2012年2月アーカイブ

本書は、国際連合人権理事会第17会期の文書
Report of the Special Representative of the Secretary-General on the issue of human rights and transnational corporations and other business enterprises, John Ruggie - Guiding Principles on Business and Human Rights: Implementing the United Nations “Protect, Respect and Remedy” Framework(A/HRC/17/31, 21 March 2011)
の翻訳である。

英語原文は国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)のウェブサイトから取得できる。

翻訳は、財団法人アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)と特定非営利活動法人サステナビリティ日本フォーラムの共働で行われ、国際連合広報センターからの助言を受けて完成した。助言あるいは協力していただいた方々に感謝の意を表したい。

なお、翻訳版には、原文にはない訳者註を加えている。読者の理解のために役立てば幸いである。

書名等

A/HRC/17/31
配布分類:一般
2011年3月21日
原文:英語

人権理事会
第17会期
議題3
発展の権利を含む、すべての人権、
市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的権利の
促進、保護

 

人権と多国籍企業及びその他の企業の問題に関する
事務総長特別代表、ジョン・ラギーの報告書

ビジネスと人権に関する指導原則:
国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために

 

要約
これは特別代表の最終報告書である。2005年より2011年までの特別報告者の活動を総括しており、人権理事会による審議のために「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために」を提出する。

 

目次

指導原則への序文

付録

ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために
 

一般原則

I.人権を保護する国家の義務

 A.基盤となる原則
   原則1
   原則2

 B.運用上の原則
  一般的な国家の規制及び政策機能
   原則3
  国家と企業のつながり
   原則4
   原則5
   原則6
  紛争影響地域において企業の人権尊重を支援すること
   原則7
  政策の一貫性を確保すること
   原則8
   原則9
   原則10

II.人権を尊重する企業の責任

 A.基盤となる原則
   原則11
   原則12
   原則13
   原則14
   原則15

 B.運用上の原則
  方針によるコミットメント
   原則16
  人権デュー・ディリジェンス
   原則17
   原則18
   原則19
   原則20
   原則21
  是正
   原則22
  状況の問題
   原則23
   原則24

III.救済へのアクセス

 A.基盤となる原則
   原則25

 B.運用上の原則
  国家基盤型の司法的メカニズム
   原則26
  国家基盤型の非司法的苦情処理メカニズム
   原則27
  非国家基盤型の苦情処理メカニズム
   原則28
   原則29
   原則30
  非司法的苦情処理メカニズムのための実効性の要件
   原則31

  1. ビジネスと人権の問題は、国境を超える経済活動の隆盛と相まって、民間部門の当時の目をみはるばかりの世界的拡大を反映しつつ1990年代に、グローバルな政策課題に恒久的に組み込まれることになった。このような情勢の推移は、人権に関する企業の影響についての社会的意識を高め、また国際連合の注意をも惹くことになった。

  2. かつて国際連合でなされた一つの試みは「多国籍企業及びその他の企業に関する規範」と呼ばれ、これは当時の人権委員会(1)の専門家からなる補助機関(2) によって起草されたものである。本質的には、これは、国家が批准した条約の下で受諾している人権義務と同じ範囲、すなわち「人権を促進し、その実現を保証し、人権を尊重し、尊重することを確保し、そして人権を保護すること」を、国際法の下で直接に企業に課そうとするものであった。

  3. この提案は、経済界と人権活動団体の間に埋めることのできない溝を作りだしてしまい、政府側からの支持もほとんど引き出せなかった。人権委員会はこの提案に関しては意思表明することさえしなかった。その代わりに、委員会は、新たな取組みとして、2005年に、「人権と多国籍企業及びその他の企業の問題」に関する事務総長特別代表という役職の設置を決め、事務総長にその役職者の任命を要請した。本報告書はこの特別代表の最終報告書である。

  4. 特別代表の仕事は、3つの段階で徐々に進められてきた。この役職が見解の対立の結果として生まれたことを反映して、最初の任期は2年だけで、既存の基準と慣行を「確認し明らかに」することを主にめざした。これが第一の段階であった。2005年の時点では、ビジネスと人権の分野の様々な ステークホルダー・グループの間で共通理解とされているものがほとんどなかった。したがって、特別代表は、広範にわたる体系的な調査研究に取りかかった。この調査研究は現在に至るまで続いている。数千ページにのぼる資料は特別代表のウェブ ポータル サイトで見ることができる(http://www.business-humanrights.org/SpecialRepPortal/Home)。すなわち、企業によって人権が侵害されたという訴えのパターンの分類整理;国際人権法及び国際刑事法の進化しつつある基準;国家と企業により生じつつある慣行;ビジネスに関連する人権侵害に関する国家の義務に関する国際連合の人権条約機関(3)解説;投資協定、会社法、及び証券規制法が国家及び企業の人権政策・方針に及ぼす影響;関連問題、である。この調査研究は、人権理事会をはじめとして積極的に広く伝えられた。これは、現在のビジネスと人権の考察のために、より広くより確かな事実に基づいた基盤を提供してきており、また、本報告書の付録である指導原則に反映されている。

  5. 2007年に、理事会は特別代表の職務権限をさらに1年更新し、勧告を出すよう特別代表に求めた。これが仕事の第二の段階となった。特別代表は、公的にまた私的に、ビジネスと人権に関連する様々な取組みがされてきたことを知っていたが、状況を真に動かすのに十分な規模を持つに至ったものはなかったと考える。それらは、別々の断片にとどまり、一つのまとまりとして、あるいは補完的な制度として実を結ぶというものではなかったのである。その主な理由の一つは、関連するステークホルダーの期待と行動が収束できる権威あるフォーカルポイントが欠けていたことである。そこで2008年6月に、特別代表はただ一つだけ、特別代表が3年間の調査研究と協議を経て到達した「保護、尊重及び救済」枠組を人権理事会が支持することという勧告をおこなった。人権理事会は、この勧告にしたがい、決議8/7でこの枠組を満場一致で「歓迎」し、それによって、これまで欠けていた「権威あるフォーカルポイント」を提供した。

  6. この枠組は3本の柱に支えられている。第一は、しかるべき政策、規制、及び司法的裁定を通して、企業を含む第三者による人権侵害から保護するという国家の義務である。 第二は、人権を尊重するという企業の責任である。これは、企業が他者の権利を侵害することを回避するために、また企業が絡んだ人権侵害状況に対処するためにデュー・ディリジェンス(4)を実施して行動すべきであることを意味する。第三は、犠牲者が、司法的、非司法的を問わず、実効的な救済の手段にもっと容易にアクセスできるようにする必要があるということである。それぞれの柱は、防止及び救済のための手段の、相互連関的で動的な体系を構成する重要な要素である。すなわち, 国家は国際人権体制のまさに中核にあるが故に、国家には保護するという義務がある。人権に関して社会がビジネスに対して持つ基礎的な期待の故に、企業には尊重するという責任がある。そして細心の注意を払ってもすべての侵害を防止することは出来ないが故に、救済への途が開かれている。

  7. この枠組は、人権理事会にとどまらず、各国政府、企業と業界団体、市民社会そして労働者組織、国内人権機関(5)、投資家に支持され、採用されてきた。それは、国際標準化機構や経済協力開発機構などの多国間機関がビジネスと人権の分野でそれぞれの取組みを進める際にも利用されてきた。他の国際連合特別手続(6)でもこれを広く引き合いに出している。 

  8. 枠組固有の有用性とは別に、特別代表によってその任務遂行のために招集された数多くの、そして多様な参加者によるステークホルダー協議が、この枠組に対する幅広い好意的評価に役立ったことは疑いない。実際2011年1月までに、特別代表はすべての大陸で47の国際協議会合を持ち、特別代表とそのチームは20カ国以上で事業拠点視察と現地のステークホルダー訪問をおこなった。

  9. 決議8/7で、「保護、尊重及び救済」枠組を歓迎した人権理事会はまた、特別代表の職務権限を2011年6月まで延長し、枠組を「運用できるようにする」こと、すなわち、枠組の実施のための具体的かつ実行可能な勧告を出すことを求めた。これは特別代表の仕事の第三段階である。2010年6月の理事会会期で 「双方向対話」(7)において、各国政府代表は、勧告が「指導原則」の形をとるべきことで合意した。この指導原則は、本報告書の付録となっている。指導原則を作成するうえで、理事会は特別代表に対して、彼の任務を最初から特徴づけていた調査研究と協議というやり方を維持するよう求めた。したがって、この指導原則は、政府、企業と業界団体、世界のさまざまな場所で企業活動から直接的に影響を受けている個人と地域社会、市民社会、そして指導原理が触れている法律や政策の多くの領域の専門家を含むすべてのステークホルダーとの広範な話し合いの成果を取り入れている。

  10. 指導原則を作成するうえで、理事会は特別代表に対して、彼の任務を最初から特徴づけていた調査研究と協議というやり方を維持するよう求めた。したがって、この指導原則は、政府、企業と業界団体、世界のさまざまな場所で企業活動から直接的に影響を受けている個人と地域社会、市民社会、そして指導原理が触れている法律や政策の多くの領域の専門家を含むすべてのステークホルダーとの広範な話し合いの成果を取り入れている。

