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国際人権ひろば No.63(2005年09月発行号)

国連ウオッチ

経済成長を続ける北京のビルの谷間で話し合ったアジアの人権課題 ~第13回アジア・太平洋地域における人権の伸長と保護のための地域協力ワークショップ

藤本 伸樹(ふじもと のぶき) ヒューライツ大阪研究員

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4つの柱からなるアプローチ


  国連人権高等弁務官事務所は、05年8月30日から9月2日まで中国の北京で「第13回アジア・太平洋地域における人権の伸長と保護のための地域協力ワークショップ」を開催した。このワークショップは、アジア・太平洋の人権促進と、地域的人権保障のメカニズムの構築に向けて域内諸国間の協力を進めるために、各国政府代表が情報交換や議論をする年次会合である。90年のフィリピンのマニラ会合が第1回目で、毎回開催地を替えながら開かれている。
  第13回目の今回は、日本を含む35カ国の政府代表が参加した。また、17の国内人権機関(人権委員会)、13のNGO、またユネスコやユニセフ、国連開発計画、ユニフェム(国連女性開発基金)をはじめとする国連機関がオブザーバーとして集まった。
  ワークショップに先立つ8月29日、国連機関と人権委員会、NGOによる非公式協議が行われ、近年アジア地域において新たに設立が続いている人権委員会の活動報告やNGO、国連機関の取り組みの報告とともに、翌日から始まる政府代表によるワークショップに提出する提言をまとめるために人権委員会とNGOを中心に議論も行われた。
  提起された多くの議題のなかで、ワークショップは単なる報告会に留まることなく、本来の目的に立ち返って、アジア・太平洋地域でブロックを積み上げるように段階的に地域的人権保障のイニシアチブを推進するための協力に関して話し合い、実質的に成果をもたらす中身に改善していくべきであることがとりわけ強調された。
  政府間のワークショップのテーマは毎回、(1)国内人権行動計画、(2)人権委員会、(3)人権教育、(4)発展の権利(経済的・社会的・文化的権利)、という4つの柱で構成されている。この4本柱は、98年のイランのテヘランでの第6回ワークショップにおいて、地域的技術協力のための主要な枠組みとして位置づけられたものだ。以来、毎回これらを軸に議論されていることから、今回も同様の方式で会議が進行した。
 

人身売買と闘うためのメコン地域での協力


  一方、従来とは異なる課題も導入された。ひとつが、特別課題として人身売買問題が今回はじめて取り上げられ、そのために日程も従来の3日間から4日間へと延長されたのである。同テーマでは、まず「人とくに女性と子どもの人身売買に関する国連特別報告者」のシグマ・フーダさんが基調報告を行い、人身売買は憂慮すべきグローバルな問題として台頭しているが、その予防や取り締りには、被害者の人権を中心に据えなければならないことを強調した。
  国際社会の憂慮を背景に、人身売買と闘う法整備や施策が進められていることを各国代表は交互に報告した。国境を超えた人身売買は送出国、中継国、目的地国が存在するだけに、問題解決に不可欠なのが国際協力である。そうしたなか、タイのバンコクに事務局を置く「大メコン・サブリージョンにおける人身売買に関する国連諸機関プロジェクト」(UNAIP)が主導して推進している協力体制に関する報告は特筆事項である。
  これは、2000年に始まった取り組みで、カンボジア、ミャンマー、中国、タイ、ラオス、ベトナムの各国政府、12の国連機関、8の国際NGOから構成されており、この6カ国に関わる人身売買問題に包括的に対処するために、情報交換、研修などを徐々に行ってきている。さらに、その延長として6カ国政府の閣僚クラスが協力して人身売買と闘う取り組み(COMMIT)を進めており、04年10月にミャンマーのヤンゴンで開かれた会議で覚書(MOU)が調印され、05年3月のベトナムのハノイでの会議では行動計画が採択されたのである。
  アジア地域には、地域的な人権保障のメカニズムが存在していないとはいえ、こうしたUNAIPのイニシアチブは将来の発展への布石となろう。
  また、南アジアではインドやパキスタンなど7カ国で構成する「南アジア地域協力連合」(SAARC)が2002年、「買春を目的とした女性および子どもの不正取引の防止および撲滅に関する条約」と「南アジアにおける子どもの福祉の促進のための地域協力体制に関する条約」を採択している。しかし、まだすべての国が批准していないことから、発効には至っていないが、地域的メカニズムの下地はできている。
 

ASEANでの人権保障メカニズムに向けた取り組み


  UNAIPとSAARCの取り組みが人身売買の取り締まりや被害者保護に焦点が絞られている一方、東南アジア諸国連合(ASEAN)では域内10カ国をカバーする人権保障メカニズムの構築という課題が浮上しており、きわめてゆっくりながらも議論が進んでいることがワークショップで報告された。
  93年の第26回ASEAN閣僚会議で、「ウイーンの世界人権会議の宣言と行動計画を支持し、ASEANは適当な人権保障メカニズムを構築することを考慮すべきである」という合意が行われた。しかし、それに向けたプロセスは遅々として進まなかった。そうした状況を受けて、研究者やNGO、人権委員会、一部の政府関係者が集まり非公式的な「ASEAN人権保障メカニズムのためのワーキンググループ」が設立されたのである。
  「ワーキンググループ」は毎年、閣僚会議が開催される会場に出かけていって、ロビー活動を繰り返してきた。その成果として、04年に人権に関する「ビエンチャン行動計画」が採択され、05年7月にはASEAN代表は「ワーキンググループ」に対して、その計画のなかの「女性と子どもに関する委員会」の設立や人権教育などについて設立・実施に向けた協力を要請するという大きな前進をとげたのである。
  今回のワークショップでも、人権保障のための地域協力が具体的に議論されることはあまりなく「報告会」の域を出なかったのは確かである。とはいえ、アラブ地域および太平洋地域でも多国間の人権保障の枠組みが具体的に模索されていることが明らかにされた。日本など東北アジア地域だけがその流れから遅れている。