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国際人権ひろば No.126(2016年03月発行号)

特集 グローバルな視野からみるビジネスと人権

子どもの権利とビジネス原則 -企業による子どもの権利の尊重・推進と市民社会の役割-

森本 美紀(もりもと みき)
公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)

子どもの権利とビジネスの国際的な枠組み

 

 「子どもとビジネス」で連想することはなんだろうか。日本は少子化の道を辿るが、その一方、70億人を超える世界人口のうち、約3分の1は18歳未満の子どもであり、10歳から24歳の若者人口も人類史上かつてないほど大きな割合を占めている。子どもは、現在と未来の消費者であり、若年労働者であり、従業員の家族であり、そして未来の従業員でもある。

 2009年に国連グローバル・コンパクトの人権、労働、環境、腐敗防止に関する10原則に加え、子どもとビジネスの関わりについて10か国600を超える企業、政府、市民社会による世界的な議論が開始され、2012年に国連グローバル・コンパクト、国連児童基金(ユニセフ)、セーブ・ザ・チルドレンの3者は、企業のバリューチェーンにおける子どもへの影響を、10の原則から成る「子どもの権利とビジネス原則」にまとめた。策定プロセスでは、子どもの声を聞くことにも重きが置かれ、9か国400人の子どもたちとの対話の機会が設けられた。原則は、児童労働撤廃、働く親・若年労働者の働きがいのある人間らしい仕事、子どもにとっての製品・サービスの安全性、マーケティング・広告の子どもへの影響、環境破壊や土地収奪による子どもへの影響など、子どもを取り巻く課題を「職場、市場、コミュニティ・環境」の3分野にまとめている。

 

< 子どもの権利とビジネス原則 >

職場
原則1
子どもの権利を尊重する責任を果たし、子どもの権利の推進にコミットする
原則2
すべての企業活動および取引関係において、児童労働の撤廃に寄与する
原則3
若年労働者、子どもの親や世話をする人々に働きがいのある人間らしい仕事を提供する
原則4
すべての企業活動および施設等において、子どもの保護と安全を確保する
市場
原則5
製品とサービスの安全性を確保し、それらを通じて子どもの権利を推進するよう努める
原則6
子どもの権利を尊重し、推進するようなマーケティングや広告活動を行う
地域社会と環境
原則7
環境との関係および土地の取得・利用において、子どもの権利を尊重し、推進する
原則8
安全対策において、子どもの権利を尊重し、推進する
原則9
緊急事態により影響を受けた子どもの保護を支援する
原則10
子どもの権利の保護と実現に向けた地域社会や政府の取り組みを補強する

出典:「子どもの権利とビジネス原則」
http://www.savechildren.or.jp/partnership/crbp/pdf/principles_01.pdf


 子どもの権利とビジネス原則は、世界で最も多くの国が批准する人権条約である国連子どもの権利条約をはじめ、国際労働機関(ILO)第138号条約(最低年齢)および第182号条約(最悪の形態の児童労働)、国連ビジネスと人権に関する指導原則、そして国連グローバル・コンパクト原則の要素を取り入れ、策定された。よって、内容は真新しいものではないが、子どもとビジネスの関係性をより包括的にまとめた国際的な枠組みとして画期的なものといえる。

 

 市民社会が子どもと企業の橋わたし役を果たす

 

 人権保障は国家が果たすべき義務であるが、1990年代を境に労働問題や環境分野において市民社会は、企業も人権を尊重する責任があると訴えるようになった。 移民や外国人を含む若年労働者、働く親の低賃金労働や劣悪な労働環境というのは、途上国だけでなく日本や欧米諸国などの先進国も直面するグローバルな課題である。2011年には「ビジネスと人権に関する指導原則」が国連人権理事会で承認されたが、グローバル社会における人権問題に対する国家の義務、そして企業に人権を尊重する責任があると明確に提示された。2014年の国連ビジネスと人権フォーラムにおいては、当時の議長であったモー・イブラヒム博士が「市民社会は、国家と企業が行動計画を出すために支援する必要がある」と述べている。セーブ・ザ・チルドレンは、子どもの権利とビジネス原則が策定された翌2013年、市民社会が果たすべき役割を次のようにまとめている。

