1. TOP
  2. 資料館
  3. 国際人権ひろば
  4. 国際人権ひろば No.50(2003年07月発行号)
  5. 「ユネスコ反人種主義教育国際会議」記念大阪セミナー 日本・アジア・世界から考える人権教育の課題

 
Powered by Google


国際人権ひろば Archives


国際人権ひろば No.50(2003年07月発行号)

特集・ユネスコ反人種主義教育国際会議 Part 2

「ユネスコ反人種主義教育国際会議」記念大阪セミナー 日本・アジア・世界から考える人権教育の課題

 ユネスコ反人種主義教育国際会議が6月4~5日に大阪市内で開催されたのを記念して、ヒューライツ大阪では6日午後、国際会議の参加者の一部と日本側からの専門家を講師に招いて、「日本・アジア・世界から考える人権教育の課題」をテーマに、公開セミナーを大阪市港区弁天のオーク4番街で開催した。自治体や教育、企業関係者、学生など約120名が参加した。
 これに先立つ午前10時から12時まで、ヒューライツ大阪において、国際会議の参加者数名と、関西のNGO関係者とのあいだで意見交換会を開いた。また、翌7日には、東京において反差別国際運動(IMADR)が、「国連反人種主義・差別撤廃世界会議フォローアップに関する国連関係者と日本のNGOの意見交換会」を開催した。
---------- パネリスト ----------
アリ・ムサイエ(ユネスコ・反人種主義専門官)
諸橋淳(ユネスコ・反人種主義専門官補)
武者小路公秀(中部大学教授、ヒューライツ大阪会長、IMADR副理事長)
ビティット・ムンタボーン(タイ・チュラロンコン大学教授、ヒューライツ大阪国際諮問委員)
北口末広(近畿大学教授、ヒューライツ大阪評議員)
新保真紀子(大阪府人権教育研究協議会事務局長)
コーディネイター:前川実(ヒューライツ大阪総括研究員)
(敬称略)
前川実:「ユネスコ反人種主義教育国際会議」記念大阪セミナーをはじめるにあたり、まず武者小路公秀・ヒューライツ大阪会長から、国連を軸にした人権活動のなかで、今回のユネスコによる国際会議の意義について問題提起をしていただきたい。

■ 人間の安全保障をめざして


武者小路公秀:2001年の国連反人種主義・差別撤廃世界会議、いわゆるダーバン会議は、国連人権高等弁務官事務所が事務局となり開かれたものだが、今回の会議はそのフォローアップとして、ユネスコが日本で会議を開いたのである。ユネスコはダーバン会議後、いろんなところで会議を開いてきており、そのまとめの会議が今回のものである。
 ユネスコといえば、日本ではすぐに「世界遺産」が連想されがちだが、人権分野においても大事な仕事をしてきているのである。
 これまで、我々は人権問題に関して国連システムに期待してきた。これからは、ただ期待するだけでなく、国連で人権が守られるために、国連で人権活動をしている人びとを私たちが支えていくこと。いまそういう時代にきていると思う。
 緒方貞子さんとアマルティア・センさんが共同議長を務める「国連人間の安全保障委員会」が、報告書を03年5月1日に出した。そこでの「人間の安全保障」の考え方は、人権と不可分なのである。人間の権利を大事にするということであり、なによりも平和に生きる権利である。
 もうひとつ大事なことは、人間を中心とする考え方だ。国の安全のために人民が犠牲にされることがあってはならない。とりわけ、弱い立場にある人々の安全を保障する。その安全を国が上から保障するのでなく、自分の安全を自ら保障できるといった可能性がないと、安全はないという考えである。
 人間の安全保障と人権の接点のところで考えると、ダーバン会議で取り上げられたことが、今回の会議で確認されたのである。
 その一つを紹介する。アフリカで職業と門地に基づく差別が無視されてきたということである。それは、日本の部落差別と共通の差別である。この課題で、情報や経験を共有しあって、アジアとアフリカで協力しようということが話し合われた。人間の安全を守ろうとするアジアとアフリカの当事者同士がつながる可能性が出てきた。そういう草の根からの国際的な運動をつくっていく必要があるのではないかという問題提起をしたい。

