性アンケート調査報告書(抜粋版・部落解放同盟中央女性運動部) 


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