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国際人権ひろば No.128(2016年07月発行号)

じんけん玉手箱

ヘイトスピーチ解消のための法律を歓迎しつつ、「実効性」を考える

阿久澤 麻理子(あくざわ まりこ)
ヒューライツ大阪所長代理

 6月3日、特定の人種や民族を地域社会から排斥することを扇動する、ヘイトスピーチの解消のための法律、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」が施行されました。本法はその前文で、ヘイトスピーチが、在日外国人、外国にルーツを持つ人びとに「多大な苦痛を強い」、「地域社会に深刻な亀裂を生じさせて」きたことを認め、また、「不当な差別的言動は許されない」ことを宣言しました。ヘイトに屈することなく声をあげ、法の制定を求めて運動してきたマイノリティの当事者、そして運動に連帯する市民の声が、法の理念に反映されました。

 

 ただし、この法律が保護の対象としているのは「適法に居住する日本以外の国・地域の出身者」だけにとどまります注。また、この法律にはヘイトスピーチの「禁止条項」もありません。

 法の施行にあわせて、警察庁は各都道府県警に、ヘイトスピーチに伴う違法行為に対して厳しく対処するよう通達しましたが、それでも禁止規定がない限り、ヘイトスピーチそのものを取り締まることはできません。不当な差別的言動の解消手段は、あくまで「相談体制の整備」と「更なる人権教育と人権啓発」を通じて国民の理解と協力を得ることだと記されています。深刻な人権問題の解決にとって、意識・態度の変革が重要だということは言うまでもありません。しかし、「教育・啓発をしている」ことが、ヘイトスピーチの解消や、被害者の実効的な救済ができないことの言い訳にされてはならないでしょう。

 また、具体的な施策を実施するための、財政措置もありません。ヘイトの解消に「実効性」ある法とは何かを考え、さらにもう一歩を踏み出すことが、今後の課題です。

 

 ところで、この法律の付帯決議には、インターネットを通じて行われる、不当な差別的言動を助長したり、誘発する行為についても、解消に向けた施策を実施することが盛り込まれました。しかしながら、差別を扇動するサイトの規制は、もとのサイトが削除されてもミラー・サイトが規制の及ばない国に置かれたりと、現行法では対応の難しい領域の一つです。

 この法律が施行される直前のことですが、ヨーロッパでは、5月31日、欧州委員会(European Commission)と、フェイスブック、ツイッター、マイクロソフト、グーグル(You Tubeを運営)の各社が、インターネット上でのヘイトスピーチの拡散を防ぐための行動規範に合意しました。ヘイトとの通報を受けた書き込みを24時間以内に確認し、必要なら速やかに削除したり、アクセス遮断措置をとると発表されました。ヘイトに抗する積極的な企業の取り組みが注目されるところです。また、各社とも、こうしたサイトをモニターする市民団体との連携を進めるとしています。

 ヘイトに抗する、「実効性」ある取り組みが、多様な主体によって、多様な方法で進めらることを日本でも大いに期待しています。そして私自身そこに積極的に参加していきたいと思います。

 

 

注: 国会の審議の過程では、オーバーステイの人びとや、アイヌ民族などに対するヘイトスピーチが対象外になってしまうことが指摘されました。そのため付帯決議に、憲法や人種差別撤廃条約の精神にかんがみた、適切な対処が盛り込まれるに至りました。



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