  11. 指導原則のいくつかはすでに実地テストも済ましている。たとえば、企業と企業が拠点を持つ地域社会が関連する非司法的苦情処理メカニズムの有効性の要件に関わる指導原則の部分は、5つの分野において各々異なる国で試された。指導原則の人権デューディリジェンス条項の実行可能性については、10の企業で内部的に試され、40以上の法域に精通した20以上の国からの会社法専門家と細部にわたる議論が重ねられた。紛争影響地域でしばしば起きる様々な人権侵害に企業が巻き込まれるのを回避するために、政府がどのように支援すべきかいうことを論じる指導原則は、これらの課題に取り組んできた実務経験を持つ国家の様々な部局からの担当者が集まって持たれた、オフレコで想定事例を使ったワークショップから生まれたものである。端的に言えば、この指導原則は実行可能であるというばかりではなく、実際行われてきたことをも考慮に入れた指針を提供することを目指している。

  12. さらに指導原則の本文自体が広範な協議を経てきたものである。2010年10月には、注釈つきの概要が、人権理事会の政府代表団、企業と業界団体そして市民社会団体それぞれと別々に持たれた一日協議で話し合われた。同じ文書は、国内人権機関国際調整委員会(8)の年次会合にも提出された。そのようにして表明された多様な見解を考慮に入れて、特別代表は指導原則とその解説の草案全体を作成し、これを2010年11月22日に全加盟国に送付し、パブリック・コメントを求めて2011年1月31日までオンライン掲載をした。 オンライン協議には120の国及び地域から3,576人のユニーク・ビジターがあった。政府からのものを含め約100の書面による提案が直接、特別代表に提出された。これに加えて、指導原則草案は、2011年1月に開催されたマルチステークホルダー専門家会合で、またその時会期中であった理事会の代表団とも話し合われた。このたび理事会に提出された最終版はこの広範かつ包括的手法の産物である。

  13. この指導原則は何をするのか。また、それはどう読まれるべきなのか。指導原則を理事会が是認、支持することそのものがビジネスと人権の課題に終止符を打つことにはならない。けれども、これは終わりの始まりと言えるであろう。それは、行動するための共通のグローバルな基盤を築き、その上に、他の有望でより長期的な展開を妨げることなく、一つずつ前進を積み重ねていくということである。

  14. この指導原則の規範的貢献は、新た国際法上の義務を作ることではなく、国家と企業のための既存の基準と慣行が持つ影響を詳細につめることにある。それは、既存の基準と慣行を、論理的に首尾一貫したそして包括的な一つのひな型にまとめること、そしてどこに現在の体制で足りないところがあるのか、またいかにしてそれを改善すべきかを明確にすることである。各々の原則には、さらにその意味と影響を明らかにする解説が付けられている。

  15. 同時に、指導原則は、棚から取り出しすぐに使えるツール・キットとして考えられてはいない。原則自体は普遍的に適用可能であるが、それを実現する手段は、192の国際連合加盟国、80,000の多国籍企業とその10倍の子会社、またそのほとんどが中小企業である数え切れない何百万という現地企業がある世界にわれわれが住んでいるという現実を反映するものになろう。したがって、実施のための手段ということになれば、一つのひな型がすべてに適合するというわけにはいかないのである。

  16. 特別代表は、この指導原則を人権理事会に提出できることを光栄とするものである。同時に、社会の様々な部門や業界を代表する、世界各地の数百にものぼる個人、団体、諸機関の並々ならぬ貢献に謝意を表したい。彼らは、無償で時間を割いてくれ、自分たちの経験を忌憚なく分かち合ってくれ、選択肢について熱心に語り合ってくれた。特別代表の任務を支援して、ビジネスに関連する人権侵害の効果的防止と救済に関して普遍的に適用でき、かつ実行可能な指導原則を確立しようという、ひとつのグローバルな運動を起こすことになった人たちである。


 


(1) 訳者註)国際連合人権委員会(Commission on Human Rights)は1946年から2006年まで、経済社会理事会(ECOSOC)のもとにおかれた機関で、その構成は国際連合加盟国の中から選挙で選ばれたが、2006年時点では53カ国であった。2006年人権委員会に代わって国際連合総会のもとに人権理事会(Human Rights Council)が新たに設けられた。

(2) 訳者註)人権保護及び促進のための小委員会。委員は人権委員会で選出され、独立した個人の資格で加わる。2006年人権理事会創設のときに人権理事会とともに廃止された。人権理事会は個人の資格で選出される委員によって構成される諮問委員会を持つが、その権限機能は小委員会に比べて大幅に縮小されている。

(3) 訳者註) 国際連合で作られた人権条約のうち、2011年10月現在10の条約で条約履行を監視するための委員会が設けられており、政府からの条約義務履行に関する報告書の審査、勧告等をおこなう。

(4) 訳者註)「相当の注意」とも訳されるが、企業と人権の問題の分野では「デュー・ディリジェンス」というのが一般的になっている。

(5) 訳者註)1993年12月国際連合総会決議でパリ原則が承認され、国内人権機関のひな型が示された。国内人権機関とは、既存の公的機関とは別に、人権保護に関して人権侵害調査、人権促進、人権教育、政府、議会などに対する人権政策や立法に関する助言など、幅広い機能を持つとされる。人事と財源の独立性を持つことで、政治的な影響を免れるよう配慮されている。国際連合では各国にこの国内人権機関の設置を勧告し、多くの国際連合加盟国がこれに応えて国内人権機関を設置してきた。国際レベルでは国内人権機関国際調整委員会、アジア太平洋地域ではアジア太平洋フォーラムがあり、各国の国内人権機関の相互協力が図られている。2011年現在、日本では国内人権機関が設置されていない。

(6) 訳者註)国際連合人権理事会は、人権課題や特定国の人権状況に取り組むために、特別報告者、特別代表、独立専門家、作業部会を設け、専門家を独立した個人の資格で任命している。これらをまとめて特別手続(Special Procedures)という。その報告書は人権理事会や総会に提出される。人権と多国籍企業及びその他の企業の課題に関する事務総長特別代表もこの特別手続の一つである。

(7) 訳者註)人権理事会では、特別報告者や特別代表が報告書の提出とともに報告書の説明を行い、それを受けて各国政府代表がコメントをすることが慣例になっている。質疑応答や、さらに追加的なコメントもあるために、双方向対話といわれる。

(8) 訳者註)世界各地の国で設けられている国内人権機関をつなぐネットワークとしての役割を持つ集まりである。2010年の時点で約70の国内人権機関が参加を認められている。

一般原則

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この指導原則は、以下を認めることのうえに成り立っている。

(a) 人権及び基本的自由を尊重、保護及び実現するという国家の既存の義務

(b) 特定の機能を果たす特定の社会組織として、適用されるべきすべての法令を遵守し人権を尊重するよう求められる、企業の役割

(c) 権利及び義務が侵されるときに、それ相応の適切で実効的な救済をする必要性

この指導原則は、すべての国家とすべての企業に適用される。すべての企業とは、その規模、業種、拠点、所有形態及び組織構成に関わらず、多国籍企業、及びその他の企業を含む。
この指導原則は、全体を一つの首尾一貫したものとして理解されるべきであり、また影響を受ける個人や地域社会に具体的な結果をもたらすため、またそれにより社会的に持続可能なグローバル化に貢献するためにビジネスと人権に関する基準と慣行を強化するという目標に沿って、個別に、またまとめて、読まれるべきである。

この指導原則におけるいかなるものも、新たな国際法上の義務を創設するものして、また、国家がすでに受け入れ、また人権に関する国際法の下で受諾するいかなる法的義務を制限するか若しくは損なうものと解釈されるべきではない。

この指導原則は、社会的に弱い立場に置かれ、排除されるリスクが高い集団や民族に属する個人の権利とニーズ、その人たちが直面する課題に特に注意を払い、かつ、女性及び男性が直面するかもしれない異なるリスクに十分配慮して、差別的でない方法で、実施されるべきである。
 

原則1

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国家は、その領域及び/または管轄内で生じた、企業を含む第三者による人権侵害から保護しなければならない。そのために、実効的な政策、立法、規制及び裁定を通じてそのような侵害を防止し、捜査し、処罰し、そして補償するために適切な措置をとる必要がある。

解説

国家は、国際人権法上の義務により、その領域、及び/または、管轄内にある個人の権利を尊重、保護及び実現する必要がある。これは、企業を含む第三者による人権侵害から保護する義務を含む。

人権保護は国家が担う義務である。これは、国家に求められる行為基準であることから、国家は、私人による人権侵害それ自体に対し責任を負うわけではない。しかし、このような侵害が国家に起因している場合、あるいは私人による侵害を防止、捜査、処罰及び補償するための適切な措置を怠った場合には、国家は国際人権法上の義務に違反することになりかねない。国家は、一般的に、これらの措置について決定する裁量を持つが、政策、立法、規制及び裁定を含む、許容される範囲であらゆる防止と救済の措置を考慮すべきである。国家はまた、法の前の平等を確保する措置をとり、その適用における公平性、そして責任のしかるべき明確性、法の安定性ならびに手続的及び法的透明性を規定することにより、法の支配を保護し促進する義務がある。

本章では防止的措置を取り上げ、第3章で救済措置を概説する。

原則2

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国家は、その領域及び/または管轄内に住所を定めるすべての企業がその活動を通じて人権を尊重するという期待を、明確に表明すべきである。

解説

現在、国家は、国際人権法の下では、その領域及び/または管轄内にある企業の域外活動を規制することを一般的には求められていない。また、認知された管轄的根拠がある場合、そうすることを一般的に禁止されてもいない。これに沿って、人権条約機関 のいくつかは、国家が管轄内にある企業による国外での侵害を防止する手段を講ずることを勧告している。

特に国家自体が企業に関わり、またはこれを支えている場合に、国家が企業に対して、国外で人権を尊重するという期待を明確に表明することには強い政策的理由がある。その理由は、一貫して矛盾のないメッセージを伝えることにより、企業に予測可能性を保証し、国家自体の評判を守るということである。