 

< 市民社会が果たすべき4つの役割 >

1.Guide
(導く)
市民社会は、
  • ・ 企業が子どもの権利を尊重するために適切な方針へのコミットを促す
  • ・ コミュニティと連携し、子どもにかかわる課題を企業に周知する
  • ・ 企業が子どもの権利を尊重するために、実践とあるべき姿のギャップを明確化するよう支援する
2. Monitor
(確認・監視する)
市民社会は、
  • ・ 子どもの権利に関わる企業の方針の実施状況とそのプロセスの検証を行う
  • ・ 企業の人権デューディリジェンスの一部として子どもに聞き取りを実施する
  • ・ 子どもへの影響に対する企業の評価プロセスの策定を支援する
3. Enforce
(施行する)
市民社会は、
  • ・ 企業の苦情申し立てメカニズムが子どもにも活用しやすくなるよう企業を支援す
  • ・ 企業による子どもの権利の侵害を明らかにし、企業の責任を追及する
  • ・ 人権侵害に対する倫理的で適切な措置を探求する
  • ・ 合意した措置が確実に実施されていることを確認する
4. Advance
(促進する)
市民社会は、
  • ・ 子ども、その家族、コミュニティと企業の対話を促進し、企業が子どもの権利を推進する機会を模索する
  • ・ 企業の従業員や管理職員に対して子どもの権利について周知し、推進を促す
  • ・ 市民社会のネットワークを強化し、企業への影響力を高める

出典:Save the Children(2013)“How to Use the Children’s Rights and Business Principle: A Guide for Civil Society Organizations”(英語)
http://resourcecentre.savethechildren.se/sites/default/files/documents/crbp-guide_final_cs5_ny_2.pdf

 

 特に子どもにかかわる人権侵害リスクの軽減は、企業の一般的な人権のデューディリジェンスでは対処できないため、例えば、リスク分析のチェックリストや企業の行動規範にも子どもの権利に関するチェック項目が必要となる。セーブ・ザ・チルドレンは、企業がバリューチェーンにおいて子どもの権利を尊重・推進できるようサポートを続けてきた。ここで、いくつか事例を紹介する。

 

 イケアも児童労働防止にコミット

 

 スウェーデン創業の家具チェーン店「イケア」は、1990年代初等に生産工場で児童労働の存在が報道されたことをきっかけに、セーブ・ザ・チルドレンと連携し、児童労働の防止に関するイケアの行動規範を含む「IWAY Standard」を策定した。世界的な商品販売を通じた子どもの教育支援もセーブ・ザ・チルドレンやユニセフと連携して積極的に行っており、危機をチャンスに変えた先行事例であるといえる。

 一方で、多くの企業はサプライヤーに対し行動規範を定めていても、サプライチェーンの上流になるほど施策が浸透しない、方針や現状の変化に影響を及ぼせない、またはモニタリングができないという課題に悩まされる。そうした現場の課題解決に向けて、次のような企業と市民社会の新しい取り組みがある。

 

 中国で多国籍企業向けにコンサル業務も

 

 セーブ・ザ・チルドレン・スウェーデンが中国に設立した社会的企業“Centre for Child Rights and Corporate Social Responsibility”(略称CCRCSR)は、多国籍企業を対象に子どもの権利の視点からCSRに関するコンサルタント業務を行っている。CCRCSRは中国・広東省において、ウォルト・ディズニー・カンパニー他多国籍企業6社と連携し、サプライチェーンの適正評価と実施、そしてモニタリングを担う「サービス・プロバイダー」として現地NGOや地域労働団体の能力強化を行っている。

 児童労働の予防・是正、若年労働者、移民労働者、そして中国特有の課題に継続的に対処するために、2年間で1万人の労働者や管理者へ研修を実施する予定だ。

 近年、ビジネスと人権への意識は高まり、多様な基準や原則により企業の果たすべき責任が明確化されつつあるが、実施面では未だ多くの課題が残る。市民社会は、企業が子どもの権利の尊重と推進を適切に行うためのパートナーとして、子どもの権利に関わる様々な課題やリスクに対する感度や知見を高め、企業と共に取り組む必要がある。