■ ユネスコの新戦略を検討する


アリ・ムサイエ:ユネスコが人権教育にどのようなアプローチをとっているかということと、人種差別に対するユネスコの新しい戦略案を紹介したい。
 ユネスコの人種差別に対する闘いは、さまざまな国々や社会、人々が相互に文化的な多様性を認め、各自のアイデンティティを認知するということを前提としている。そして、そのような社会を実現するための教育のあり方について、包括的なアプローチをとってきた。
 ダーバン会議は、人種主義について考える上で重要な契機となった。人種主義は社会に悪影響を与え、グローバル化による新しい形の差別が生じていると認識された。この被害者じしんが初めて、自分たちの言葉で話す機会をもてたのだ。そのダーバン会議が、ユネスコに対して勧告を提示した。それを実施する使命があると受け止めたユネスコでは、新しい戦略をつくろうということになった。
 新戦略をつくるために、世界各地域で協議を行い、それぞれの優先課題を設定した。そして、人種主義あるいは差別の新しい側面を学ぶための研究を行ったのである。すべての協議会で出された意見をもとにして、今後のユネスコとしての取り組みである戦略案を立てたのである。
 戦略案には、(1)人種主義と闘うための啓発、研究、教育、コミュニケーションなどの能力を高めてユネスコの行動を再構築していく、(2)国連システムにおける他の機関との連携を強める、(3)市民社会との連携を強化する、という3つの目的がある。
 戦略案の主要な柱として、取り組むべき6つの優先事項を決めた。(1)人種主義や外国人排斥に関する科学的調査を深めていく。(2)1960年の教育差別禁止条約の再活性化および人種差別撤廃条約の実施を監視するとともに、外国人排斥に対する新たな国際文書の整備に向けた研究。(3)とりわけ、人種主義に関する教科書の作成や、歴史教科書の改訂のための基準やガイドラインを設定するなど教育的アプローチを図る。(4)政策立案者、アーティスト、若者、スポーツ選手、ジャーナリスト、科学者、教員、宗教者などを活動に巻き込んでいく。(5)多民族、多文化社会における多様性を尊重する民主的市民社会を構築していく。(6)インターネットに関わる倫理憲章を策定するなど、サイバースペースでの差別煽動と闘う。
 また、各地域で優先事項案も決めている。この新戦略案は、今年9~10月のユネスコ総会に提案する計画である。

