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国際人権ひろば No.65(2006年01月発行号)

特集 アジアの子どもの人権 Part1

インドの児童労働の実態と取り組み

岩附 由香 (いわつき ゆか) 特定非営利活動法人 ACE(エース)代表

  「私は小さい頃から働いていました。後にそれが父親の債務のためだと知りました。仕事をしているとき、雇い主は殴る、打つなど暴力を振るいました。(中略)私自身児童労働者として働いていたときは、いかにそれが健康を害することか考える余裕がありませんでした。しかし、救出されて教育を受けられるようになって、子どもの成長に児童労働がいかに有害かに気づきました」。
  これは2005年12月ACEのシンポジウムに出席するために来日したオム・プラカシュ君(15歳)の言葉である。
  世界には未だオム君が過去そうであったように「児童労働」をさせられている子どもが約2億4,600万人(ILO、2002年発表)いる。ここでいう「児童労働」とは子どもの身体的、精神的、社会的発達に有害であるか、または義務教育を妨げる18歳未満の労働を指す。「児童労働はいままだ続く奴隷制のひとつ」と25年間67,000人の児童労働者を救出してきた活動家、カイラシュ・サティヤルティさんは言う。
  児童労働が国際的に問題として認識されはじめた20世紀初頭から世界経済は発展し、平和で豊かな生活を享受できる人は多くなった。その一方で子どもたちの搾取は続き、経済のグローバル化、インターネットの普及、観光産業の繁栄等を背景に組織化また商業化され、子どもたちは発展の果実を享受できないでいる。

■世界の取り組み


  国際社会もこの事態を見過ごしてきたわけではない。80~90年代の欧米での有名ブランドの児童労働の使用を告発するキャンペーンと一連の報道により、企業・市民レベルでのこの問題に対する意識は高まった。98年に行われた「児童労働に反対するグローバルマーチ」という市民社会の世界規模の動きも功を奏し、99年には国際労働機関(ILO)で「最悪の形態の児童労働」条約が採択された。この条約は全会一致で採択されILO史上最も早いスピードで批准されており、ILO加盟国178ヶ国のうち157ヶ国が批准している[1]。またILOは技術協力としてIPEC(児童労働撤廃国際計画)を92年に発足させた。05年10月に発表されたレポートによると86カ国で120以上のプログラムを実施し04と05年は1億1,600万ドルを費やし、02年~03年の8,800万ドルと比較しても大幅な増強となった。2年間でリーチできた子どもの数は直接的リーチが36,000人、間接的リーチが1,600万人となり、それぞれの目標(3万人、1,000万人)を達成した。

■インドの児童労働の実態[2]


  児童労働者の数が最も多い国が、インドである。近年の目覚しいIT産業の成長の裏には、都市や農村で発展から取り残された家族と子どもたちがいる。人口の26%が貧困ライン以下の生活をし、その8割が8州(ウッタル・プラデシュ、ビハール、マディヤ・プラデシュ、西ベンガル、オリッサ、アンドラ・プラデシュ、ラジャスタン、アッサム)に集中している。6歳から14歳の6,500万人が学校に通っていない。(01年センサス、05年発表)インドではSarva Shiksha Abhiyanという独自のEFA(万人のための教育)イニシアチブを教育省が実施しているが、これは非就学児童を2,500万人と見積もっており、今後修正を余儀なくされていくだろう。また、働いている子どもの数は、1,266万人(5-14歳、01年センサス)で、1,120万人(91年)から増えているが、対人口比は5.4%から5%へ下がっている。統計上、「学校に行っていない子ども」と分類される子どもの多くが実際は働いていると考えられること、また児童労働の定義と統計の働く子どもの定義との違いもあり、インドのNGOは約6,000万人の児童労働者がいるとしている。
  91年センサスによると農村で農業労働者等として働く子どもたちが79%と最も多い。農村の貧困と児童労働が密接に結びついていることが伺える。教育の整備も必要だが、アンドラ・プラデシュ州で行われた児童労働防止プログラムでは、働く子どもを学校に行かせることには成功したが、中途退学し働きに戻る子どもたちがおり、結局家族の生活を支えるために働かざるをえない状況が変わらないと子どもが教育を続けることが難しいことを示している。また冒頭に紹介したオム君も親の借金のために働かされていたが、インドも中でも債務労働と呼ばれる借金のかたに働かされる児童労働は法律で禁止(76年債務労働制(廃止)法)されているにもかわらずなくならない。日本円にして数千円の借金で子どもの一生を労働に縛り付け台無しにしてしまう[3]

