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国際人権ひろば No.64(2005年11月発行号)

国連ウオッチ

ミレニアム開発目標達成への道-ほっとけない世界のまずしさ

田中 徹二 (たなか てつじ) 「ほっとけない 世界のまずしさ」キャンペーン実行委員会

グローバルな貧困根絶運動の誕生


  この夏から秋にかけて、「3秒に1人、世界の子どもが貧しさの故に死んでいる」という鮮烈なキャッチコピーとともにホワイトバンドが多くの若者たちの腕に巻かれ、一種の社会現象となった。ファッションとして身につけている人々も多いとは思うけれど、一方で現代世界において厳しい「貧困問題」が存在していることを知らしめる強力なツールとなったことも事実である。
  今年2005年は、2000年に国連で採択された世界の貧困削減などを謳った「ミレニアム開発目標(MDGs)」の5年目のレビューの年であるということで、全世界的に「貧困問題」への関心が高まった。とくに、7月のG8サミットが、最も取り組みに熱心なイギリス政府のお膝元(グレンイーグルス)で開催されたこと、そしてイギリスには"Make Poverty History"(貧困を過去のものにしよう)という強力なNGO運動が存在することなどがあいまって「貧困問題」は運動的にも盛り上がった。
  ところが、本番とも言える9月の国連世界サミット-その集約が「成果文書」[注1]の採択であるが-では、国連改革やテロリズム対策などに論議が集中し、肝心の「貧困問題」は脇に追いやられてしまった。
  一方、このような世界政治の動向に対し、世界的なNGO連合であるG-CAP(Global Call to Action against Poverty;グローバルな貧困根絶運動)が、各国でキャンペーンを展開した。その傘下にMake Poverty Historyがあり、日本の「ほっとけない 世界のまずしさ」キャンペーンがある。現在91カ国ほどでG-CAPが組織され活動を行っており、文字通りグローバルな運動体となった。
  本稿では、1)ミレニアミ宣言とMDGs成立の経過、2)G-CAPと「ほっとけない 世界のまずしさ」キャンペーンの動向、3)MDGsの進捗状況と今後の課題、について述べていく。

ミレニアム宣言とMDGs成立の経過


  2000年国連ミレニアム総会は、21世紀における国連の役割について「ミレニアム宣言」を採択した。宣言の内容を一言で言えば、「より平和で繁栄した公正な世界」の創出であり、次の8項目から構成されている。(1)価値と原則、(2)平和、安全保障・軍縮、(3)開発と貧困、(4)環境の保護、(5)人権、民主主義・よい統治、(6)弱者の保護、(7)アフリカのニーズへの対応、(8)国連の強化。
  宣言の基調を簡単に言えば、経済のグローバリゼーションの結果、豊かな国はいっそう豊かになったが、貧しい国はそれから取り残されているという現実があり、貧困からの脱却こそが21世紀の国際社会の課題である、というものであった。
  この宣言を元に1990年代に定められた国際開発目標を加味して、2015年という期限を設定して8つの目標をたてたが、それがミレニアム開発目標(MDGs)である。
 ● Goal 1:極度の貧困と飢餓の解消
 ● Goal 2:普遍的初等教育の達成
 ● Goal 3:ジェンダーの平等の促進と女性の地位向上
 ● Goal 4:幼児死亡率の削減
 ● Goal 5:妊産婦の健康の改善
 ● Goal 6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止
 ● Goal 7:環境の持続可能性の確保
 ● Goal 8:開発のためのグローバルパートナーシップの推進
  こうして国際社会は21世紀を「より平和で繁栄した公正な世界」とするために、貧困解消を目指すはずであった。

G-CAPと「ほっとけない世界のまずしさ」キャンペーンの動向


  翌年2001年は、米国での9.11同時テロ事件が起き、これを機に米国は「対テロ戦争」を優先し、いっそうユニラテラリズム(単独行動主義)を強め、アフガニスタン戦争・イラク戦争へとまい進することになった。こうして国際社会は「軍事的安全保障一辺倒」の世界へと歪められ、貧困問題はふきとばされてしまった。
  このような事態に対し、2004年9月南アフリカのヨハネスブルグに、途上国のNGO、先進国の国際NGO、労働組合も合流して、貧困解消のための世界キャンペーンG-CAP開始を決めた。キャンペーンのシンボルはホワイトバンドで、2005年に開催される3つ重要なサミット会合など(7月・G8、9月・国連、12月・WTO)に対して、ホワイトバンドデーとして世界同時行動の配置も決めた。
  そしてG-CAPのキックオフは、2005年1月世界社会フォーラム(WSF)が開催されているブラジル・ポルトアレグレでルーラ・ダシルバ大統領を迎えて、盛大に行われた。
  WSFが新自由主義に反対しオルタナティブを探る「討論の場」であるとすれば、G-CAPは貧困との闘いをすすめる「行動のためのプラットフォーム」である。そして各国のG-CAPはほとんどWSFに参加している団体がキャンペーンを推進しているのである。
  一方、日本においても2004年9月のヨハネスブルグ会議への参加者などが中心となって準備し、ようやく本年5月26日「ほっとけない 世界のまずしさ」キャンペーンとして旗揚げすることになった。今日賛同団体は、東京中心ではあるが、開発支援型NGO、アドボカシーNGO、人権NGO、フェアトレードNGO、生活協同組合など59団体に上っている。