諸橋淳:(反人種主義教育国際会議の概要報告を行う。詳細は前記事参照

■ アジアにおける人権教育の実践と課題


ヴィティット・ムンタボーン:アジアにおける人権教育の展開について述べたい。私は、タイで昨年、各500人の裁判官と小中学校の教員に対して人権教育を実施した。まず、裁判官たちに「子どもの権利条約」のことを聞いたことがあるかと尋ねた。ほとんど手があがらなかった。その結果、裁判官に対する人権教育の必要性がわかった。教員に対して同様の事を尋ねたら、もっと手があがった。これは、教育省がカリキュラムに人権教育を取り入れているからである。ただ、「なぜ権利ばかりをいうのか、義務はどうなるのか」といった質問が返ってきた。
 この質問の背景のひとつは、教育省が教師の体罰を禁止したということがある。以前は、子どもたちを棒でたたくことができたけど、今は規律を別のかたちで考えなくてはならなくなった。これについて、非暴力でできないのかと話した。たとえば、子どもたちが委員会をつくり話しあって、規律の問題を考えることができるようにするというものだ。
 世界各地で「人権教育のための国連10年」に基づいた活動が展開されている。大阪をはじめとして日本では人権教育が積極的に行われている。日本以外にアジアではフィリピンやタイなどいくつかの国で、人権教育のための行動計画が策定されている。
 アジアの国における代表的な実践例として、(1)村の伝統的な仕組みやNGOを活用して人権を広めていく。(2)警察、軍隊の中で人権教育を位置付け、人権に関するテストに合格しないと、階級を上げない。(3)視聴覚教材やマルチメディアの教材を作成する。(4)生徒同士で教えあうような関係づくり。(5)人権を学校教育に組み込んだり、ラジオで人権情報を流すといったインフォーマルな教育プログラムを行う。
 一方、私たちは難問にも直面している。たとえば、教育内容に関するもの。政府が教育を国家建設のためのナショナリスティックな手段として使う場合がある。これは、人種主義、外国人排斥、不寛容にまみれている。たとえば、歴史教科書がつくられる際、意図的に過去が隠され、史実が歪曲されることがある。
 歴史を学ぶには多様な源が必要だ。歴史をどのように編纂するのか、誰が書くのか、ということが重要である。たとえば差別された先住民族などが、書きあげる歴史などである。
 人権教育において、何を教えるかだけでなく、どのように教えるかも重要だ。「子どもの権利条約」の条文を単に読むのでなく、考えることを重視した参加型でなくてはならない。

■ 日本での人権侵害への取り組みと法制度


北口末広:世界は一体という認識をもっていこうではないか。人権教育をどう進めるかは、日本の多くの人々に大きな影響を与えるとともに、その人たちが何を発信するかで、また世界へも影響を与える。そうした意味で、地域で取り組んでいる人権教育が、世界とも一体化するのである。
 現場では具体的な現実を抱えている。そして、何をなすべきかという方針は、現実から与えられるのである。つまり、方針とは現実を吸収したものだ。だから、現状分析が甘いと、方針も甘くなる。
 したがって、日本の人権教育を推進していくときに、人権侵害の現実をいかに効果的に集約するか、そこから必要な人権教育をどう展開するかが重要であると私は考えている。
 現在、日本では人権擁護法案が重要な課題となっている。人権救済、および人権相談のための機関の設立が非常に重要だと考えている。そこに具体的に集約されてくる現実が、どう解決されるかである。
 たとえば、DV防止法はたくさんの相談が寄せられてから、立法化が実現した。問題を解決するためには政策が必要だということになり、政策提言へとつながっていく。立法のための根拠が提示されるのである。したがって、具体的な問題を吸収することで、人権教育に反映させることをもっと整理していく必要があると思う。
 教育は心の問題と言われるが、社会システムの問題であると捉えてもらいたい。オスカー・シャクターという国際法の学者によると、「法システムは人の行為を変え、行為は人の態度を変え、心を変える」と説明している。つまり、仕組みと意識や感覚は一体なのである。「伝える」ことだけが教育のイメージでなく、どんな仕組みを持つかということが大事なのである。