国家は、これに関してさまざまなアプローチを取ってきた。そのなかには、域外的な波及効果のある国内措置がある。例えば、「親」会社に対し、企業グループ全体でグローバルに展開する事業活動についての報告を要求すること、経済協力開発機構 多国籍企業行動指針のような多国間合意のソフト・ロー文書、そして国外投資を支援する機関が求めるパフォーマンス基準である。その他のアプローチとして、直接的な域外適用立法及びその執行がある。これは、犯罪行為地を問わず、犯罪行為者の国籍に基づく訴追が可能な刑事法制度を含む。例えば、そのような国家の行為が多国間合意に基づくものであるかどうかなど、様々な要素が国家の行為の主観的及び客観的妥当性を高めるのに役立つこともあろう。

原則3

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保護する義務を果たすために、国家は次のことを行うべきである。

(a) 人権尊重し、定期的に法律の適切性を評価し、ギャップがあればそれに対処することを企業に求めることを目指すか、またはそのような効果を持つ法律を執行する。

(b) 会社法など、企業の設立及び事業活動を規律するその他の法律及び政策が、企業に対し人権の尊重を強制するのではなく、できるようにする。

(c) その事業を通じて人権をどのように尊重するかについて企業に対し実効的な指導を提供する。

(d) 企業の人権への影響について、企業がどのように取組んでいるかについての情報提供を奨励し、また場合によっては、要求する。

解説

国家は、企業が常に国家の不作為を好み、または国家の不作為から利益を得ると推定すべきではなく、企業の人権尊重を助長するため、国内的及び国際的措置、強制的及び自発的な措置といった措置を上手に組み合わせることを考えるべきである。

企業の人権尊重を直接的または間接的に規制する現行法が執行されないことは国家慣行上の著しい法的ギャップである。それは、差別禁止法や労働法から、環境、財産、プライバシー及び腐敗防止に関する法にまで及ぶ。したがって、国家は、そのような法律が、現在、実効的に執行されているか、もし執行されていないのであればなぜそのような事態に至ったのか、どのような措置をとれば状況がそれなりに改善するのかについて考察することが重要である。

同様に重要なことは、これらの法令は常に進化しつつある状況に照らして必要な対処ができるか、関連した政策とともにこれらの法令は、企業の人権尊重に資する環境を作りだしているかについて、 国家が再検討することである。例えば、土地の所有や使用に関連する権原を含む、土地へのアクセスを規律するような、法令や政策の分野において明確性をより高めることが、権利保持者と企業の双方を保護するために、必要となることも多い。

会社法や証券法など、企業の設立と継続的な事業活動を規律する法令や政策は、企業の行動に直接的に枠付けをする。しかし、それが人権に対してどのような影響を持つかということについては、ほとんど理解されていないままである。例えば、会社法や証券法において、会社及びその管理職が人権に関して何を求められているのかということは言うまでもなく、何を許されているかに関しても、明確な規定はない。この分野の法令や政策は、取締役会など既存の統治組織の役割に配慮しながら、企業が人権を尊重できるように十分な指導を提供すべきである。

人権尊重に関する企業への指導は、結果として何が期待されているのかを示し、最良の慣行の共有を促進すべきである。そこでは、人権デューディリジェンスを含む適切な手法や、先住民族、女性、民族的または種族的少数者、宗教的及び言語的少数者、子ども、障がい者、及び移住労働者とその家族が直面する具体的な課題を理解したうえで、ジェンダー、社会的弱者、及び/または排斥問題をいかに実効的に考慮するかについて助言すべきである。

パリ原則に基づいた国内人権機関は、関係法令が人権義務に合致し、実効的に執行されているかどうかについて国家が確認するのを助け、人権に関する指導を企業や他の非国家アクターにも提供するという、重要な役割を有している。

人権への影響にどのように取り組んでいるかについての企業からの情報提供は、影響を受けるステークホルダーとの非公式なエンゲージメントから公式な報告書による公表まで幅広い。国家がそのような情報提供を奨励し、また場合によっては、要求することは、企業による人権尊重を促進するために重要である。適切な情報を伝えることを促すための方策のひとつに、司法または行政手続の過程でなされる自発的な報告に重きを置く規定がある。情報提供を求めることは、事業活動の性質または活動状況が人権に対し重大なリスクをもたらす場合には特にふさわしいであろう。この分野における政策や法律は、情報へのアクセス可能性及びその内容の正確性双方を確保することに役立つとともに、企業が何をどのように伝えるべきかを役に立つように明らかにすることができる。
 

原則4

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国家は、国家が所有または支配している企業、あるいは輸出信用機関及び公的投資保険または保証機関など、実質的な支援やサービスを国家機関から受けている企業による人権侵害に対して、必要な場合には人権デュー・ディリジェンスを求めることを含め、保護のための追加的処置をとるべきである。

解説

国家は個々には、国際人権法の下では主要な義務負担者であり、集合的には、国際人権体制(11)の受託者である。企業が国家によって支配される場合や、さもなければその行為が国家によると考えられる場合、企業による人権の侵害は、国家自体の国際法上の義務違反となりうる。さらに、企業が国家に近ければ近いほど、あるいは企業の活動が法的根拠や租税による財源に依存すればするほど、企業が人権を尊重することを確保するためにとられる国家の政策の理論的根拠は強くなる。

国家が企業を所有するか支配している場合には、国家はその権限の範囲内で、人権尊重に関連する政策、法律及び規制が施行されることを確保するためにきわめて強力な手段を持つ。上級管理職が国家機関に一般的に報告を行い、政府関連部局は、人権デュー・ディリジェンスが実効的に実施されることを確保するなど、監視や監督のためのより大きな機会を持つことになる。(これら企業は第II章で扱われる人権を尊重する企業の責任の対象でもある。)

公式にまたは非公式に国家につながるさまざまな機関が、企業活動に支援とサービスを提供することがある。これらは、輸出信用機関、公的投資保険・保証機関、開発機関、及び開発金融機関などを含む。これら機関が受益企業の実際のもしくは潜在的な人権への負の影響をはっきりと考慮していない場合、機関は、そのような侵害を支援したということで、評判の面で、金銭的、政治的、及び潜在的には法的な意味で、自身をリスクにさらし、受入国が抱える人権問題をさらにこじらせる可能性がある。

これらのリスクを前提に、国家は、機関それ自体や国家の支援を受ける企業及び企画事業に、人権デュー・ディリジェンスを奨励し、そして必要な場合、求めていくべきである。人権デュー・ディリジェンスを求めることは、事業活動の性質や活動状況が人権に重大なリスクをもたらす場合に最もふさわしくなる。


(11) 訳者註)国際連合やILOなど世界の国々が加盟する国際機関では、人権関連の課題を取り上げ、人権保護促進のために、条約、人権課題を取り上げ国際的な合意を形成し実施するための機関や制度を作り上げてきた。これを総称的に国際人権体制(international human rights regime)という。

原則5

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国家は、人権の享受に影響を及ぼす可能性のあるサービスを提供する企業と契約を結ぶか、あるいはそのための法を制定している場合、国際人権法上の義務を果たすために、しかるべき監督をすべきである。

解説

国家は、人権の享受に影響するサービスを民営化する場合、その国際人権法上の義務を放棄するわけではない。そのようなサービス業務を行う企業が国家の人権義務に合致した方法で活動することを国家が確保できない場合、国家自体の評判にもまた法的にも望ましくない結果をもたらすことになる。必要な措置として、サービス契約またはサービス提供を定める法令において、これらの企業が人権を尊重するとの国家の期待を明確にすべきである。国家は、しかるべき独立した監視及び説明責任制度を設けることを含む、実効的に企業活動を監督できることを確保すべきである。

原則6

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国家は、国家が商取引をする相手企業による人権の尊重を促進すべきである。

解説

国家は、少なからずその調達活動などを通じて、企業とさまざまな商取引を行っている。それは、国家にとって、個別でも国の集まりとしても、国内法・国際法上の国家の関連した義務を考慮に入れながら、契約条件などを通して企業の人権についての意識向上や人権に対する尊重を推進する絶好の機会となっている。

原則7

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重大な人権侵害のリスクは紛争に影響を受けた地域において高まるため、国家は、その状況下で活動する企業がそのような侵害に関与しないことを確保するために、次のようなことを含めて、支援すべきである。

(a) 企業がその活動及び取引関係によって関わる人権関連リスクを特定し、防止し、そして軽減するよう、できるだけ早い段階で企業に関わっていくこと。

(b) ジェンダーに基づく暴力や性的暴力の双方に特別な注意を払いながら、侵害リスクの高まりを評価しこれに対処するよう、適切な支援を企業に提供すること。

(c) 重大な人権侵害に関与しまたその状況に対処するための協力を拒否する企業に対して、公的な支援やサービスへのアクセスを拒否すること。

(d) 重大な人権侵害に企業が関与するリスクに対処するために、国の現行の政策、法令、規則及び執行措置が有効であることを確保すること。

解説

企業が関与する最も深刻な人権侵害には、領域や資源の支配、または政府そのものの支配をめぐる紛争において、人権体制(12)がしかるべく機能することを期待できない場合に起きるものがある。責任ある企業は、このような難しい状況において人権侵害を助長するのを避ける方法について、ますます政府の指導を求めるようになってきている。革新的で実践的なアプローチが必要である。なかでも、紛争時に特に頻発する性的及びジェンダーに基づく暴力のリスクに注意を払うことが重要である。

