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国際人権ひろば No.128(2016年07月発行号)

ニュース・イン・ブリーフ

ヘイトスピーチ解消法と国際社会・市民社会の眼

 

 2016年5月24日、いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」が成立した。「ヘイトスピーチはいけない」ことを明確に示した法律として歓迎される一方、実効性に欠けるなどの批判もある。ここに至るまで、国連は繰り返し人種差別とヘイトスピーチへの適切な措置を日本政府に求めてきた。ヘイトスピーチへの対処として被害者相談サービスと人権教育を中心に据えたこの法律は国際社会の声にこたえるものとなったのか?この間の国連条約機関の日本審査の内容を時系列でみてみる。

 <以下、 ◎=条約委員会の懸念  ◇= 条約委員会の勧告  △=背景説明>

 

  2010年2月 人種差別撤廃委員会総括所見パラ12

人種差別の煽動の禁止と表現の自由の保障は両立する

 ◎ 2009年12月に起きた京都朝鮮学校への襲撃事件およびインターネット上で蔓延する被差別部落に対する有害な差別表現に懸念を表明。

 ◇ 第4条のもと差別が完全に禁止されるよう国内法を整えることを勧告。

 △ 条約第4条は(a)人種優越思想の流布や人種差別・憎悪の扇動を犯罪と定め、(b)そうした活動や団体を禁止し、(c)国または自治体当局による人種差別の助長を認めないと規定している。日本は条約加入時より(a)(b)を留保したままであり、(c)も十分実施されていない。

 

2013年5月 社会権規約委員会総括所見パラ26

「慰安婦」被害女性へのヘイトスピーチに人権教育を

◎  「慰安婦」が被った搾取が彼女たちの経済的、社会的及び文化的権利の享有や補償の権利にもたらす長期的で否定的な影響に懸念を表明。

 ◇ 女性たちをおとしめるヘイトスピーチやその他の示威運動を防止するために、「慰安婦」が被った搾取について市民を教育するよう勧告。

 △ 背景には、「慰安婦」被害女性に対する正式謝罪や補償がなされないまま、「慰安婦」に対するヘイトスピーチが路上やインターネット上で氾濫していることへの懸念があった。この勧告に対して安倍内閣は「国連勧告に従う義務なし」という閣議決定を行い、勧告軽視であると市民社会は激しく反発した。

 

  2014年7月 自由権規約委員会総括所見パラ12

差別や憎悪の煽動は守られるべき表現の自由ではない

◎ マイノリティに対する憎悪や差別を煽り立てる人種差別的言動の広がりと、こうした行為に十分な法的措置がとられていないことに懸念を表明。警察の許可を得て行われる過激なデモの数の多さやマイノリティに対する嫌がらせや暴力についても懸念を表明。

◇ 人種的優越や憎悪を唱えるプロパガンダを禁止し、それを広めるデモも禁止すべき。裁判官、検察官、警察官が人種差別に基づく犯罪を発見するよう研修を行うべき。人種差別的攻撃を防止し、容疑者を捜査・起訴し、有罪の場合には適切な処罰がなされるようにすべき。

△  同じく委員会は日本に包括的な差別禁止法を作るよう勧告。「表現の自由」との兼ね合いを理由にヘイトスピーチの規制が本格的に議論されていないなか、悪質なヘイトスピーチは刑事処罰するよう勧告がなされた。

 

2014年8月 人種差別撤廃委員会総括所見パラ11

警察に守られて行われる人種差別扇動のデモとヘイトスピーチに衝撃

◎ 外国人やマイノリティ、とりわけ韓国・朝鮮人に対して、人種差別的デモ・集会を行う団体によるヘイトスピーチが広がっていることに懸念。

◇ 人種差別的暴力や憎悪の煽動に毅然と臨み、インターネットを含むメディアにおけるヘイトスピーチに適切な措置をとり、それらを行う個人あるいは団体を捜査し必要に応じて起訴するよう勧告。ヘイトスピーチを行った公人や政治家に適切な制裁措置も検討するよう勧告。

△ 2010年に続き、政府は「日本には法律で対処しなければならないほどの深刻な人種差別はない」と答えた。ここでも、条約の国内実施につながる人種差別禁止法の制定が強く促され、ヘイトスピーチは守られるべき表現の自由ではないと言明された。

 

2016年2月 女性差別撤廃委員会総括所見パラ21

女性差別とマイノリティに対する差別が複層したヘイトスピーチに警告

◎ 性差別者の発言が在日コリアンなどのマイノリティ女性に引き続き向けられていることに懸念。

◇ マイノリティ女性に対する攻撃を含み、人種的優位や憎悪を唱える性差別的スピーチや宣伝を禁止して処罰する法律の制定を勧告。

△ ネットおよび路上であふれる「慰安婦」被害女性に対する暴言や在日コリアン女性へのあからさまなヘイトスピーチに対して委員会は厳しい姿勢を示した。

 

 こうして見てみると、成立したヘイトスピーチ解消法は国連勧告を十分反映しているとは言えないが、最初の一歩と捉えることができる。今後はこれが生きた法律として有効的に活用され発展していくことが望まれる。事実、施行直後の6月5日に川崎区で予告されたヘイトデモに対して地域住民の声にこたえる形で、この法律の理念を根拠にしながら、裁判所および市当局は、在日コリアン集住地域での実施を禁止し、公園利用を認めないなどの厳しい措置をとった。市民社会の監視の眼が求められる。

 構成:小森 恵


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