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国際人権ひろば No.78(2008年03月発行号)

特集・世界の人権教育のいま Part 1

2年間延長された「人権教育世界プログラム」(第一段階)への期待

藤井 一成(ふじい かずなり) 創価学会インタナショナル国連代表(ジュネーブ)

「世界プログラム」の基本的理解


 2005年1月より「人権教育世界プログラム」が開始されてから3年が過ぎた。その第一段階(2005-2007年)の終了に先立って、ジュネーブで開催された2007年9月の国連人権理事会第6会期第一部において、第一段階を2年間延長して2009年末までとする決定決議が採択された。延長理由の解説の前に、まず、世界プログラムそのものについて再確認しておきたい。
 世界プログラムの基本構造は、指定される特定分野に焦点を当てる2~3年の期間を「段階」と呼び、「段階」ごとに異なる分野に焦点を当てつつ、「段階」ごとに行動計画を策定・実施していく構造となっている。
 2005年から開始された「第一段階」は、「初等中等教育学校制度における人権教育」に焦点を当てることとされたのである。このプログラム構造の目的は、この特定分野に絞ることによって、より具体的な行動計画と実施結果の評価を図り、効果的人権教育を継続実施していくことにある。目標設定と評価において具体性に乏しかった「人権教育のための国連10年(1995?2004年)」を継続する「プログラム」となった所以でもある。
 「世界プログラム」の「行動計画」は、人権教育について、「知識およびスキルの伝達ならびに態度の形成を通じて普遍的な人権文化を構築することを目的とした教育、研修および広報」を提唱しており、単なる「知識伝達」のみでなく、「人権およびその保護のための仕組みについて学習し、かつそれらを日常生活の中で適用するスキルを身につけ」、「人権を支える価値観を発達させ、かつそのような態度および行動を強化」し、「人権を擁護および促進するための行動」[1]と説明する。そして、「国内行動計画」の策定を予定(各国に期待)している。
 これは、実践面で具体的かつ効果的な実施を行うには、国ごとに多様な、人権問題の特徴、法社会制度、経済事情、文化・伝統的要素などを考慮せざるを得ないからである。世界共通の国際「行動計画」は、いわば「国際ガイドライン」たる性格が強く、それを国内レベルに適用するには限界があろう。世界プログラムを「骨格」と例えると、まさにこの「国内行動計画」とその実践が、人権教育の「血肉」である。「人権教育世界プログラム」は、前身の「国連10年」に比べ、「骨格」部分が、より強化・具体化されたといえる。

多くの国々に共通する課題


 これまで筆者自身が参加・関与したいくつかの国際地域会議[2]や国連などにおける学校教育に焦点を当てる人権教育に関する国際討議を振り返ってみると、多数の国々に共通する課題が浮かび上がってくる。
 第一に、人権教育を学校教育に取り組むことに関する疑問や課題がある。「子どもたちへの義務や責任感の教育はどうなるのか」、「教える側の人権知識が乏しい」、「人権団体と連携することに抵抗を感じる」、「教材がない」、「学校教育制度に修正を加えるには長い時間がかかる」などが聞かれる。第二に、「評価指標の困難性」がある。人権教育の実施結果について、どのように何が「改善」したと評価できるのか、といった点である。第三に、「言語」の壁がある。「世界プログラム」情報が国連公用語に偏りがちなため、伝達・広報・通信が難しいといった困難に加え、国によっては複数の国内言語の課題もある。第四に、人権教育実施の「資金」が不十分との問題もある。他にも挙げられようが、これだけでも、日本国内にも当てはまるものがあるのではなかろうか。
 ひとつの回答と思える点も含め、おおよそ次のような取り組み姿勢が望まれよう。世界プログラムの第一段階の対象は、子どもだけでなく、教育機関・制度に関わるすべての大人も含まれ、教員を対象とする人権セミナーも国内行動計画のひとつになりうる。
 また、子どもに対する人権教育は、「自己の権利」のみを教えることではない。「他者の人権を尊重すること」も教えてはじめて人権教育となる。むしろ他者の人権を教えることの方が重要となる場合さえあり、人権教育は、権利と義務の両方を内包する、という基本認識をまず持たねばならないだろう。人権団体については、国によって、「反体制」、「政治運動」との偏見でみられ、教育関係者が敬遠したがる場合もある。人権団体自らの信頼性確立が必要である一方、何よりも、学校教育関係者自身の能動的な人権意識の自己改革が必要であり、その手助けが重要である。
 「教材」に関しては、国連出版も含め、すでに多くの教材が国際社会に誕生している。一例として、欧州評議会が学校教育での活用を推進するマニュアル本として高く評価されている『Compass(羅針盤)』は、日本語[3]も含む33言語に翻訳されている。「国内行動計画」の策定については、地方自治体レベルでも可能であろう。骨子がすでに網羅されている世界プログラムの第一段階の行動計画を、日本であれば日本国内版として具体的にまとめることである。政府、地方自治体、市民団体などの関係者によるイニシアチブが期待される。「評価指標」については、例えば、「登校拒否」の多い地域であれば、その統計をとることもひとつであろうし、行動計画の内容と関係付けられる「アンケート」を、学校の生徒対象に事前と事後に実施・比較することも一案であろう。いじめ問題に関する質問も含められよう。もちろん、行動計画によって実施されはじめた新たな教育内容や活動の存在自体も評価の対象となることはいうまでもない。
 資金問題は、発展途上国や、草の根レベルの市民団体にとっては大きな課題である。日本国内で資金が問題となるのであれば、突き詰めるところ、地域・社会一般の人権意識そのもの、あるいは政府の政治的意思の欠如も大きな要因となっているのでは、と思えてならない。意識ある人々による対応や運動の検討も必要となろう。