現場の状況が悪化する前に、早急に問題に取組むことが全ての国家にとって重要である。紛争影響地域では、実効的な支配が欠如しているため「受入」国が適切に人権を保護できないこともありうる。したがって、多国籍企業が関与している場合、その「本」国には、当該企業及び受入国がともに、企業が人権侵害に関与しないことを確保するために支援を行う役割があり、同時に近隣諸国は重要な追加的支援を供与することもできる。

本国は、政策の強い一貫性を確保し、そのような状況でもそれ相当に企業を支援するために、以下のことをすべきである。すなわち、本国の首都及び出先大使館にある、開発援助機関、外務省や貿易省、及び輸出金融機関の間の、またこれら諸機関と受入国政府機関の間のより緊密な協力関係を醸成すること。政府機関及び企業に対して問題への注意喚起をするために早期警戒指標を開発すること。このような状況において企業が協力しなかった場合に、既存の公的支援及びサービスを拒否または撤回し、またそれが不可能な場合は将来の提供を拒否することなど、しかるべき対応をすること。

国家は、紛争影響地域では重大な人権侵害に関与するリスクが高いことを企業に警告すべきである。国家は、企業による人権デュー・ディリジェンスの実施のための規定を通じてを含む、その政策、法令、規制及び執行措置がこの高いリスクに有効に対処できるものであるかどうかを再検討すべきである。ギャップが明らかな場合には、国家はそれらに対処するために適切な手段をとるべきである。これには、その領域及び/または管轄内に住所を持つかもしくはそこで事業活動をする企業で、重大な人権侵害に関与しまたは助長したものの民事、行政及び刑事責任を検討することが含まれることもある。さらに、国家は、そのような行為を防止し、それに対処し並びに実効的な協同行動を支援するための多数国による共同アプローチを考慮する。

これらの措置はすべて、武力紛争の状況における国際人道法及び国際刑事法の下の国家の義務への追加である。


(12) 訳者註)人権保護促進のためにある法令、制度、機関その他の組織をまとめての総称。

原則8

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国家は、企業慣行を規律する政府省庁、機関及び他の国家関連機関が、関連情報、研修及び支援を提供することなどを含む、各々の権限を行使する時、国家の人権義務を確実に認識し、監督することを確保すべきである。

解説

国家の人権義務と、企業慣行を規律するために国家が施行する法令や政策の間に、避けることができない相克はない。しかしながら、時として、国家は、社会の異なるニーズの間の調和をとるために、バランスを保ちながらの難しい決定をしなければならない。適切なバランスを実現するため、国家は、国内政策の垂直的及び水平的な一貫性を確保することを目指しながら、ビジネスと人権の課題に対処するよう幅広いアプローチをとる必要がある。

政策の垂直的な一貫性とは、国家が、国際人権法上の義務を実施するために必要な政策、法律及びプロセスを持つことを意味する。政策の水平的な一貫性とは、会社法及び証券規制法、投資、輸出信用及び保険、貿易、労働を含む、国及び地方の両レベルで企業慣行を規律する部局や機関が国家の人権義務について認識を持ち、また義務に合致した行動がとれるように、これを支援し対応力をつけさせることである。

原則9

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国家は、例えば投資条約または契約を通じて、他の国家または企業とビジネスに関連する政策目標を追求するとき、その人権義務を果たすために国内政策でしかるべき余地を残しておくべきである。

解説

二国間投資条約、自由貿易協定または投資プロジェクトのための契約のような、国家によって他の国家との間または企業との間で締結される経済合意は、国家にとって経済的機会を生み出す。しかし、これらは同時に、政府の国内政策の余地に影響を与えうる。例えば、国際的投資協定の条項が、国家が人権に関する新たな立法を全面的に施行するのを阻害するか、あるいは国家がそうすれば国際仲裁を避けえないというリスクを生む可能性がある。したがって、国家は、そのような協定のもとでも、必要な投資家保護に配慮する一方で、人権を保護するためしかるべき政策及び規制を実施できる力を確保すべきである。

原則10

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国家は、ビジネスに関連した問題を扱う多数国間機関の加盟国として行動する際、次のことを行うべきである。

(a) 当該機関が人権を保護するという義務を果たす加盟国政府の実行力を抑制したり、企業が人権を尊重するのを妨げたりしないことを確保するよう求める。

(b) 当該機関がそれぞれの権限及び能力の範囲内で企業の人権尊重を促進し、要請がある場合には、技術的な支援、能力養成及び意識向上などを通じて、企業による人権侵害に対して保護する国家の義務を果たすよう国家を支援することを奨励する。

(c) ビジネスと人権の課題に取り組むなかで、共通の理解を促し、国際協力を進めるために、この指導原則を活用する。

解説

国家が、国際貿易及び金融に関わる機関のようなビジネスに関連する問題を扱う多数国間機関に参加する場合など、国際的なレベルにおいて、政策上の一貫性を高めることも求められる。そのような機関に参加する場合であっても、国家が国際人権法上の義務を負うことに変わりはない。

そのような機関を通じた能力養成と意識向上は、困難な課題や最良の慣行についての情報の共有を実現することにより、より一貫性のあるアプローチを促すなど、すべての国家がその保護義務を果たすのを助ける上で、極めて重要な役割を果たしている。

多数国間機関を通した集団的行動は、企業の人権尊重に関して国家が地域間の差をなくす助けとなる。それはレベルに達していないもののパフォーマンスを向上させることによってなされるべきである。国家、多数国間機関そしてその他のステークホルダー間の協力もまた重要な役割を果たす。

この指導原則は、この点で共通の基準点となり、関係する全ステークホルダーそれぞれの役割と責任を考慮に入れながら積極的な効果を積み重ねていくための有用な土台となりうる。

原則11

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企業は人権を尊重すべきである。これは、企業が他者の人権を侵害することを回避し、関与する人権への負の影響に対処すべきことを意味する。

解説

人権を尊重する責任は、事業を行う地域にかかわらず、すべての企業に期待されるグローバル行動基準である。その責任は、国家がその人権義務を果たす能力及び/または意思からは独立してあるもので、国家の義務を軽減させるものではない。さらに、その責任は、人権を保護する国内法及び規則の遵守を越えるもので、それらの上位にある。

人権への負の影響に対処することは、その防止、軽減、そして、適切な場合には、是正のため適切な措置をとることを求めている。

企業は、人権を支持し促進するため、権利の享受に貢献するような諸々のコミットメントや活動に取り組むことも出来よう。しかし、このことは、事業を通して人権を尊重することを怠った場合にこれを相殺するものではない。

企業は、司法手続の不偏不党性を弱めかねない行為などによって、国家が人権義務を果たす力を蝕むべきではない。

原則12

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人権を尊重する企業の責任は、国際的に認められた人権に拠っているが、それは、最低限、国際人権章典(13)で表明されたもの及び労働における基本的原則及び権利に関する国際労働機関宣言(14)で挙げられた基本的権利に関する原則と理解される。

解説

企業は、国際的に認められた人権全般に実際上影響を与える可能性があるので、その尊重責任はそのような権利すべてに適用される。特に、人権の中には、他のものに比べ、特定の産業や状況のなかでより大きいリスクにさらされる可能性のあるものがあり、そのために特に注意が向けられる対象となる。しかしながら、状況は変化することがあり、あらゆる人権が定期的なレビューの対象とされるべきである。

国際的に認められた主要な人権の権威あるリストは、国際人権章典(世界人権宣言、及びこれを条約化した主要文書である市民的及び政治的権利に関する国際規約ならびに経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)とともに、労働における基本的原則及び権利に関する宣言に挙げられたILO中核8条約上の基本権に関する原則にある。これらは、企業の人権に対する影響を他の社会的アクターが評価する際の基準(15)である。企業が人権を尊重する責任は、関連する法域において国内法の規定により主に定義されている法的責任や執行の問題とは区別される。

状況に応じて、企業は追加的な基準を考える必要があるかもしれない。例えば、企業は、特別な配慮を必要とする特定の集団や民族に属する個人の人権に負の影響を与える可能性がある場合、彼らの人権を尊重すべきである。この関係で、国際連合文書は先住民族、女性、民族的または種族的、宗教的、言語的少数者、子ども、障がい者、及び移住労働者とその家族の権利を一層明確にしている。さらに、武力紛争状況では、企業は国際人道法の基準を尊重すべきである。


(13) 訳者注)世界人権宣言(1948年国際連合総会で採択)と二つの人権条約、すなわち経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約と市民的及び政治的権利に関する国際規約(1966年国際連合総会で採択、1977年発効)をまとめて国際人権章典という。
(14) 訳者注)1998年の第86回国際労働総会で採択。
(15) 訳者註)「ベンチマーク」(benchmarks)
 

原則13

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人権を尊重する責任は、企業に次の行為を求める。

(a) 自らの活動を通じて人権に負の影響を引き起こしたり、助長することを回避し、そのような影響が生じた場合にはこれに対処する。

(b) たとえその影響を助長していない場合であっても、取引関係によって企業の事業、製品またはサービスと直接的につながっている人権への負の影響を防止または軽減するように努める。

解説

企業は、その活動を通じてまたは他の当事者との取引関係の結果として、人権への負の影響に関与する可能性がある。指導原則19は、企業がこのような状況にどのように対処すべきかについてより詳しく述べる。本指導原則の目的からして、企業の「活動」は、作為及び不作為の双方を含むものと理解され、その「取引関係」には取引先企業、バリューチェーン上の組織、及び企業の事業、製品またはサービスと直接関係のある非国家または国家組織を含むものと理解される。
 

