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企業に対して法的拘束力を持つ条約案検討のための公開政府間作業部会第1回会合(2015年6月)

 正式名を翻訳すると「人権尊重に関して国境を超えて事業を展開する企業及びその他の企業に対して法的拘束力を持った文書の検討をするための広く開かれた政府間作業部会」となります。

 「企業と人権」に関して、国連人権理事会は、その第26会期(2014年6月)で、国連加盟国、国際機関、NGOなどの代表に開かれた政府間作業部会を設けて、そこで、企業に対して国際人権法の下で拘束力を持った国際的文書(条約)の検討をすることを決めました(人権理事会決議26/9、2014年6月26日採択)。この政府間作業部会の第1回会合が、2015年6月6~10日にジュネーブで開かれました。

 2014年の人権理事会でこの作業部会設置のための決議案が出されたとき、反対あるいはその法執行可能性に対する疑問や懸念の声が上がりました。その理由は、2011年6月に圧倒的な支持を得て人権理事会で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」(人権理事会決議17/4、2011年6月16日採択)が、国際法上の新たな法的義務を設けるものではないということを前提としたものであり、その理解と受容のためのさまざまな取り組みが始まって間もない時に法的拘束力を持つ国際的文書を求めるという提案を容易には受け入れられないということからでした。賛否の溝は深く、決議は票決によって採択されましたが、先進国の多くは反対票を投じました。そのような事情で、この政府間作業部会には日本を含む主要先進国の欠席が目立ちました。

 政府間作業部会の第1回会合の議長は、決議採択に中心的な役割を果たしたエクアドル政府代表が選ばれました。この会合の主な検討課題は、将来できるとすればその文書の内容、対象範囲、形態、性格はどのようなものであるべきかを検討することでした。一般討論では、専門家、政府代表、NGO代表のいずれも、多国籍企業による人権侵害、特に資源を持つ開発途上国と先住民族が被っている被害の深刻さと法的拘束力を持つ条約の必要を訴える意見が多く出されました。それに続いて、次の8つのパネルディスカションがありました。

1. ビジネスと人権に関する指導原則の実施:すべての国による約束の再確認
2. 人権に関して、国境を越えて事業を展開する企業及びその他の企業に対し国際的に法的拘束力を持つ文書が持つべき原則
3. 国境を越えて事業を展開する企業及びその他の企業:国際法上の概念と法的性格
4. 国境を越えて事業を展開する企業及びその他の企業の活動に関して、文書で扱うべき人権
5. 国境を越えて事業を展開する企業及びその他の企業による人権尊重を確保する国家の義務(領域外における義務を含む)
6. 国境を越えて事業を展開する企業及びその他の企業の、人権に対する負の影響を予防し、軽減し、被害者を救済することを含む、人権尊重に対する責任の向上
7. 国境を越えて事業を展開する企業及びその他の企業の法的義務: 企業のどのような行為に対してどのような法的義務を定めるかの基準
8. 救済へのアクセスのための国内的及び国際的制度作り、国境を越えて事業を展開する企業及びその他の企業による人権侵害に関する国際協力、そして国連人権高等弁務官事務所の「責任の所在の明確化と救済のプロジェクト」

 第1回会合ということもあって、パネルディスカションでは、今後の検討過程で取り上げるべき課題と論点が参加者からの意見として出されましたが、深く議論するまでにはいたりませんでした。しかし、各パネルディスカションのテーマを見ることによっても今後の議論の方向性を推し量ることはできます。また、これからの検討過程が、大変長く、複雑で、難しい議論の連続であることも容易に想像できます。いずれにしても、企業に対して国際法のもとで法的拘束力を持つ文書が数年のうちに出来るということはなさそうです。

 第2回会合は、2016年6月26日から開かれますが、そこでは第1会合と同じく、作成すべき文書の内容、対象範囲、形体、性格はどのようなものであるべきかを検討することになっています。 (白石 理)

<参考資料>(英語)

DRAFT - Report of the Open-ended intergovernmental working group on transnational corporations and other business enterprises with respect to human rights
http://www.ohchr.org/Documents/HRBodies/HRCouncil/WGTransCorp/Sessio
n1/Draftreport.pdf

人権理事会決議26 9.pdf (2014年6月26日)

(2015年09月02日 掲載)