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国家が夫婦の寝室まで「覗き見る」国際結婚 ~「偽装結婚」というグレイゾーン

藤本 伸樹(ふじもと のぶき) ヒューライツ大阪研究員

近年の国際結婚の推移

  日本における婚姻総件数が減少している一方で、国際結婚件数は過去数十年間、毎年のように増加している。とりわけ、日本が「経済大国」へと飛躍した1975年、日本人夫・外国人妻が外国人夫・日本人妻の組み合わせを追い越した。以後、その差は拡大している。
 厚生労働省が集計している人口動態統計年報の婚姻統計によると、2006年は日本の婚姻総数730,971組に占める国際結婚は、日本人夫・外国人妻35,993組(全体の4.9%)、外国人夫・日本人妻8,708組(1.2%)、合計で44,701組(6.1%)に達した。つまり、全婚姻の16組に1組が国際結婚ということになる。日本人夫・外国人妻が多いのは、日本男性の結婚難が背景にあると考えられる。外国人妻の国籍は、中国とフィリピンが突出して多く、韓国・朝鮮(在日韓国・朝鮮人も含む)と続く一方、外国人夫の場合は、韓国・朝鮮(同上)、米国、中国の順である。
 日本人と結婚すると、外国人妻(夫)は「日本人の配偶者等」の在留許可を取得することができる。在留期間は1年もしくは3年で、職種に制限なく働くことができる。さまざまな制限が伴う他の在留資格と比べれば「安定」した条件を得ることができる。そして、日本在住3年で永住資格、もしくは日本国籍取得の申請条件のひとつが整うのである。

入国管理行政と密接にリンクする国際結婚

 国際結婚、および在留資格「日本人の配偶者等」の取得申請の手続きは煩雑だ。婚姻の成立には、日本と相手国の法律・規則に基づいて手続きをしなければならないことに加え、「日本人の配偶者等」の資格を得てカップルが日本で生活するためには入国管理局から在留資格認定証明書の交付を受けることがその条件となる。そのためにたくさんの書類提出が求められるのである。たとえば、結婚に至った経緯、使用言語、結婚式の日時・場所、親族構成などを詳述する質問書、日本人配偶者の納税証明書・在職証明書などだ。
 日本人どうしの婚姻ならばまず問われることのないプライバシーが、国際結婚では重要視され、そのカップルだけしか知らない、他人の踏み込めない領域までさらけ出すことが否応なく要求されるのである。
 これには、就労を目的として日本人の配偶者を「装う」といった「偽装結婚」の防止をめざす入国管理行政が背景にある。そのため、結婚という私的な領域に、監視や介入が行われるのだ。「怪しい」と疑われれば在留資格「日本人の配偶者等」を得ることができなくなる。もっとも、これは日本に限らず、程度の差こそあれ各国に共通する政策である。カップルに「真正な結婚」であることの証拠を求め、入管は裁量的判断を行うのだ。

「偽装結婚」に対する厳しい処罰

 日本国憲法第24条は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と定めている。この条文を読む限り、両性の合意に基づき「真正」あるいは「偽装」を問わず婚姻は成立するはずである。
  一方、民法第752条は、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と規定し、同居、協力及び扶助を義務づけることで「婚姻のあるべき姿」に踏み込んでいる。これが「真正」と「偽装」を峻別する根拠である。
 婚姻の実態がないと疑われると、刑法第157条が定める「公正証書原本不実記載」、同行使などの容疑で摘発・逮捕される。起訴されれば裁判へと持ち込まれるのである。この場合の公正証書とは戸籍簿である。有罪となれば、「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」という重い処罰が科せられる。

国際結婚と人身売買

 日本人の配偶者は就労が可能になることから、途上国出身の女性を「偽装結婚」させるというビジネスに目をつけている人身売買のブローカーが暗躍している。
 2005年に日本政府の人身取引対策の主要な柱のひとつとして、フィリピン人エンターテイナーの入国審査を厳格化した結果、2004年には82,741人だった「興行資格」での入国者数が2005年には47,765人に半減し、2006年には8,607人へと激減した。それに反比例するかのように、日本男性とフィリピン女性との婚姻数が8,397組(04年)、10,242組(05年)、12,150組(06年)へと急増した。この増加の意味するものは何なのだろう。
 警察庁や入管局は、国際結婚の増加につれて、婚姻実態の追跡調査や、第三者からの密告を入管局のウェブサイトなどを通じて監視を強め、摘発を続けている。
 「偽装結婚」を仲介するブローカーが逮捕されるという報道も最近増えてきた。ブローカーが、たとえば多重債務を背負っている日本男性に接近して借金の帳消しなどを条件に途上国の女性との「偽装結婚」への協力、つまり夫となる話を持ちかけるのである。
 そうした借金弁済や、婚姻手続きのコストを支払うのは、「国際結婚」を通じて来日した女性たちである。日本人の配偶者として来日するものの、多額の借金を背負わされて毎日働くことになるのである。売春を強いられるケースもあるようだ。
 摘発されれば、男女とも処罰の対象だ。公正証書原本不実記載の容疑で起訴される。確かに、女性たちは最初から「偽装結婚」であることを承諾していたかもしれない。しかし、日本で負わされるのは予期せぬ多額の借金や厳しい労働条件、性的搾取などだ。これは人身売買ではないか。だが、女性たちは被害者としてではなく、婚姻を偽装した犯罪者として裁かれるのである。
 日本政府は2004年12月に「人身取引対策行動計画」1を策定し、人身取引(人身売買)の取り締まりや被害者保護、防止のための施策や方針を明文化した。そのなかで、「偽装結婚対策」の項目が設けてある。だが、不思議なことに、その内容は人身売買と「偽装結婚」との関係についてはいっさい言及されておらず、入国管理法に基づいた「留資格取消制度の活用」と「婚姻の実態に疑義のある者の追跡調査」といった「偽装結婚」の告発のみが強調されているにすぎない。
 女性たちは被害者として保護されず、「偽装結婚」の当事者として裁かれ、その大半は執行猶予がつくとはいえ有罪判決を受け、退去強制させられるケースが多いようだ。「人身取引対策行動計画」が7項目にわたって掲げる被害者の保護は、完全に後景に追いやられてしまっているのである。理不尽な行政や司法の判断が透けて見えてくる。
  筆者はこれまで、日本人どうしの結婚で「偽装結婚」として摘発され有罪判決が出たという話を聞いたことがない。一方、国際結婚をめぐる「偽装結婚」の「事件」に関するニュースは近年後を絶たない。
 そのように、日本人どうしの結婚と国際結婚とのあいだには明らかにダブルスタンダードが存在している。国際結婚は、「愛」や「夫婦の親密性」が問われ、あくまでも「真正」、そして「神聖」でなければならないのだろうか?

(反差別国際運動日本委員会『IMADR-JC通信 No.154(2008年4~6月号)』より転載)

1.内閣官房のウェブサイトに全文掲載されている。(※2009年12月に同行動計画は「行動計画2009」として改定された)http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/jinsin/kettei/041207keikaku.html

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