原則14

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人権を尊重する企業の責任は、その規模、業種、事業状況、所有形態及び組織構造に関わらず、すべての企業に適用される。しかしながら、企業がその責任を果たすためにとる手段の規模や複雑さは、これらの要素及び企業による人権への負の影響の深刻さに伴い、様々に変わりうる。

解説

企業が人権を尊重する責任を果たす手段は、とりわけその規模に比例する。中小企業は、大企業に比べると、余力が少なく、略式のプロセスや経営構造をとっているため、その方針及びプロセスは異なる形を取りうる。しかしながら、中小企業のなかにも人権に対し重大な影響を及ぼすものがあり、その規模に関係なくそれに見合った措置を求められる。影響の深刻さはその規模、範囲及び是正困難度で判断される。企業が人権を尊重する責任を果たすためにとる手段もまた、企業が事業を企業グループで展開しているのか、単体で展開しているのか、またどの程度の範囲で展開しているかによって異なることもあろう。しかしながら、人権を尊重する責任は、すべての企業に完全にかつ平等に課される。

原則15

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人権を尊重する責任を果たすために、企業は、その規模及び置かれている状況に適した方針及びプロセスを設けるべきである。それには以下のものを含む。

(a) 人権を尊重する責任を果たすという方針によるコミットメント

(b) 人権への影響を特定し、防止し、軽減し、そしてどのように対処するかについて責任を持つという人権デュー・ディリジェンス・プロセス

(c) 企業が引き起こし、または助長する人権への負の影響からの是正を可能とするプロセス

解説

企業は、人権を尊重するということを自覚し、公に示す必要がある。それは企業になんらかの方針やプロセスがなければできないことである。原則16から24は、この点をより詳細に述べる。

原則16

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人権を尊重する責任を定着させるための基礎として、企業は、以下の要件を備える方針の声明を通して、その責任を果たすというコミットメントを明らかにすべきである。

(a) 企業の最上級レベルで承認されている。

(b) 社内及び/または社外から関連する専門的助言を得ている。

(c) 社員、取引先、及び企業の事業、製品またはサービスに直接関わる他の関係者に対して企業が持つ人権についての期待を明記している。

(d) 一般に公開されており、全ての社員、取引先、他の関係者にむけて社内外にわたり知らされている。

(e) 企業全体にこれを定着させるために必要な事業方針及び手続のなかに反映されている。

解説

「声明」という用語は、企業がその責任、コミットメント及び期待を公に表明するために用いる何らかの手段を表現するための総称として使われる。

方針声明が情報を適切に取り入れたものとなるために必要と考えられる専門的助言のレベルは、企業の事業の複雑性の度合いによって異なるであろう。専門的助言は、信頼できるオンラインまたは文書資料から広く認知された専門家との協議まで、様々な情報源から取り出すことができる。

コミットメント声明は公開されるべきである。それは、企業が契約関係にある組織、国家治安部隊を含む事業に直接関係するその他の組織、投資家、重大な人権リスクを伴う事業の場合は影響を受ける可能性のあるステークホルダー、に積極的に伝えられるべきである。

声明及び関連する方針の内部通知や手続は、責任に関する管理系統や制度がどのようなものとなるかや、関連する業務に従事する従業員に必要とされる研修などによっても支援すべきであることを明確にすべきである。

国家が政策の一貫性に向けて努力すべきであるように、企業は、人権を尊重する責任とその広範な企業活動や取引関係を管理する方針及び手続に一貫性を持たせるよう努力する必要がある。これには、例えば、従業員のための金銭的及びその他の業績インセンティブ、調達、及び人権が問題となるような議会ロビー活動などのあり方を決める方針及び手続を含むべきである。

これらのまたその他の適切な手段を通じて、方針声明が企業トップから全ての部門にいたるまで定着するようにすべきである。さもなければ、各部門が人権に対する意識や考慮なしに行動することになりかねない。

原則17

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人権への負の影響を特定し、防止し、軽減し、そしてどのように対処するかということに責任をもつために、企業は人権デュー・ディリジェンスを実行すべきである。そのプロセスは、実際のまたは潜在的な人権への影響を考量評価すること、その結論を取り入れ実行すること、それに対する反応を追跡検証すること、及びどのようにこの影響に対処するかについて知らせることを含むべきである。人権デュー・ディリジェンスは、

(a) 企業がその企業活動を通じて引き起こしあるいは助長し、またはその取引関係によって企業の事業、商品またはサービスに直接関係する人権への負の影響を対象とすべきである。

(b) 企業の規模、人権の負の影響についてのリスク、及び事業の性質並びに状況によってその複雑さも異なる。

(c) 企業の事業や事業の状況の進展に伴い、人権リスクが時とともに変りうることを認識したうえで、継続的に行われるべきである。

解説

この原則は、人権デュー・ディリジェンスの大枠を定義し、一方で原則18から21ではその不可欠な構成要素を詳細に述べる。

人権リスクは、企業の人権に対する潜在的な負の影響であると理解される。潜在的な影響は防止あるいは軽減することを通して対処されるべきであり、一方で、現実の影響-既に生じたもの-は是正の対象となるべきである(原則22)。

人権デュー・ディリジェンスが、単に企業自らに対する重大なリスクを特定し、対処するばかりではなく、権利保持者側に対するリスクをも含むのであれば、これをより幅広い企業のリスクマネジメント・システムのなかに入れることができる。

人権リスクは、契約やその他の合意が形作られる段階で増大または軽減されうるものであり、また合併や買収を通じて継承されるかもしれないことを考えると、新たな事業または取引関係を展開するにあたっては、人権デュー・ディリジェンスはできるだけ早く着手されるべきである。

企業のバリューチェーンに多数の企業体がある場合、企業がそれら全てにわたって人権への負の影響に対するデュー・ディリジェンスを行うことは不当に難しくなる。そうであるならば、企業は、関係する供給先または受給先企業の事業状況、特定の事業活動、関連製品やサービス、または他の関連する考慮事項によって、人権への負の影響のリスクが最も大きくなる分野を特定し、人権デュー・ディリジェンスのためにこれらを優先的に取り上げるべきである。

他者による人権への負の影響を企業が助長している、または助長しているとみられている場合、加担の問題が生じうる。加担には、法的でない意味及び法的な意味のふたつがある。法的でないものとして、例えば、他者が犯した侵害から利益を得ているとみられる場合など、企業はその当事者の行為に「加担して」いると受け取られる可能性がある。

法的なものとして、大半の国の法制は、犯罪への加担を禁止し、なかにはそのような場合には企業の刑事責任を認めるものもある。概して民事訴訟も、人権という観点から構成されていないかもしれないが、企業の加害関与があったという申し立てに基づくこともありうる。国際刑事法の判例は、幇助、教唆に関する基準が犯罪の実行に実質的な効果をもたらすような実際的援助または奨励を故意に提供することであるという点に重きを置いている。

人権デュー・ディリジェンスをしかるべく実行すること、申し立てをされるような人権侵害への関与を回避するためにしかるべき手段をすべて講じて来たことを示すことにより、企業は自社に対する訴訟リスクに対処する助けとなるはずである。しかしながら、そのようなデュー・ディリジェンスを実行する企業は、それをもって、人権侵害を引き起こし、あるいは助長することに対する責任から自動的にそして完全に免がれることになるだろうと考えるべきではない。

原則18

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人権リスクを測るために、企業は、その活動を通じて、またはその取引関係の結果として関与することになるかもしれない、実際のまたは潜在的な人権への負の影響を特定し評価すべきである。このプロセスでは、以下のことをすべきである。

(a) 内部及び/または独立した外部からの人権に関する専門知識を活用する。

(b) 企業の規模及び事業の性質や状況にふさわしい形で潜在的に影響を受けるグループやその他の関連ステークホルダーとの有意義な協議を組み込む。

解説

人権デュー・ディリジェンスを実行する際の第一歩は、企業が関与する、実際のそして潜在的な人権への負の影響の性質を特定し、評価することである。その目的は、特定の事業の状況において特定の人々に対する特定の影響を理解することである。一般的に、これには、できれば事業計画の実施に先立って人権状況を評価することを含み、誰が影響を受けるかを特定し、関連する人権基準及び問題を整理し、そして事業計画の実施及び関連する取引関係が特定されたものに対してどのように人権の負の影響を与えうるのかを予測することである。このプロセスにおいて、企業は、社会的に弱い立場におかれまたは排除されるリスクが高くなりうる集団や民族に属する個人に対する人権の特別の影響に特に注意を向け、女性と男性では異なるリスクがありうるということにも留意すべきである。

人権への影響を評価するためのプロセスは、リスク評価や環境・社会影響評価などの他のプロセスのなかに組み込むことができる一方で、このプロセスは、国際的に認められた人権のすべてを共通の基準点として含むべきである。なぜなら、企業は、実質上どの権利に対しても影響をあたえる可能性を持っているからである。

人権の状況は常に変化するため、人権への影響評価は定期的に行われるべきである。新たな事業活動または取引関係に先だって、事業における重要な決定または変更(例えば、市場への参入、新製品の発売、方針変更、または事業の大幅な変更)に先だって、事業環境の変化(例えば、社会不安の高まり)に反応またはそれを予見して、そしてひとつの事業活動または取引関係が続くあいだ中、周期的にということである。

企業は、人権への影響を正確に評価できるようにするために、使用言語や有効なエンゲージメントに障害となる可能性のあるものを考慮に入れた形で、ステークホルダーと直接協議することによって潜在的に影響を受けるステークホルダーの懸念を理解するように努めるべきである。 そのような協議が可能ではない状況において、企業は、市民社会組織の人々や人権活動家などを含む、信頼できる独立した専門家との協議など、適切な代替策を考えるべきである。

