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国際人権ひろば No.52(2003年11月発行号)

特集 日韓で議論した「人権教育交流ソウルセミナー」 Part2

前進する韓国の人権政策

前川 実 (まえがわ みのる) ヒューライツ大阪総括研究員

 ヒューライツ大阪では、8月26日から30日の間、男女共同参画社会実現をめざす日韓人権教育交流セミナーをソウルで実施したが、この間に韓国の国家人権委員会と女性部(省)を訪問し、関係者と意見交換するとともに、前進する韓国の人権政策の最新事情を取材した。

■ 国家人権委員会の訪問


 8月27日朝、今回のソウルセミナー参加者は、ヒューライツ大阪の前所長で、現在顧問である金東勲さんとともに、ソウル市役所そばにある国家人権委員会事務所を訪問した。今回のわたしたちの訪問には、チェ・ヨンエ事務総長とナ・ヨンヒ教育協力局長が応対していただき、国家人権委員会の活動の紹介と今後の予定を説明された。筆者にとっては02年5月に続く2回目の国家人権委員会訪問となったが、1年間で着実な前進を見せている姿に感銘を受けた。
 まず冒頭、チェ・ヨンエ国家人権委員会事務総長が歓迎挨拶を述べ、韓国国家人権委員会の最近の特徴的な取り組みとして雇用面や学校教育面での女性差別撤廃に向けた取り組みを紹介された。韓国社会の雇用面の課題として、非正規職員の存在があり、女性が70%近くを占めている。また教育現場の管理職のうち女性の比率がまだまだ低く、3分の1には全然満たない現状がある。これらについて、国家人権委員会として積極的に是正勧告をおこなっていることなど、政策提言活動を活発に行っている点を紹介された。
 次に、活動紹介ビデオを鑑賞した後、ナ・ヨンヒ教育協力局長からパワーポイントを活用して国家人権委員会の活動紹介がなされた。
 韓国の国家人権委員会は、01年11月に活動をスタートしたが(本誌43号・金東勲論文参照)、現在は5局、18課、1付属機関の体制で、地方事務所はないが、215名の職員を有している。5局とは、人権政策局、行政支援局、人権侵害調査局、差別調査局、教育協力局で、人権侵害調査局は主として公権力による人権侵害問題を担当し、私人間の人権侵害問題は差別調査局が担当している。年間予算は189億1900万ウォン(約19億円)で、政策提言(勧告と意見表明)、人権相談・救済、人権現況の調査・研究、人権教育・啓発、国内外協力の柱で活動を推進中。
 とくに政策提言(勧告と意見表明)は国家人権委員会機能の中核をなすもの(法19条、25条に規定)で、人権関連の法令、制度、慣行について改善勧告や意見表明を精力的におこなっている。これは国の機関だけでなく自治体に対しても、人権関連の法令・条例の制定・改定に際しての協議を求めたり、国連に提出される政府報告への意見提示なども行っている。この間の成果として紹介されたのは、9.11ニューヨーク・テロ事件のあと、政府が制定を目指したテロ防止法案に反対の意見表明、外国人労働者受け入れ制度の改善勧告、ICC(国際刑事裁判所)ローマ規程への加入勧告など、が紹介された。

■ 公権力による人権侵害を厳しくチェック


 人権相談・救済活動では、電話、郵便、面談などで03年5月末までの半年間で24,009件の相談を受理。このうち人権救済申し立て(陳情)は5,114件あり、このうち公権力に関わる人権侵害は4,051件(拘禁施設1,773、警察1,146など)、私人間の人権侵害が316件、その他が747件となっている。人権救済申し立て(陳情)は、受理された後、人権委員会による調査がなされ、合意勧告や調停、救済措置、告発、協議勧告などの措置がとられる。現在、5,114件の申し立てのうち2,985件を処理し、残りの2,129件は調査中だという。「国連パリ原則」にもとづく政府から独立した国家人権委員会は、公権力による人権侵害を厳しくチェックしている姿が浮き彫りとなった。

■ 特定職業従事者への人権教育・研修に全力


 人権教育・啓発の取り組みでは、(1)警察、検察、法執行官の教育、(2)小・中・高校の教員教育、(3)大学での人権講座開設への協議、(4)人権専門講師団の編成、に取り組んでいる。警察、検察、法執行官、教員向けの研修テキスト(イラスト入り)も数種類発行され、各職場での研修に活用されている。教員向けの研修テキストは全国の学校に配布され、また、映画やテレビ・ラジオ、マンガを活用した啓発・広報活動にも力を入れている。今後は、小・中・高校の教科書の分析も国家人権委員会独自で行い、政府(教育人的資源省)に勧告をする予定であり、「人権教育推進10年計画」の策定も政府に勧告をする予定。なお、8月末には法曹関係者、専門研究者からなる人権専門講師団の第1回会合が行われる予定で、金東勲さんも講師団の一員に選出されていることを知った。
 以上のように、結成後1年余りを経過した国家人権委員会は、期待通りの活動を推進し、韓国の人権政策の前進に大きく寄与している。04年には、地方の4都市に人権委員会事務所を開設し、人権相談・救済活動や自治体への政策提言(勧告と意見表明)、人権状況の調査・研究、人権教育・啓発、国内NGOとの対話などを強化する予定であり、また包括的な差別禁止法の制定の提言を準備するなど、今後もその動向を注目する必要がある。

■ 韓国女性部(省)の訪問


 8月29日、今回のソウル・セミナーのパートナーである韓国女性民友会の訪問の後、韓国女性部(省)を表敬訪問した。女性部(省)からはキム・テソク男女差別改善局長が出席し、女性部(省)の活動について説明を受けた。
 韓国では、95年に女性発展基本法が制定され、日本より一足早く女性差別撤廃の国内法整備が進められてきた。特に99年男女差別禁止及び救済に関する法律が制定され、雇用および社会生活における差別撤廃に向けて大きく前進してきている。