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国際人権ひろば No.133(2017年07月発行号)

じんけん玉手箱

オンライン・ヘイトスピーチ

阿久澤 麻理子(あくざわ まりこ)
ヒューライツ大阪所長代理

 路上のヘイト・デモに対しては、「カウンター」と呼ばれる対抗活動が組織されてきましたが、ネット上でのヘイトスピーチにどう対抗していくのかは、市民社会にとって、これからの重大な課題です。

 日本では、ヘイトスピーチを直接取り締まる法がありません。そのような中で、自治体レベルでの動きが進んでいます。大阪市では2016年に施行された「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」の下で、市の諮問を受けた審査会が、2017年3月に3本の動画(2013年に市内で行われたヘイト・デモを撮影したもので「ニコニコ動画」に投稿された)をヘイトスピーチにあたると認定しました。大阪市長はこれを受けて、市条例に基づき、動画サイトを運営する会社に対して削除を要請し、運営会社はそれを受けて当該サイトを4月上旬に削除しました。また、川崎市の人権施策推進協議会も、インターネットのヘイトスピーチを積極的に削除要請するよう、市に提言しています。

 ところで、オンライン・ヘイトスピーチには、特徴的な問題があるとユネスコの研究が指摘しています1。第一に、「永続性」があること。ヘイト表現はネット上に長く残り、その間にリンクが張られるなどして広がります。「いつまでもアクセスできる状態が続くと、被害者へのダメージが大きくなり、加害者がエンパワーされてしまう」と指摘されています。

 第二の問題は「巡回性」があることです。投稿が削除されても、別のところで再投稿されたり、ウエブサイトが削除されても、規制の弱い国や運営会社の下で、同じ内容のサイトが再び開設されてしまいます。安価なので、何度でも同じことが繰り返されます。

 第三には「一国の法律で対応が難しい」こと。SNSでは国境を越えたやり取りが行われ、ヘイトの拡散にも複数の人(組織)が関わります。

 そして第四に、「匿名性」。ネット上のヘイトスピーチの多くは、仮名のアカウントから発信され、そこには「見つからないから何を言ってもよい」という心理が働きます。

 「国際人権規約(自由権規約)」も、「人種差別撤廃条約」も、差別、敵意又は暴力の扇動となる表現を法律で禁じることを、いくつかの条件とともに締約国に求めています。しかし、オンライン上のヘイトスピーチの持つ上記のような特徴ゆえに、「国」が必ずしも有効に問題解決を主導できないことも、指摘されています。サイトを運営する会社(サービスプロバイダーやSNSプラットフォーム、サーチエンジンなど)が、自主的かつ適切な取り組みを求めていくことが重要です。

 2016年には、在日コリアンの親子を中傷したネット上の書き込みが「人格権の侵害」であるとして、横浜地方法務局がツイッター、グーグル、サイバーエージェント社に削除要請を出し、各社がそれに応じました。さらに2017年1月にはLINEが「まとめサイト」のスレッドを削除しています。

 ところで、2016年5月に、フェイスブック、ツイッター、マイクロソフト、グーグル各社が、欧州委員会の示した、ネット上でのヘイトスピーチの拡散を防ぐための行動規範に合意し、ヘイトとの通報を受けた書き込みを24時間以内に確認し、必要なら速やかに削除・停止措置をとることに合意したことを『国際人権ひろばNo.128号』でも、紹介しました。しかし、その後の企業の自主的な取り組みは、あまり機能していません(委員会によると、24時間以内に対応されたのは40%にとどまります)。

 ドイツの法務大臣は、企業がヘイトスピーチや違法なコンテンツ、偽ニュースに対して、迅速に対応しなければ、最高5,000万ユーロ(約60億円)を会社に対して科すという法案を2017年の3月に提出しました。法案は、7日以内の削除、24時間対応の相談窓口の設置を求めています2

 一方、ヘイトスピーチの抑制を企業に任せてしまうと、法的手続きを経ず、違法性の判断を企業任せにすることになる、という危惧の声もあります。ネット上のヘイトスピーチに抗する、国、企業、市民社会の役割と協力のありかたが問われるところです。

 

1:Gagliardone 他(2015)Countering Online Hate Speech. UNESCO Series on Internet Freedom.  UNESCO.

2:The Telegraph. 2017.3.14.
http://www.telegraph.co.uk/technology/2017/03/14/germany-threatens-fine-social-media-companies-50m-hate-speech/.


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