原則19

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人権への負の影響を防止し、また軽減するために、企業はその影響評価の結論を、関連する全社内部門及びプロセスに組み入れ、適切な措置をとるべきである。

(a) 効果的に組み入れるためには以下のことが求められる。

(i) そのような影響に対処する責任は、企業のしかるべきレベル及び部門に割り当てられている。

(ii) そのような影響に効果的に対処できる、内部の意思決定、予算配分、及び監査プロセス。

(b) 適切な措置は以下の要因によって様々である。

(i) 企業が負の影響を引き起こしあるいは助長するかどうか、もしくは影響が取引関係によってその事業、製品またはサービスと直接結びつくことのみを理由に関与してきたかどうか。

(ii) 負の影響に対処する際の企業の影響力の範囲。

解説

人権への影響評価の特定の結論を企業全体に横断的に組み入れることは、人権方針のコミットメントが関係する事業部門すべてに根付いている場合にのみ、効果的でありうる。このことは、評価の結果が正確に理解され、しかるべき重みを与えられ、これに基づいた措置が確実にとられるようにするためにも必要である。

人権への影響を評価するときには、企業は実際及び潜在的な負の影響の双方を探っていることであろう。潜在的な影響は、評価結果を企業横断的に組み入れることによって、防止または軽減されるべきである。他方、実際の影響(既に生じたもの)は是正の対象となるべきである(原則22)。

企業は、人権への負の影響を生じさせ、または生じさせうる場合、その影響を止め、または防止するために必要な手段をとるべきである。

企業が人権への負の影響を助長し、または助長しうる場合、その助長を止め、または防止するために、その企業は、必要な手段をとるべきであり、残存するどんな影響をも軽減するため、可能な限りその影響力を活用すべきである。影響力は、害を引き起こす企業体の不当な慣行を変えさせる力を企業が有する場合に、あると考えられる。

企業が人権に対する負の影響を助長してはこなかったが、その影響が別の企業体との取引関係によって企業の事業、製品またはサービスに直接関連している場合、状況はより複雑である。そのような状況において適切な措置を決定するにいたる要素のなかには、関係する企業体に対する企業の影響力、企業にとってその取引関係がどの程度に重要なものであるか、侵害の深刻度、及びその企業体との取引関係を終わらせることが人権への負の結果をもたらすかどうかなどがある。

状況とそれから予想される人権に対する影響が複雑になればなるほど、企業がその対応を決定する際に独立した専門家からの助言を求めることも強くなる。

企業が負の影響を防止または軽減する影響力をもつ場合には、それを行使すべきである。もし企業が影響力を欠くならば、それを強める方法があるかもしれない。例えば、企業力強化またはその他のインセンティブを関係企業体に提供したり、他のアクターと協力したりすることで、影響力が強くなりうる。

企業が負の影響を防止または軽減する影響力を欠き、影響力を強めることもできない状況がある。そこでは、企業は、取引関係を終了することによって人権への負の影響が出る可能性について信頼できる評価を考慮した上で、その取引関係を終了することを考えるべきである。

取引関係が、企業にとって「極めて重要」である場合、取引をやめることは更なる難題を提起する。その企業の事業にとって必要不可欠な製品またはサービスを提供し、適当な代替供給源が存在しないならば、取引関係は極めて重要であるとみなされるであろう。ここでも、人権への負の影響の深刻さが考慮されなければならない。人権侵害が深刻であればあるほど、企業は取引関係を終了すべきか否かを決定する前に、状況に変化が起こるかどうかをより素早く見る必要があるだろう。いずれにしても、侵害が長期にわたり継続し企業が取引関係を維持している限りにおいて、その企業は、影響を軽減するための継続的な努力をしていることを証明できるようにしているべきであり、取引関係を継続することが招来する結果-評判、財政上または法律上の結果-を受け入れる覚悟をすべきである。

原則20

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人権への負の影響が対処されているかどうかを検証するため、企業はその対応の実効性を追跡評価すべきである。追跡評価は、

(a) 適切な質的及び量的指標に基づくべきである。

(b) 影響を受けたステークホルダーを含む、社内及び社外からのフィードバックを活用すべきである。

解説

追跡評価は、企業の人権方針が最適に実施されているかどうか、及び確認された人権への影響に効果的に対応してきたかどうかを企業が知り、継続的な改善を進めるために必要である。

企業は、社会的に弱い立場におかれまたは排除されるリスクが高くなりうる集団や民族に属する個人に対する影響への対応の有効性を追跡評価するため、特に努力すべきである。

追跡評価は、関連する内部報告プロセスに組み込まれるべきである。企業は、他の問題で既に用いているツールを活用してもよい。これらのツールには、関連する場合には性別に分けられたデータを用いながら、パフォーマンス契約 やレビュー並びに実態調査や監査を含めることができるだろう。事業レベルの苦情処理メカニズムは、直接影響を受けた人々から企業の人権デュー・ディリジェンスの実効性に関する重要なフィードバックも提供できる(原則29参照)。

原則21

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人権への影響についての対処方法について責任をとるため、企業は外部にこのことを通知できるように用意をしておくべきである。影響を受けるステークホルダーまたはその代理人から懸念が表明される場合には、特にそうである。企業は、その事業や事業環境が人権に深刻な影響を及ぼすリスクがある場合、どのようにそれに取り組んでいるかを公式に報告すべきである。あらゆる場合において、情報提供は、

(a) 企業の人権への影響を反映するような、また想定された対象者がアクセスできるような形式と頻度であるべきである。

(b) 関与した特定の人権への影響事例への企業の対応が適切であったかどうかを評価するのに十分な情報を提供すべきである。

(c) それと同時に、影響を受けたステークホルダー、従業員、そして商取引上の秘密を守るための正当な要求にリスクをもたらすべきではない。

解説

人権を尊重する責任は、それを通して企業自身が人権尊重を実践していることを認識するとともに、公に示すことができるような、実際に機能する方針やプロセスを企業が持つことを求める。示すということには情報提供が関係しており、影響をうける個人や集団、及び投資家など他のステークホルダーへの透明性や説明責任を果たす手段となっている。

情報提供は、対面会議、ネットワークによる対話、影響を受けるステークホルダーとの協議、及び正式な公開報告書など、様々な形を取りうる。公式報告はそれ自体が変化してきており、伝統的な年次報告書や企業責任/サステナビリティ報告書から、インターネットウェブ上の更新及び財務・非財務統合レポートを含むようになっている。

企業による公式報告は、人権へ深刻な影響を与えるリスクが存在する場合に、それが事業の性質のためであるのか、あるいは事業状況のためであるのかということについて述べることを期待されている。報告は、どのように企業が人権への負の影響を特定し対処するかに関する項目と指標を取り上げるべきである。人権報告を独立した第三者が検証することはその内容と信頼性を強化できる。事業分野別の指標を取り入れることで有用な詳細さも付加できる。

原則22

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企業は、負の影響を引き起こしたこと、または負の影響を助長したことが明らかになる場合、正当なプロセスを通じてその是正の途を備えるか、それに協力すべきである。

解説

最善の方針や慣行をもってしても、企業は、予見していなかった、または防ぎ得なかった人権への負の影響を引き起こし、または負の影響を助長することがありうる。

企業が人権デュー・ディリジェンス・プロセスあるいは他の手段を通じてそのような状況を特定できる場合、人権を尊重する企業の責任は、自らまたは他のアクターとの協力を通じて、その是正に積極的に取り組むことを求める。企業活動により潜在的に影響をうける人々に対する事業レベルの苦情処理メカニズムは、原則31に規定された一定の中核要件を充たすとき、是正を可能とするひとつの有効な手段となりえる。

企業が負の影響を生じさせておらず、また助長してもいないが、取引関係によってその事業、製品、またはサービスと負の影響が直接関連している場合、人権を尊重する責任は、企業がそのような負の影響を是正するという役割を担うことはあっても、当該企業自体に是正の途を備えるよう求めるわけではない。

状況によって、特に犯罪があったと申し立てられている場合は、一般に司法メカニズムとの協力を求めるであろう。

是正を目指す諸メカニズムについてのさらに詳しい説明は、人権への負の影響の主張そのものが争われる場合をも含めて、救済へのアクセスに関する第3章で述べる。

原則23

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あらゆる状況において、企業は、次のことをすべきである。

(a) どこで事業をおこなうにしても、適用されるべき法をすべて遵守し、国際的に認められた人権を尊重する。

(b) 相反する要求に直面した場合、国際的に認められた人権の原則を尊重する方法を追求する。

(c) どこで事業をおこなうにしても、重大な人権侵害を引き起こすまたは助長することのリスクを法令遵守の問題としてあつかう。

解説

特定の国や地域の状況が、企業の活動及び取引関係における人権リスクに影響を及ぼすことがあるかもしれない。しかしながら、すべての企業には事業をどこで行おうと人権を尊重するという同じ責任がある。ある国の国内状況により企業がその責任を完全に果たすことができない場合、企業は、国際的に認められた人権に関する諸原則をその状況のもとで出来る限りぎりぎりまで尊重すること、そしてこの点でその努力を行動によって証することができるよう期待されている。