MDGsの進捗状況と今後の課題


  MDGsの進捗状況については、国連事務局が9月の世界サミットに向け『ミレニアム開発目標報告2005』としてGoal 1からGoal 8まで報告している[注2]
  その中の、Goal 1の「極端な貧困と飢餓の解消」とGoal 3の「ジェンダーの平等の促進と女性の地位向上」を見ることにする。Goal 1はMDGsのメインの目標だからであり、Goal 3は他のGoalが2015年を目標に数値化されている中で、2005年が目標となっているからである。

・Goal 1「極端な貧困と飢餓の解消」について
  --目標は、2015年までに1日の所得が1ドル未満の人々の割合を半減させること
  (1)1990年から2001年にかけて、アジア全体で2億3,000万人減らしたが、サハラ以南アフリカをはじめとした他の地域では2億2,700万人から3億1,300万人へと増大している。かくして、世界人口に占める極端な貧困層の割合は28%から21%へと減少したことから、この傾向が続けば、Goal 1は2015年を待たずに実現できるとしている。
  (2)一方、1日1ドル未満で暮らす人々の平均所得を見ると、大半の地域では1990年代を通し平均日収がほとんど改善せず(0.80→0.82ドル)、さらにサハラ以南アフリカでは逆に平均所得を減少させているのである(0.62→0.60ドル)。かくして、「極貧層はさらに貧しく」という事態が起きている。
  確かに、中国とインドにおいて極貧層は劇的に減少してきたが、世界全体としてみれば人口が増加したことにより10億人以上という極貧層の数そのものは減少していない。この10億人以上という中に8億人の飢餓線上をさまよっている人々がいる。かくして、1日5万人(うち3万人は子ども)が貧困ゆえに死んでいるという事態は変わっていないのである。

・Goal 3「ジェンダーの平等の促進と女性の地位向上」
  --目標は、2005年までに初等教育と中等教育で、少なくとも2015年までに全教育レベルで、男女の格差を解消すること
  (1)初等教育(小学校)での男女格差を見るならば、南アジア、サハラ以南アフリカ、西アジアでこの10年間格差はほとんど解消しなかった。
  (2)さらに、男女格差は中等・高等教育でいっそう深まり、深刻な事態となっている。
  本来、この初等・中等教育の男女格差の解消は2005年までに達成されなければならなかったはずだが、最初からつまずいてしまったと言える。したがって、何よりも世界サミットで大問題となり、厳しく総括された形で「成果文書」に載らなければならないものであるが、切迫感も緊張感もなく流されてしまったのである。

  統計によれば、この20年間世界の富は1人当たり2倍になったが、その富は平等に分配されているのではない。先進国は2.7倍に、途上国は1.3倍に、サハラ以南アフリカではマイナス42%というようにきわめて不平等に分配されている。
  MDGsそしてミレニアム宣言も、経済のグローバリゼーションを前提としての貧困対策であり、いわば対症療法と言ってよい。ところが、そのMDGsすらアメリカのボルトン国連大使は「必要なし」と横槍を入れてきたのである。したがって、9月にようやく採択された国連の「成果文書」はいっそうグローバリゼーションの色が濃くなった。
  とはいえ、2005年はアフリカなどの貧困解消という要求のもとに、グローバルなキャンペーンが展開されてきた。MDGsレベルでも、開発資金の量と質の向上、債務の帳消し、公正な貿易という3つの柱を立てて行われてきて、現時点で前2者でまったく満足できるものではないにしろ一定の成果を上げてきている。この成果は、G-CAP運動があってはじめて勝ち取られたものである。
  世界各国のG-CAPは、12月のWTO閣僚会議に向けてまたキャンペーンを強化している最中である。

注1 外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/unsokai/pdfs/050916_seika.pdf [PDF/156KB]
注2 国連広報センター