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人権CSRに関する連続セミナーを開催しました(2014年11月・12月)

 大阪経済法科大学が主催し、ヒューライツ大阪が後援する「人権CSR」に関する連続セミナーが11月7日および12月17日に開催されました。セミナーでは、児童労働と紛争鉱物問題、障がい者雇用の3つの人権課題を取り上げ、企業がどのように取り組むことができるのかについて、専門家と参加者が議論を行いました。ヒューライツ大阪からは白石所長がコメンテーターとして登壇しました。

 第1回目のセミナー「人権CSRセミナー:児童労働×紛争鉱物」(11月7日)は、サプライチェーンの課題として注目を集める児童労働と紛争鉱物を取り上げました。認定NPO法人ACE代表の岩附由香さんから「児童労働」について、認定NPO法人テラ・ルネッサンス理事長の小川真吾さんから「紛争鉱物」について講演をいただきました。

 第2回目のセミナー「人権CSRセミナー:職場、市場、地域社会での障がい者への『合理的配慮』を考える」(12月17日)は、明石市福祉部福祉総務課障害者施策担当課長兼政策部政策室課長の金政玉さん、株式会社美交工業専務の福田久美子さん、株式会社ダイキンサンライズ摂津社長の澁谷栄作さんをお招きし、障がい者雇用における「合理的配慮」についての講演後、パネルディスカッションを行いました。

 2回のセミナーを通じて繰り返し確認されたのが、人権課題に企業が取り組むための体制づくりや仕組みづくりの重要性でした。まさに、国連ビジネスと人権に関する指導原則の示すところです。

 指導原則では、企業には国際人権基準を尊重する責任があることが示されています。その際の国際基準とは国際人権章典(世界人権宣言およびふたつの国際人権規約)およびILOの中核8条約ですが、これを補完するものとして人権諸条約があり、今回取り上げた人権課題に関する諸条約、例えば子どもの権利条約、ジュネーブ4条約などの国際人道法、そして障害者権利条約が含まれます。人権尊重責任を果たすため、現場の理解に加え、経営トップ自らがコミットメント(取り組む決意)を表明し、企業の方針のなかでこれら3つの課題への対応を盛り込むなど、企業としての姿勢・取り組みが求められています。

以下、今回の3つの人権課題の概要を紹介しておきます。

〇児童労働とは?

 「子どもが働くこと=児童労働」という誤解をよく耳にしますがそうではありません。「児童労働」は、教育を受けることを妨げる労働、健康的な発達をさまたげる労働、有害で危険な労働、子どもを搾取する労働をいいます。したがって「学校に通いながらのアルバイト」や「安全な環境下でのお手伝い」は児童労働に当てはまりません。世界的に児童労働は減少傾向にありますが、解決にはまだ時間がかかります。それは、児童労働の背景に、「子どもは働いて当たり前」という社会認識、学ぶ環境が整っていない現実、家庭の貧困、そして価格抑制とコスト削減から児童労働に支えられるビジネスの存在があるからです。児童労働の解消に向けての企業の取り組みには、次のようなものがあります。

●「児童労働および強制労働の禁止」を人権方針で明言する。

●研修のなかで児童労働および強制労働を事業活動と関連づけながら取り上げる。

●①取引先または②投融資を行う事業・プロジェクトにおいて、意図的か否かを問わず、児童労働や強制労働が生じないよう、事前および定期的な評価を行う。場合によっては、①または②に対し改善に取り組む、または改善を働きかける。

●NGOや専門家団体と協力し、問題防止・解決に取り組む。

〇「紛争鉱物」問題とは?

 例えば、アフリカ中・東部では、スーダン第一次内戦(1955年~1972年)以降、5カ国で9つの紛争が勃発し、その紛争犠牲者数は約1000万人にのぼると推定されています。このような紛争状態が長期化する要因のひとつとして鉱物資源の存在があります。タンタルなどのレアメタルが武装勢力によって違法に採掘され、武器の購入などの活動資金にあてられてきました。したがって、私たちが日常的に使用する携帯電話やパソコンといった電気電子製品に、紛争地域で違法に採掘された鉱物が使用されれば、結果的に武装勢力に加担することにつながります。この流れを変えようとする動きとして、2010年米国金融規制改革法(ドット・フランク法)による紛争鉱物規制があります。紛争鉱物をはじめ、紛争に加担しないための企業の取り組みには次のようなものがあります。

●自社の事業と紛争地域やハイリスク地域の関わりや、自社の事業が紛争自体に関わるリスクについて、全社的に把握する組織・部局を設置する。

●必要に応じて、政府や市民社会組織と協働しながら、社内外への意識啓発、紛争地域・ハイリスク地域への社会貢献活動などを行う。

●投融資・調達・市場進出で、紛争または紛争地域・ハイリスク地域と関わる場合、自社の事業が当該地域に悪影響を与えるリスクを把握する。

●前項のリスクの把握に加え、人権デューディリジェンスを行い、悪影響の防止、緩和に取り組む。

 

〇障がい者に対する「合理的配慮」とは?

 日本は障害者権利条約の批准を2014年1月に達成しましたが、これに向けて国内では法制度の整備を行ってきました。この時、法律で禁止される差別として合理的配慮の不提供が規定されました。障がいのある人が、社会的な障壁をなくすために、本人の性別、年齢、障害の種別などの特性に応じて必要な配慮を求めた場合に、相手方が、重すぎる負担がないのに合理的な配慮の提供を拒んだときがこれにあたります。民間事業者の場合、障がい者に対する合理的配慮は努力義務に止まりますが、職場における合理的配慮の提供は法的義務となります。合理的配慮では、当事者と会社との話し合い(コミュニケーション)が鍵となります。当事者から必要な配慮を「申し出る」ことができるよう、相談窓口を多様化し、申し出のしやすさを確保することが重要です。このような合理的配慮の確保に向けた企業の取り組みには、次のようなものがあります。

●「障害者法定雇用率」の達成を実現する。

●自社の事業および社員の業務と結び付ける形で、障がい者に対する差別の禁止および合理的配慮について研修を行う。

●障がいをもつ労働者ひとりひとりに対し、その意見を取り入れながら、企業の過重な負担とならない範囲で、施設・設備等の環境整備とともに、人的支援や職場のマネジメントの面で合理的配慮を行う。

●障がいをもつ労働者からの合理的配慮の相談を含む、職場に関する苦情を解決するために、労働者やその家族等が利用できる相談や救済のための窓口や体制を整える。

菅原絵美(大阪経済法科大学助教)