事業環境のなかには、例えば紛争影響地域のように、他のアクター(例えば、治安部隊など)による重大な人権侵害に企業が加担するというリスクを高めるものがあるかもしれない。域外民事請求や、企業の刑事責任を規定する諸国の法制度に国際刑事裁判所ローマ規程 の規定が取りいれられることにより潜在的な企業の法的責任の幅が拡大していることを考えた場合、企業はこのリスクを法令遵守の問題としてとりあげるべきである。加えて、企業の管理職、及び従業員は、重大な人権侵害となる行為に対して個人としての責任を問われることもありうる。

このような複雑な状況において、企業はその状況を悪化させないようにすべきである。どのように対応することが最善であるかを判断する際、企業内の専門知識や部門横断的な協議を活用するだけでなく、政府、市民社会、国内人権機関及び関連するマルチステークホルダー・イニシアティブなどの外部の信頼できる独立した立場の専門家と協議することがしばしば薦められる。

原則24

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人権への実際及び潜在的な負の影響への対応策に優先順位をつける必要がある場合、企業は、第一に最も深刻な影響または対応の遅れが是正を不可能とするような影響を防止し、軽減するよう努めるべきである。

解説

企業は、その人権に対する負の影響すべてに対処すべきであるが、同時にすべての影響に対処することは必ずしも可能ではないかもしれない。具体的な法的ガイダンスが欠如するなかで、優先順位をつけることが必要ならば、対応の遅れが是正可能性を損なうことを認めながら、企業は最も深刻な人権への影響から始めるべきである。ここで、深刻性というのは絶対的な概念ではなく、企業が確認した他の人権への影響との比較において使われる。

原則25

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ビジネスに関連した人権侵害から保護する義務として、国家は、その領域及び/または管轄内において侵害が生じた場合に、司法、行政、立法またはその他のしかるべき手段を通じて、影響を受ける人々が実効的な救済にアクセスできるように、適切な措置を取らなければならない。

解説

ビジネスに関連した人権侵害が生じたときに、それを捜査し、処罰し、及び是正するための適切な措置を国家が怠るならば、その保護義務は弱められ、また無意味とさえなりかねない。

実効的な救済へのアクセスには、手続的及び実体的な両側面がある。本章で取り上げる苦情処理メカニズムにより提供される救済は、一定の具体的な形をとることが可能であり、その目的は、大まかに言えば、人権にもたらされた害を除去しまたは補償することである。救済には、謝罪、原状回復、リハビリテーション、金銭的または非金銭的補償、及び処罰的な制裁(罰金などの刑事罰または行政罰)や、例えば行為停止命令や繰り返さないという保証などによる損害の防止を含む。救済を提供する手続は、公平であり、腐敗から守られ、結果に影響を及ぼそうとする政治的またはその他の企みから自由であるべきである。

本指導原則の目的からすれば、苦情の原因は、個人または集団の権利感覚を呼び起こすような不正に対する懸念と考えられ、それは法律、契約、明示的または黙示的な約束、慣習、あるいは害を被った地域社会の一般的な公平性の観念を基礎とすることもあろう。苦情処理メカニズムという用語は、手続として定着した、国家基盤型または非国家基盤型の、司法的または非司法的プロセスを指すために使われ、それを通してビジネスに関連した人権侵害に関する苦情を申し立て、救済を求めることができるものである。

国家基盤型の苦情処理メカニズムは国家の部局または機関によって、あるいは法令または憲法に基づく独立の組織によって運営される。それらは、司法的でも、非司法的でもありうる。メカニズムのなかには、救済を求める際に、被害者が直接関与するものもあれば、仲介者が被害者の代わりに救済を求めるものもある。たとえば、裁判(刑事及び民事訴訟をともに含む)、労働審判、国内人権機関、経済協力開発機構多国籍企業行動指針上の国内連絡窓口(18)、多くのオンブズパーソン事務所及び政府が運営する苦情処理事務所がある。

ビジネスに関連した人権侵害救済へのアクセスを確保するには、国家がこれらのメカニズム、アクセス方法、及びアクセスするための支援(金銭的または専門的支援)について一般の認識と理解を促進することも必要である。

国家基盤型の司法的及び非司法的苦情処理メカニズムは、救済のためのより広範な制度の基礎である。そのような制度の枠内では、事業レベルの苦情処理メカニズムが早期の活用及び解決を提供できる。国家の、そして事業レベルのメカニズムは、それぞれ、協働型の取組みの救済機能によって、また国際的及び地域的人権メカニズムの救済機能によって補完され、強化されうる。これらメカニズムに関するさらに詳しい説明は、指導原則26から31で述べられる。


(18) 訳者註)national contact point (NCP)

原則26

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国家は、企業活動に関連した人権侵害に対処する際に、国内の司法メカニズムの実効性を確保するため、救済へのアクセス拒否になるような法的、実際的及びその他これに関連するような障壁を減らすための方策を考えるなど、しかるべき手段をとるべきである。

解説

実効的な司法メカニズムは、救済へのアクセスを確保するということの核心をなしている。それがビジネスに関連する人権侵害に対処する能力は、その公正性、信頼性及び適正手続の能力にかかっている。

司法の活用が救済へのアクセスに不可欠であるか、または実効的な救済の代替手段がない状況において、国家は、正当な事案が裁判所に持ち込まれることを妨害するような障壁が設けられないようにすべきである。国家はまた、正義の実現が司法プロセスの腐敗により妨害されないこと、裁判所が他の政府機関や企業アクターからの経済的または政治的圧力から独立していること、及び人権活動家の正当で平和的な活動が阻害されないことを確保すべきである。

ビジネスに関連した人権侵害に関する事案が当然取り上げられるべきにもかかわらず、これを妨げるような法的障壁が生じるのは、たとえば次の場合である。

  • 国内の刑事法及び民事法で、法的責任を企業グループのメンバー間で振り分ける方法により、しかるべき責任の回避を容易にさせる場合。
  • 当該申し立ての本案に関わりなく、申立人が企業の受入国において裁判拒否に会い、本国の裁判所にもアクセスできない場合。
  • 先住民族及び移民など特定の集団が広く市民に適用されるのと同レベルの人権の法的保護から除外される場合。

司法的救済にアクセスするための実際的で手続的な障壁が生じるのは次の場合である。

  • 申し立てを提起するコストが濫訴を適切に抑止するための程度を越えており、かつ/または政府の支援、「市場原理に基づく」メカニズム(たとえば訴訟保険及び弁護士費用設定)、またその他の手段を通じても、合理的なレベルまで下げることができない場合。
  • 申し立て側に資金がなく、また弁護士がこの分野で申立人に法的な助言をするインセンティブを欠いているため、法定代理人を確保することが難しい場合。
  • 複数の訴えを集約し、または代表訴訟(例えば、集団訴訟及び他の合併訴訟手続など)を行うには選択肢が不十分であり、このことが申立人の実効的な救済を阻害している場合。
  • 検察が人権に関連する犯罪への個人及び企業の関与を捜査するという国家の義務を果たすために適切な資源、専門性及び支援を欠く場合。


これらの障壁の多くは、財源、情報や専門家へのアクセスといった、企業関連の人権侵害訴訟の当事者間にしばしば見られる不均衡の結果あるいはこれらの不均衡が組合わさったものである。さらに、積極的な差別を通じてか、あるいは司法メカニズムが設計され、運用されるにあたって当初の意図とは異なる結果を生んでいるかを問わず、社会的に弱い立場に置かれ、または排除されるリスクが高い集団や民族に属する個人が、これらのメカニズムへアクセスし、活用し、そしてその恩恵を受けることに関して、より一層の文化的、社会的、物理的及び金銭的障壁に直面することが多い。そのような集団や民族の諸権利及び具体的ニーズに対する特別な配慮を、救済のプロセス、すなわちアクセス、手続及び結果の各段階ですべきである。
 

原則27

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国家は、ビジネスに関連した人権侵害を救済するための包括的な国家制度の一部として、司法的メカニズムと並行して、実効的で適切な非司法的苦情処理メカニズムを設けるべきである。

解説

行政、立法及び他の非司法的メカニズムは、司法的メカニズムを補完し補足する重要な役割を果たしている。司法制度が実効的で、資源とも十分である場合でも、申し立てられた侵害事案すべてに取組むという負担を引き受けることは不可能である。司法的救済は常に必要とされるものではなく、申立人すべてに必ずしも好ましいアプローチというわけでもない。

ビジネスに関連した人権侵害の救済メカニズムのギャップは、必要な場合は、既存の非司法的メカニズムの権限範囲を拡大することにより、及び/または新たなメカニズムを追加することにより、埋めることができるだろう。これらは、懸案事項、関連する公共の利益、及び当事者の潜在的なニーズにより、仲裁や裁定によるもの、または異文化に適切に対応でき、権利適合性のあるプロセス-または、これらの組み合わせを含むもの-というものかもしれない。これらメカニズムの実効性を確保するために、原則31で説明された要件が充たされるべきである。

このことについては、国内人権機関が特に重要な役割を果たす。

司法的メカニズムの場合と同様に、国家は、ビジネスに関連した人権事案の当事者間の不均衡、及び社会的に弱い立場に置かれ、または排除されるリスクが高い集団や民族に属する個人が直面する、アクセスへの追加的な障壁に対処する方策を考慮すべきである。

原則28

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国家は、ビジネスに関連した人権侵害を取り扱う、実効的な非国家基盤型苦情処理メカニズムへのアクセスを促進する方法を考慮すべきである。

解説

非国家基盤型苦情処理メカニズムの分野には、一企業単独でまたはステークホルダーと共に運営するもの、業界団体によるもの、またはマルチステークホルダーからなるグループによるものが含まれる。これらは非司法的なものであるが、裁定を目指したり、対話に基づくものであったり、あるいは異文化を尊重し、権利に適合したプロセスを使うこともある。これらメカニズムが、アクセスや救済の迅速性、少ない経費、及び/または国境を越えての対応といった具体的な利益をもたらすこともあろう。

