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国際人権ひろば No.127(2016年05月発行号)

国連ウォッチ 女性差別撤廃条約日本審査

在日コリアン女性からみた女性差別撤廃委員会日本審査と勧告 -ジュネーブで得たエンパワメント

朴 君愛(ぱく くね)
ヒューライツ大阪

 マイノリティ女性たちが直接審査の場へ

 

 国連欧州本部(スイス・ジュネーブ)で開かれた63会期女性差別撤廃委員会(2016年2月14日~3月4日)中の日本審査の場に臨む機会を得た。審査の結果をまとめた委員会の「総括所見」は3月7日に公表された。日本の報道を見る限り、マイノリティ女性に関わってはほとんど紹介されていない。しかし今回は、在日コリアン、部落、アイヌ、障害者、移住者そして性的マイノリティなど、前回にもましてさまざまなマイノリティが現地に行って訴えた。そして総括所見の勧告ではマイノリティ女性に関する内容が数多く盛り込まれた。

 ヒューライツ大阪は、国連審査に向けて、マイノリティ女性に焦点を絞り、情報提供や当事者へのサポートに取り組んだ。社会の関心を高めるために、関西を中心に、部落、在日コリアン、障害者の女性グループとネットワーク作りをすすめ、2015年11月28日に開催したシンポジウムは、参加者たちがジュネーブに行くメンバーを励ます場となった。

 以下、ヒューライツ大阪の職員として、また在日コリアン女性の当事者としてジュネーブで日本審査に臨んだ背景と思いを簡単に伝える。

 

 「可視化」されない在日コリアン女性の実態

 

 委員会の勧告の中に在日コリアンという固有名詞が出たのは前回2009年からである。2009年の審査では、委員会は「アイヌ先住民族、被差別部落の人びと、在日コリアン、沖縄女性を含むマイノリティ女性の現状に関する包括的な調査を実施するよう」求めたのだが、日本政府は誠実に対応せず、依然、在日コリアン女性の実態がわかる公的資料は皆無といってよい。一方、日本社会ではヘイト・スピーチの激化など在日コリアンに対する排除や差別意識が強まっているなど状況は悪くなっている。こうした懸念を抱きながら「次は何年後?当事者として声を届けるなら今や」と決心し、「アプロ・未来を創造する在日コリアン女性ネットワーク」(「アプロ」は、朝鮮半島の言葉で「前へ」「これからへ」の意味)の3人がジュネーブに行くことにした(前回は1人)。国連の人権システム活用には経験不足であったが、JNNC(女性差別撤廃条約NGOネットワーク)や反差別国際運動(IMADR)、そしてヒューライツ大阪が私たちをサポートしてくれた。委員会へ提出するNGOレポートを作成するため、アプロのメンバーで現状について議論した。在日コリアンのニーズに基づく人権政策がない、前提となる実態把握ができていない、数世代にわたる「外国籍」住民として政治の意思決定に参加できないなど、「無いないづくし」であることを再確認した。

 

 ロビー活動、情報提供、そして審査傍聴

 

 審査前日の15日には国連主催のNGOブリーフィングが開催されたが、ごく短時間のものであった。一方、私たちはJNNC主催のNGOブリーフィングや審査前後の委員への個別のロビー活動にエネルギーを注いだ。しかし、どの委員がマイノリティに関心があるのか、専門分野は何なのか、情報を得ても覚えられない。先輩格のNGOを見よう見まねで体当たりのロビー活動をした。私は在日コリアン女性に関する資料を渡しながら、「マイノリティ」という一般的な呼称ではなく、旧植民地出身で日本国籍を持たない住民である私たちを、「在日コリアン」という固有名詞で理解してほしいと伝えた。アイヌ女性、部落女性、初めて女性差別撤廃委員会に来たという障害女性や性的マイノリティのグループも、それぞれの現状を説明するためロビー活動を活発に行っていた。それはそのままマイノリティ女性たちが連携しお互いをエンパワーした活動になったといえる。いよいよ審査が始まるとNGOは傍聴するのみである。一日かけた委員と日本政府のやりとりの中で、委員から在日コリアンという言葉を含め10数回に及ぶマイノリティに関する発言が出てきて、その夜は働きかけた甲斐があったと安堵した。それに対する日本政府の応答に歓迎できるものはなかった。そして、質問が多くなされたからといって、それが総括所見にどう反映されるかは別の話である。日本審査を終え日本に戻ってから祈る気持ちで総括所見を待った。

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委員へのロビー活動

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日本から参加したNGOのメンバー

 

 予想をはるかに超える勧告が出る

 

 3月7日に公表された総括所見には、前回審査の総括所見の繰り返しとなる懸念事項と勧告が少なからずあった。在日コリアンを含むマイノリティ女性の問題に言及した勧告の多さは、予想を超えるものであった。まず勧告は、「さまざまなマイノリティ・グループに属する女性に対する複合的・交差的差別を含む包括的な差別禁止法の制定」を求めている。さらに特定的に「在日コリアン」と言及した勧告を見てみると、「ステレオタイプと有害な慣習」「政治的および公的活動への参加」「教育」「雇用」「不利な状況にある女性のグループ」などの分野にわたって改善措置が求められている。ジュネーブまで出かけて訴えた当事者として再び安堵し、また自分たちは当然の主張をしたのだとエンパワーされた。一例を挙げると、ヘイト・スピーチの現状に関わって、パラ21(d)で、アイヌ、部落、在日コリアンおよび移住女性を被害の対象として特定的に言及しながら、性差別とマイノリティ差別が複合的に絡み合って行われる性差別的スピーチに関して、それを禁止して処罰する法律の制定を求める勧告が出た。

 さらに委員会は、特段の監視が必要な事項として多数ある勧告の中から3項目を選び、2年以内にフォローアップ情報を提出するよう政府に求めた。一つは、民法の改正(婚姻可能な年齢の男女差の廃止、夫婦別姓の選択制の導入、女性のみの再婚禁止期間の廃止)であり、あとの二つは、先述のパラ21(d)と、マイノリティ女性に対する固定観念や偏見をなくすための措置をとり、独立した専門機関によりその措置の実施について定期的にモニターするよう求めたパラ21(e)であった。ここにマイノリティ女性についての課題が含まれたことも大きな成果ととらえている。

 もちろん、解決すべき課題があるからこそ勧告が出されるわけで、勧告が多いこと自体は実は問題である。しかし、マイノリティ女性は問題としてさえ「可視化」されなかったことを考えると、私たちにはかなり大きな一歩前進である。

 私たちも含め、JNNC全体で80人近い関係者がジュネーブに行ったが、条約の仕組みを知っているマイノリティ当事者は一握りであり、ジュネーブまで行ける条件のある人はさらに限られる。こうした勧告を在日コリアンを含めたマイノリティ女性の人権のためにどう活用できるのか、私たちが提案していかなければいけない。

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審査の模様

ぱくさん_4 すべて終わって.jpg

すべて終わって

 

注:総括所見の全訳はJNNCのウェブサイトで閲覧できる。http://www.jaiwr.org/jnnc/2016soukatsujnnc.pdf



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