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国際人権ひろば No.65(2006年01月発行号)

世界の人権教育

学校カリキュラムに「人権教育」をどう統合するのか ~南アジアの学校における人権教育ワークショップを開催

ジェファーソン・R・プランティリア (Jefferson R.Plantilla) ヒューライツ大阪主任研究員

  ヒューライツ大阪は、2005年12月13日から15日、インドのニューデリーでインド、ネパール、パキスタン、スリランカの4ヶ国のカリキュラム開発担当や教育省からの参加者を迎え、南アジア人権教育ワークショップを開催した。
  ワークショップでは、国際人権基準についてふりかえり、学校カリキュラムに人権教育を統合している国の経験を学びながら、参加者の自国の学校カリキュラムに、人権教育をどのように統合すべきかを考えた。

■考え方や経験の共有を


  開会にあたり、川島慶雄・ヒューライツ大阪所長のメッセージが代読された。「今回のワークショップは、トレーニングの場として企画されたが、参加者の知見や経験を引き出すことも重要である。3日間の短い時間ではあるが、各自の考え方や経験をふりかえり、国際人権基準を統合するカリキュラム例を開発し、その共有をできればというのが主催者の熱い願いである」。
  現地協力団体のジャミア・ミリア・イスラミア大学の「平和と紛争解決センター」のラハド・クマール教授は、あいさつの中で、国連人権委員会をはじめとする国際的な人権機関が弱体化する一方、「戦争やテロ」による人権侵害が増加していることは大変残念であり、この状況に対抗するべく人権教育の取り組みを強める必要があることを強調した。

■人権・人権教育の枠組みと潮流を学ぶ


  プログラムは、国際的、地域的な背景の中で、このワークショップがどう位置付けられるのかを解説することからはじまった。
  筆者は、「人権教育のための国連10年」、ユネスコ主催の会議、「国連人権教育のための世界プログラム」など人権教育を推進する国際レベルでの状況を説明し、アジア・太平洋地域での国連人権高等弁務官事務所や国内人権機関による取り組みを紹介した。次に、南アジア地域協力連合(SAARC)の加盟国が、2つの人権文書注1に署名をしたが、これらの文書は、加盟国が市民の人権意識向上のために努力することを強調している。そして今回のワークショップは、前述した人権や人権教育に関する文書や取り組みをすべて支持している。
  フィリピン教育大学のゼナイダ・レイエス教授は、参加者から人権についての関心や問題意識を引き出すファシリテーターを担当した。ほとんどの参加者は、学校・家庭・コミュニティ・国内全体で、人権を実現する際に障害となるものをあげた。人権の理解だけでなく、義務を理解していないことが問題だとする参加者がいた。また学校では競争主義が拡がっていて、言語教育・数学・科学が重視され、人権のような社会問題は軽視されるということを挙げた参加者もいた。こうした状況が、学校のカリキュラムに人権教育を統合する際の主な障害であると考えられよう。
  世界人権宣言の概要とこの文書に含まれている今日的な意義については、筆者が担当した。個人レベルから国家のレベルに至るまで自由を追求する流れは継続し、国際的な人権システムが発展している。また世界人権宣言の条文をうまく整理し理解するためのアクティビティを行い、人権の原則である普遍性・不可分性・相互依存性について言及した。
  ジャミア・ミリア・イスラミア大学のアブドラヒム・P・ヴィジャプル教授は、子どもの権利条約について解説した。子どもの権利に関する概念を説明し、条約の草案作りの歴史やこの条約の一部の権利に対し異議を唱える意見があることを紹介した。また多くの国で、留保付きで条約を批准したり、国連子どもの権利委員会への国別報告の提出が遅れるなど、子どもの権利条約が履行されるにあたり、問題が起こっていることを伝えた。
  インドとフィリピンにおいて、人権教育を学校カリキュラムに統合した経験を前インド教育研究研修全国協議会(NCERT)のアルジュン・デヴ教授とフィリピン教育大学のロリータ・ナヴァ教授が紹介した。いずれも人権を教えることができる特定の教科領域を示した。また、4カ国の教育政策と生徒たちの人権意識を比較調査しているプロジェクトも紹介した注2
  リソース・パーソンによる最後の説明は、NCERTのプラナティ・パンダさんによるもので、学校カリキュラムに人権教育を統合する際のコンセプトを説明した。さらに異なるタイプの統合アプローチについて説明し、人権教育を学校カリキュラムと教員研修カリキュラムのどちらにも統合させること、生徒自身の人権問題とつながった人権教育の推進、参加型学習を取り入れていく効果などについて述べた。