もう一つの分野は、地域的及び国際的人権諸機関からなる。これら諸機関は、ほとんどの場合、人権を尊重する義務がある国家による侵害に関する訴えを扱ってきた。しかしながら、なかには、企業による人権侵害から保護するという義務を国家が果たさない事案を扱ったものもある。

国家は、自身が設けるメカニズムと並行して、そのような選択肢があることの認識を高め、あるいはそれへのアクセスを助けることで有益な役割を果たすことができる。

原則29

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苦情への対処が早期になされ、直接救済を可能とするように、企業は、負の影響を受けた個人及び地域社会のために、実効的な事業レベルの苦情処理メカニズムを確立し、またはこれに参加すべきである。

解説

事業レベルの苦情処理メカニズムは、企業により負の影響を受けることになるかもしれない個人及び地域社会が直接アクセスできるものである。メカニズムは、一般的に、一企業単独でまたは関連ステークホルダーを含む他者との協力のもとで運営される。また、当事者双方に受け入れられる外部専門家や機関を介して提供される。このメカニズムでは、申し立てを行う者に対し、まず他の訴求手段にアクセスするよう義務づけるものではない。メカニズムは、企業を、問題点を整理、評価し、損害に対する救済に努めることに直接従事させることができる。

事業レベルの苦情処理メカニズムは、企業の人権を尊重する責任に関して、二つの重要な機能を果たす。

  • 第一に、企業が継続的に実行している人権デュー・ディリジェンスの一部として、人権への負の影響を特定するのを助ける。それは、企業の事業により直接影響を受ける人々に、自分たちが負の影響を受けている、または受けるであろうと考えて懸念を表明する途を提供することによって可能となるのである。申し立ての傾向やパターンを分析することで、企業は、組織体制の問題を特定し、その後の慣行をそれに合わせて修正することもできる。

  • 第二に、これらメカニズムによって、苦情が一旦特定されると対処が可能となり、負の影響を当該企業により早期にかつ直接的に是正することが可能になる。そうすることで 損害がより深刻になり、苦情がエスカレートしていくのを防ぐことができる。

そのようなメカニズムは、申し立てまたは苦情が、持ち出される前の段階ですでに人権侵害の訴えの形をとっていることを求めるものではないが、なによりも負の影響を受ける人々がもつ正当な懸念を特定することを目指すものであることが必要である。もし、これら懸念が特定もされず対処もされないならば、時とともにより大きな紛争や人権侵害へと拡大しうる。

事業レベルの苦情処理メカニズムでは、その実効性を実際に確保するための一定の要件が反映されているべきである(原則31)。苦情処理メカニズムが、規模、資産、業種、文化及びその他の要因から決まってくる必要に応じて様々な異なる形態をとることによって、これらの要件は充たされることができる。

事業レベルの苦情処理メカニズムは、より広範なステークホルダー・エンゲージメントや団体交渉のプロセスを補完する重要なものではあるが、これらに代わるものとはなり得ない。これらは、労働関連紛争に取り組む正当な労働組合の役割を害するために使われてはならず、司法的または非司法的苦情処理メカニズムへのアクセスを排除するよう用いられてもならない。

原則30

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産業団体、マルチステークホルダー、及びその他が関わる協働型の取組みで人権に関連する基準の尊重を基礎にするものは、実効的な苦情処理メカニズムを備えているべきである。

解説

人権に関連する基準は、行動規範、パフォーマンス基準、労働組合と多国籍企業とのグローバル枠組合意及び同様の誓約を通して、産業団体、マルチステークホルダー、及びその他による協働型の取組みが約束したコミットメントのなかで次第に反映されてきている。

そのような協働型の取組みでは、実効的なメカニズムの利用可能性が確保されるべきである。そうすれば、問題となるコミットメントが果たされていないとするとき、影響を受ける当事者、またはその正当な代表者は、メカニズムを通じて懸念を提起することができる。このようなメカニズムを設けない場合には、取組みの正当性は損なわれかねない。メカニズムには、メンバー個人のレベル、協働型の取組みのレベル、または双方のレベルがあり得る。これらメカニズムは責任のありかたの問題も取り上げ、人権への負の影響を是正できるように助けとなるべきである。

原則31

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その実効性を確保するために、非司法的苦情処理メカニズムは、国家基盤型及び非国家基盤型を問わず、次の要件を充たすべきである。

(a) 正当性がある:利用者であるステークホルダー・グループから信頼され、苦情プロセスの公正な遂行に対して責任を負う。

(b) アクセスすることができる:利用者であるステークホルダー・グループすべてに認知されており、アクセスする際に特別の障壁に直面する人々に対し適切な支援を提供する。

(c) 予測可能である:各段階に目安となる所要期間を示した、明確で周知の手続が設けられ、利用可能なプロセス及び結果のタイプについて明確に説明され、履行を監視する手段がある。

(d) 公平である:被害を受けた当事者が、公平で、情報に通じ、互いに相手に対する敬意を保持できる条件のもとで苦情処理プロセスに参加するために必要な情報源、助言及び専門知識への正当なアクセスができるようにする。

(e) 透明性がある:苦情当事者にその進捗情報を継続的に知らせ、またその実効性について信頼を築き、危機にさらされている公共の利益をまもるために、メカニズムのパフォーマンスについて十分な情報を提供する。

(f) 権利に矛盾しない:結果及び救済が、国際的に認められた人権に適合していることを確保する。

(g)継続的学習の源となる:メカニズムを改善し、今後の苦情や被害を防止するための教訓を明確にするために使える手段を活用する。

事業レベルのメカニズムも次の要件を充たすべきである。

(h)エンゲージメント及び対話に基づく:利用者となるステークホルダー・グループとメカニズムの設計やパフォーマンスについて協議し、苦情に対処し解決する手段として対話に焦点をあてる。

解説

苦情処理メカニズムは、対象となる人々がそれを認知し、信頼し、使用することができる場合にのみ、その目的を果たすことができる。これらの要件は、非司法的苦情処理メカニズムを実際使うなかでその実効性を確保する助けとなるために、設計、修正、または評価するための基準を提供するものである。貧弱に設計または遂行された苦情処理メカニズムは、影響を受けるステークホルダーの間に、プロセスにより自分は力を奪われた、また軽視されたという思いが強まることで、苦情感情をこじれさせるリスクを生じかねない。

最初の7要件は、国家基盤型または非国家基盤型、裁定または対話形式、いずれのメカニズムにも適用される。第8要件は、企業が運営を支援する、事業レベルのメカニズムに特化したものである。

「苦情処理メカニズム」という用語は、ここではイメージ的な用語として使用されている。用語それ自体は、具体的なメカニズムに充てられる場合は必ずしも適切ではなく、また有用でもないかもしれないが、実効性のための要件は、いずれにしても変わらない。それぞれの要件についての解説は次の通りである。

(a) メカニズム利用者であるステークホルダーがその利用を選択するには、メカニズムを信頼しているはずである。苦情処理プロセスの当事者がメカニズムの公正な遂行に干渉できないように 責任の所在を明らかにすることは、一般的に言って、ステークホルダーの信頼を築きあげるための一つの重要な要素である。

(b) アクセスへの障壁は、メカニズムに対する認知不足、使用言語、識字能力、費用、所在地の問題及び報復に対する恐れを含むであろう。

(c) メカニズムが信頼され活用されるために、メカニズムが設ける手続についての情報を広く提供すべきである。段階毎の所要期間枠は、時に柔軟性が必要とされることを認めながらも、可能なかぎり尊重されるべきである。

(d) 企業と影響を受けるステークホルダーの間の苦情申し立てまたは紛争において、後者は情報や専門知識や助言へのアクセスで非常に不利であり、費用を支払う財源を欠くこともしばしばである。この不均衡を是正できない場合、公正な手続を達成すること、また手続は公正なものであるとの認識が共に弱まり、永続的な解決に到るのが困難になりうる。

(e) それぞれの苦情処理の進捗について当事者と定期的に情報を共有することは、プロセスの信頼性を維持するために必要不可欠であろう。メカニズムのパフォーマンスについて、統計、事例研究、または具体的事案の処理に関する詳細な情報を通じて、広範なステークホルダーに対して透明性を確保することは、その正当性を示し広く信頼を得るために重要である。同時に、必要な場合には、当事者対話や個人情報に関する秘密性は保持されるべきである。

(f) 苦情は人権という視点から構成されていないことがしばしばで、当初は人権への懸念を提起しないことも多い。しかしながら、結果が人権への関わりを持つ場合は、国際的に認められた人権に合致したものになるように注意すべきである。

(g) 苦情の頻度、パターン及び要因を定期的に分析することは、メカニズムの運営組織が今後の被害を防止するために変更すべき政策、手続または慣行を特定し、これらに影響を与えることを可能とする。

(h)事業レベルの苦情処理メカニズムに関して影響を受けるステークホルダー・グループとその設計や実績について対話・協議することは、彼らのニーズを満たし、メカニズムが実際に活用され、それが首尾よく機能するという共通の利益を確保するのに役立つ。企業が、訴えの対象でありながら、同時にまた一方的に苦情処理の結果を決定するというのは正当ではなく、受け入れられないことである。これらメカニズムは、対話を通じて合意による解決に到ることに焦点をあてるべきである。裁定が必要とされる場合は、正当で、独立した第三者メカニズムにより行われるべきである。

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