■ 大阪の人権教育の成果と課題


新保真紀子:大阪府人権教育研究協議会は、教育委員会の支援をうけて、市内をのぞく、府内の学校の教職員、3万6千人の会員をもつ組織である。日々の活動は、教材やプログラムづくり、教員の相談、研修、研究会などである。また、ニュースレターをつくり、人権教育をすすめるヒントや提言をしている。
 設立は、1953年で、同和教育が出発点である。同和教育の始まりは部落の子どもたちの不就学である。子どもたちが学校に来なかったのは、貧困、差別が原因であった。それをなくす取り組みがやがて、部落だけでなく、ほかのきびしい状況を抱えた子どもたちの教育保障へと広がっていった。
 70年代から現在まで、部落問題を解決する同和教育という視点からさらに広くすべての子どもたちの人権保障に取り組んでいくこととなった。たとえば、在日外国人教育、障害児教育、男女共生教育へと広がった。
 これまで非常に大きな力となってきたのが、子どもたちに無償配布された人権教育に関わる読本『にんげん』であった。この『にんげん』の中では、部落だけでなく、さまざまな人権課題が取り上げられ、小学校、中学校にいたるまでそれぞれの学年に応じて、つくられている。
 80年末から、国際的な人権教育との接触が始まった。その出会いの中で、感じたのは、同和教育は世界とつながっていることであった。たとえば、被差別者の誇り、子どもたちのエンパワメントなどは、同和教育の中で大事にしてきたことである。参加型学習も被差別部落の高齢者、親から聞き取りをして、それを劇にして訴えていく、そういう取り組みをしてきた。参加型学習もいろんな国で行われているのだということがわかった。
 「人権教育のための国連10年」の取り組みが進む中で、国際人権との接触はいっそう深まった。知識偏重の教育の中で、子どもだけでなく教員も態度やスキルを身につけることが非常に重要だと問題提起されてきた。そういったものをふくめて、教材づくりに励んできた。
 日本の子どもたちには深刻な課題がある。いじめ、不登校、体罰、虐待などだ。こういった問題の背景には、子どもの自尊感情の低さがある。教育の中身が子どもたちの興味をひきつけていない。人間関係づくりが苦手な子どもが多い。学級崩壊や学校の中でおこる差別事象がある。同和教育のノウハウや理念で、ここの部分で何らかの答え、やり方を提案している最中である。
 私の勤務する中学校でも、部落差別に関する落書きが発見された。子どもたちは悔し涙を流し、何日も学級討論をした。でも、子どもたちは負けないで、支えあいながら、部落外の子どもたちも含めて、いっしょにがんばろうよと、いろんな行動に移した。そのひとつとして、差別を跳ね返すための歌をつくったことだ。人権文化とはこうして芽生えていくのかと思う。

前川:グローバルな課題を大阪の課題とどう結びつけるのか。ユネスコの新しい戦略を受けとめて、どう活用したらいいか。きょうのシンポジウムの総括をお願いしたい。

北口:人権とは、自己人生コントロール権と私は考えている。それをサポートするためには、どういうことが必要なのか。自己実現の阻害要因は何なのか。それらを考えることから出発していくことが必要である。
 時とともに課題も変化していることから、人権教育を推進する機関は進化しなくてはならない。たとえば、遺伝子をめぐる科学技術の進歩に伴う人権の課題が重要になってきている。したがって、「進化する人権教育機関」をつくっていく必要がある。
 さらに、人権教材やカリキュラムの作成を推進する体制をつくる。とりわけ、人権教育の指導者が学べる教材およびカリキュラムがますます求められている。それらを創造する体制をつくらないと、日本で人権教育は定着しないのではなかろうか。
 それらに加えて、ネットワークを広げつつユネスコを活用することだ。

前川:ユネスコの活用とあわせて、ユネスコとのネットワークづくりについてひとこと意見をお願いしたい。

諸橋:ユネスコでは反人種主義・反差別をめざす世界の都市連合の組織化を図っていきたい。リオデジャネイロ、ニュルンベルグ、バルセロナなど人種主義と熱心に闘う都市に連携をとってもらいたいと考えている。差別という問題は市民生活の中で起こっていることから、自治体や学校、教育機関、NGOなどと連携して新しいネットワークを築き、ユネスコがカバーできない問題をいっしょにやっていただきたいという計画である。この計画が具体化すれば、人権教育に積極的に取り組んでいる大阪にはぜひ参加していただきたい。

ムンタボーン:アジア・太平洋地域において、国連の原則に基づき政府から独立して人権救済などを担う国内人権機関のネットワークが広がりつつある。フィリピンやインドネシア、タイ、マレーシアなど現在12カ国の人権委員会が加盟する「アジア・太平洋国内人権機関フォーラム」というネットワークである。
 人権委員会設立に向けた法律の議論が行われている日本に対して、実効性のある人権委員会を設立し、このフォーラムに入るよう世界は期待しているのではなかろうか。
(構成:藤本伸樹、李姫子)

To the page top