■NGOの取り組み


  インドの現状にインドの市民社会はどう反応しているのだろうか。インドには数多くの児童労働に取り組む組織があり、そのアプローチも様々だ。バタフライズ、CWC(Concerned for Working Children)など子どもの権利を中心に据え子どものニーズに合わせた活動もあれば、M.V.Foundationのように子どもたちを既存の教育システムに復帰させるためのブリッジスクールを運営する団体などもある。本稿ではインドのNGO、BBA/SACCS(南アジア子ども奴隷解放同盟)[4]の活動を紹介したい。
  BBA/SACCSは80年に始まったムーブメントで直接介入、連携強化、一般市民を巻き込んだ運動を通じて奴隷状態にある子どもを見つけ出し、解放し、教育を行っている。キャンペーン、教育、親の啓発活動を地域の学校や子ども、教職員組織、宗教団体、使用者などと連携して行っているのが特徴だ。また国際的な活動として、ラグマーク[5]のような消費者に対するアクションや、98年に世界110カ国で展開された「児童労働に反対するグローバルマーチ」においても中心的な役割を果たした。
  その中のひとつの取り組みが「子どもにやさしい村」プロジェクトである。これはインドの貧しい農村で児童労働がなくなり、すべての子どもたちが学校で学べるように支援することを目的にBBAが00年より始め、これまでにインドの 9州の53村と6区で実施された。村民の中から活動家を選び、児童労働に対する問題意識、子どもの権利や教育の重要性をその村の中で広めることにより、子どもの就学の改善や、学校や村の環境改善などの成果をあげている。また、村に子ども議会を作って子どもの声を村議会に届けることにより、子どもの問題が村全体の問題として取り組まれるような仕組みづくりや、村の人たちが既にある資源や行政制度を使って、自分たちの力で問題を解決できるように支援している。援助依存を生まず、持続可能な「仕組み」を作る点が特長だ。ACEは02~03年にウッタル・プラデシュ州の4つの村でこのプロジェクトを支援し、78名の子どもたちが児童労働をやめて学校に通うようになった。
  このような地域に根付く包括的なアプローチが今後各地で広がってほしい。

■今後の課題


  来日したサティヤルティさんは「働かされている状況から解放されない限り、ミレニアム開発目標に掲げられている基礎教育の実現はありえない」としてミレニアム開発目標の実現にも児童労働問題は重要であることを指摘している[6]。「児童労働は貧困削減、基礎教育実現、平和構築と密接に結びついている。この4つに同時に取り組まなければ、問題は解決できない」との彼の信念が国際レベルで行動として実現したのが12月に発足した「児童労働と教育についてのグローバルタスクフォース」[7]である。ILO、国連児童基金(UNICEF)、UNESCO、世界銀行、児童労働に反対するグローバルマーチによって構成され、児童労働をなくし良質な無償基礎教育の実現を目的に、国際機関間の政策の整合性、また国内での児童労働と教育に関係する省庁間の調整を促進する活動を行っていく。このような政策と資源の調整を行うことと同時に、児童労働問題への認識を高めていくことが今後必要だ。07年には平和のためのグローバルマーチが企画されており、市民社会が問題に気づき行動を起すための活動が今後も続けられていくことになる。
  「(自分が助けられて)他の子どもたちを働かせたくないと強く思うようになった。」と、現在は子ども活動家として活躍するオム君自身が、また世界の多くの子ども活動家も、「私たちは現在、私たちの声は未来」と題した宣言文[8]で子どもからの具体的な要求を示している。「未来を担う」子ども、という表現をするが、ここには現在生きている子どもたちが見過ごされている、今生きている子どもは「もう待てない」のだ、と主張する子どもたちに、おとながどう答えるのか、私たちが課せられた宿題は多い。

1. 2005年12月3日のILOウェブサイト参照。
2. 出典:Global March Against Child Labour, International Center on Child Labor and Education, Review of Child Labour, Education and Poverty Agenda INDIA Country Report 2006
3. 詳細は『インドの債務児童労働』明石書店を参照。この続編Small Change (www.hrw.orgからダウンロード可能)でもその実態が改善されていないことが指摘されている。
4. http://bbasaccs.org/
5. 手織りのカーペットにつけられ、そのカーペットが児童労働によって作られていないことを証明するラベル。
6. ユニセフ子供白書2006年版(英語版)p.53 にも、ミレニアム開発目標の8つのゴールに対し、子どもたちの状況として配慮すべきことをあげており、児童労働の問題を指摘している。
7. 詳細はwww.acejapan.org, globalmarch.org を参照のこと。
8. 第2回 児童労働と教育についての世界子ども会議 子ども宣言

(特活) ACEは児童労働をなくすために活動しているNGO

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