「第一段階」の延長


 国連人権理事会に、第一段階の延長決議案を提出したのは、コスタリカであったが、決議案に関する事前政府間協議で、他の政府代表も、延長決定には納得できる妥当性と必然性があると理解していた。
 しかし第一に、「世界プログラムの行動計画採択と実施開始の遅延」がある。第一段階の「行動計画最終草案」は、2004年9月には準備されていたのだが、国連総会が最終的に採択したのが2005年7月であり、行動計画の定める「国連諸機関調整委員会」の設置とその第一回会合も、2006年9月となってしまった。
 第二に、「広報・情報周知の期間の不足」がある。「人権教育世界プログラム」は、世界共通の「新しい」プログラムである。しかし、国連総会決議による世界プログラムの宣言、すなわち「発表」が2004年12月10日で、直後の2005年1月1日が履行開始の日とされたものの、上述の「行動計画」採択の遅延も重なり、2006年中頃になっても、多くの国々で、世界プログラムがよく認知されていなかったのである。
 第三に、「初等中等教育に関する学校制度の調整に必要な時間的配慮」が指摘できる。学校教育制度に関する政策は、自治体レベルの慎重な行政上の調整と同時に、国内法制度の調整さえ必要となる場合もあり時間がかかる。さらに、2006年から2007年にかけては、国連「人権委員会」から「人権理事会」への改編時期であり、人権理事会は、2008年から直ちに開始できるような世界プログラム「第二段階」を準備できる状態ではなかった。
 これらの諸要因が浮き彫りとなった2006年末頃より、第一段階延長は合理的かつ必要である、との合意が次第に形成されていったのである。
 第一段階の2009年までの延長期間を無駄にすることなく、各国で真剣な取り組みが行われるよう強く願って止まない。

1. 国連文書「人権教育世界プログラム」第一段階「行動計画」第3段落・第4段落 A/59/525 Rev.1 (2 March 2005) Revised draft Plan of action for the first phase of the world programme for human rights education, paras.3-4.
2. 例えば、「アジア市民社会フォーラム2004」でのワークショップAsian Civil Society Forum 2004, 21-25 November 2004, Bangkok, Thailand, organised by the Conference of NGOs in Consultative Relationship with the UN;米州地域「人権教育における指標と評価」会議Conferencia Rendicion De Cuentas Y Evaluacion En Educacion En Derechos Humanos, 8-10 November 2004, Santiago, Chile, organized by UNESCO Chair on Human Rights Education in Chile;北西ロシア・北欧「人権教育国際会議」International Conference on Human Rights Education, 27-28 March 2007, Murmansk, Russia, organised by Norwegian Helsinki Committee;欧州評議会「人権教育世界プログラム欧州地域会合」Regional European Meeting on the World Programme for Human Rights Education, Strasbourg, France, 5-6 November 2007, organized by Council of Europe など。
3. ヨーロッパ評議会『人権教育のためのコンパス「羅針盤」-学校教育・生涯学習で使える総合マニュアル』福田弘翻訳(明石書店、2006年12月)。原版は、 Council of Europe,"COMPASS - A Manual on Human Rights Education with Young People"(2nd edition, 2003).

<編集注>
「世界プログラム」(第一段階)行動計画の日本語訳は、ヒューライツ大阪のウェブサイトに掲載しています。
https://www.hurights.or.jp/archives/promotion-of-education/-1-20052007.html