■各国の参加者が創意工夫した案を発表


  ワークショップの次のプログラムでは、参加者が各自の学校カリキュラムをふりかえり、そこに人権教育を統合するための創意工夫した案を発表した。
  ネパールの参加者は、ネパール国内で起きている武力紛争の問題について発表した。紛争により学校施設が損傷を受けるだけでなく、生徒、教員、公務員が命を落としたり、負傷したりしている。彼らの提案は、生徒や教員を地域社会が支えていくことに加え、すべての学校に「平和ゾーン」を作ることであった。また現行の学校カリキュラムでは、ネパール憲法で認められた権利の形式で人権を教えることになっているが、学校カリキュラムに人権教育を統合するため、セルフ・エスティーム(自尊感情)、自己信頼、国を愛する意識、子どもの虐待と差別というような課題を人権教育として取りあげたいという提案があった。そして人々、文化、民主的な規範・価値の尊重という権利に焦点をあてて、極貧層を援助し紛争を解決したいと述べた。こうした内容は、小学校レベルでは言語教育、社会科、創造芸術教科、体育に統合できる。紛争解決、プライバシー、学校における人権コミュニティづくりなどは、すべての教科に統合できる内容である。
  スリランカの参加者は、初等教育と中等教育に分かれて発表した。スリランカでは、数年前、学校で人権教育を教えると秩序がなくなるという主張がなされて、教員が人権教育に反対するという事件があった。それは、教員が自分たちの行動が訴えられかねないという恐れからきたようだ。しかし政府は学校で人権教育を教えることを支持した。スリランカの案では、人権教育は、地理、公民、科学、美術教育、体育など「環境」教科に関連した実践事例を通して、初等教育カリキュラムに統合できるということである。そのテーマとして、非差別・平等、表現の自由、文化への権利、働く権利、財産を持つ権利、そして法の下の平等という人権の原則などを挙げた。また教科で人権教育を教えることに加え、教育指導法や特別なプロジェクト(障害児に関する統合教育やタミル語、シンハラ語を相互に学ぶ多言語教育)を通じても人権教育を教えることができる。中等教育では、人権教育を公民や政治に関する教科への統合を強化していくことが提案された。そこには、人権と義務に関連するテーマがあり、さらに、政府、法律、経済システム、国際関係に関連するテーマにも人権を統合できるとしている。
  パキスタンの参加者は、人権は、社会科(歴史、公民、地理を含む)とイスラム研究の教科で教えることができると説明した。また、ある私立学校のウルドゥー語の授業における人権教育の特別レッスン・プランの実践を紹介した。そして人権への姿勢と教員研修の必要性を強調した。
  インドの参加者は、学校カリキュラムの開発に民主的なプロセス(様々なセクターとの協議を通じる)が必要であることを説明し、バンダさんの意見に同意を示した。またインドの私立学校での価値教育の実践も報告された。
  ワークショップは実際に参加者どうしの考え方と経験を分かち合う場となることができた。ワークショップを通じて、包括的でなくても系統だった形で、学校カリキュラムに人権教育を統合させることが重要であるということが浮き彫りになった。

注1:「買春を目的とした女性および子どもの不正取引の防止および撲滅に関する条約」(Convention on Preventing and Combating Trafficking in Women and Children for Prostitution)と「南アジアにおける子どもの福祉の促進のための地域協力体制に関する条約」(Convention on Regional Arrangements for the Promotion of Child Welfare in South Asia)。
注2:ヒューライツ大阪の事業として進めているこの比較調査は、学校での人権教育プログラム実施において注目すべき経験を持つインド・スリランカ・日本・フィリピンの4カ国を対象としたものである。

(訳・朴君愛 ヒューライツ大阪)

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